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水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

世相ユーモア短編集 -15- アポ

2024年12月06日 00時00分00秒 | #小説

 アポ・・とは、すでに和製英語化しているアポイントメントの略で、事前の面会を約束する意味で使用されている。アポを取らないと、出会う機会もないほど世相は流れを速めていると言えるだろう。病院や理髪店、美容院など、最近、何かにつけて事前予約が必要になっている。もう少し、ゆったりとした生活感が欲しい…と思うのは私だけだろうか。ああ、嫌な世相になったものだ。^^
 西暦2052年のとある日である。久宮はいつものように開業している医院の診察室で患者を診ていた。
「…先生、どうでしょう?」
「いや、どぉ~~ってことないですな。十日もすりゃ、フツゥ~にもどります」
 か細い声で心配げに訊(たず)ねる患者の野豚を前に、久宮は安心させようと明るい声で快活に言った。内心は、アンタ、年いってるから、ゆっくり歩かんとまた躓(つまず)くよ…である。^^
「次は?」
「次? 次は一週間後に痛ければ来て下さい。湿布薬と痛み止めは出しておきます…」
「さよですか。どうも…」
 次回予約のアポを確認した野豚は、のっそりと診察椅子から立った。そのとき、電流が流れるような痛みが足首を襲った。
「イタタタ!!…」
 野豚は一瞬、顔を歪(ゆが)めた。
「ははは…大丈夫、大丈夫っ!!」
 久宮は賑やかに呵(わら)った。野豚は、何が面白いっ!! とは思えたがそうとも言えず、足を引き摺りながら軽くお辞儀すると診察室を出た。出た瞬間、野豚は診察室のドアを振り返り、キッ!! と睨(にら)んだ。そのとき、誰が来るかっ!! と、野豚は予約のアポを放棄した。
 そう言わず、痛ければアポどおり来院して下さいよ、野豚さんっ!^^

                   完


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