こちらは蛸山と海老尾がいる研究所である。
「それにしても、君の潜在能力には恐れ入ったよっ!」
蛸山が海老尾を褒(ほ)め称(たた)える。
「いや、そう言って頂くと、かえって恐縮します。マグレですよ、マグレっ!」
海老尾は笑いながらマグレを強調して言った。海老尾の潜在意識の中に住むレンちゃんと老ウイルスが極悪ウイルス群のアジト殲滅(せんめつ)させたことを海老尾自身は知らない。海老尾がその事実を知るのは少し先の夢の中の遭遇である。
「ははは…マグレで、こう上手(うま)くはいかんよっ! あっ、そうだった!! 官房副長官の蟹岡君に知らせんといかんっ!」
「それそれっ!! 一刻を争います、早く早くっ!!」
気づいた蛸山に海老尾が同調して煽(あお)った。蛸山はすぐに携帯を手にした。
「蛸山ですっ! ああ、はいっ! ただいま、新ベクターの"#$%&#が発見されました。直ちに実用段階の応用に入りますっ! 岸多総理および関係所管にはよろしくお伝え下さいっ! … はい、分かりましたっ! ではっ!」
「どうでした?」
「取り急ぎ、よろしく頼みます・・とのことだっ!」
「ウイルスが広がってるようですっ! 所長、急ぎましょう!!」
「ああ…」
海老尾はすぐ、席へ座り直し、蛸山も自席に戻(もど)った。極悪ウイルス群の国内への浸潤は早まっていた。一刻の猶予も許されないのである。新ベクターの"#$%&#の培養を急がねばならない。蛸山と海老尾のふたたびのバトルが開始された。相手は見えず手に負えない極悪ウイルス群である。戦闘相手が見えないのは盲目で争うにも等しい。ただ一つ、使える武器は電子顕微鏡のみであった。
その頃、そんなことになっていようとは露ほども知らない海老尾の潜在意識の中のレンちゃんと老ウイルスは赤穂浪士の討ち入りの引き上げのように、粛々と現場を離れていた。極悪ウイルス群のアジト察知こそ、新ベクター"#$%&#による効果といえた。
続