宮住(みやずみ)は、こんな夢を見ていた。今、焼いたばかりの美味(うま)そうな秋刀魚(サンマ)が皿から忽然と消えたのである。暖かいご飯を茶碗に盛り、熱湯を茶葉を入れた急須に注いで湯呑みへ流し入れ、さあ、食べるかっ! と意気込んだ次の瞬間、消えたのである。皿には添えられた大根おろしが、どこへ行ったのよっ! という怒り顔で消えた焼きたての秋刀魚を探すように見回していた。どうも秋刀魚の奥さんのようだな…と宮住は思った。すると突然、どこからともなく一面識もない一人の漁師が現れた。
『いやねぇ~旦那っ! 最近の温暖化で、さっぱり獲れなくなっちまいましてねっ!!』』
宮住はボリボリと申し訳なさそうに頭を掻く漁師に説明され、忽然と消えた秋刀魚の訳を朧(おぼろ)げながら理解することが出来た。流石に惣菜が大根おろしだけでは…と宮住は思ったが、よくよく考えれば、これも暮らしにくくなった世相の変化なのか…とも思えた。
『秋刀魚、お高いんでしょうねぇ~?』
『はあ、そりゃもう…。なにせ、漁獲量が最盛期の一割以下になっちまっちゃぁ~ねぇ~。ははは…』
『そうですか…』
『ようがしょ! 旦那に値を訊(き)かれたんじゃぁ~、こちとら漁師の意地ってぇ~のがありやすしねっ!』
漁師がそう言うと、消えた焼きたての秋刀魚が、宙にフワフワと浮きながら、どこからともなくスゥ~っと皿の上へ鎮座した。宮住はマジックを見ているかのように、皿の上で湯気を立てる秋刀魚をシゲシゲと見つめた。
『そいじゃ~あっしは、これで…』
漁師は軽く宮住にお辞儀をすると、いつの間にかスゥ~っと消え去った。宮住は不思議な心持ちで箸を手にし、秋刀魚の身を解(ほぐ)すと口中へ放り込もうとした。そのとき、ハッ! と宮住は目覚めた。宮住は、いい夢を見たな…と思うでなく思い、上半身をベッドから起こした。すると、どこからともなく秋刀魚を焼いたいい匂いが宮住の寝室へ漂ってきた。宮住の見た夢は正夢だったのである。宮住は、美味い秋刀魚が食えりゃ、それでいいさ…と、世相の変化などどこ吹く風で忘れることにした。
食べられる健康とシチュエーションがあれば、それで十分に幸せです、宮住さんっ!^^
完