水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

連載小説 幽霊パッション 第二章 (第百一回)

2011年12月14日 00時00分00秒 | #小説

 幽霊パッション 第二章  水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      
    
第百一回
俗世の大悪を滅せよ、と霊界司に命じられたのだから、霊中の霊といえる幽霊平林なのだが、それがなぜ自分なのかは、今もって分からなかった。しかし、まあ、いいか…と幽霊平林は思った。考えてみたところで、所詮(しょせん)は分からぬこと、なのである。
 次の朝が巡り、七時半となった。幽霊平林は霊水瓶(がめ)を時折り確認し、七時よりは少し早めに人間界へと現れた。場所はもちろん、上山の寝室である。ところが、すでにベッドは蛻(もぬけ)の殻(から)で、上山の姿は寝室にはなかった。ベッドに置かれた目覚ましの針は七時十分過ぎを指していた。幽霊平林が早いと思っていた時間は、二十分ほどの誤差で想定より遅れていたのである。七時十分を回れば上山が起きているのは当然で、すでに洗顔を済ませ厨房(キッチン)にいる頃だった。幽霊平林は少し慌(あわ)てぎみにスゥ~っと透過して厨房へ急いだ。幽霊平林の予想どおり、上山は朝食のトーストを焼いていた。
『課長! おはようございます!』
「…んっ? おお、君か、おはよう。偉く早いな。昨晩の今朝だし、何かあったのか?」
『はい、課長のお耳にだけ入れておこうと思いまして…』
「ほう…、なんだ?」
『効力の話です、念力の』
「ああ…如意の筆の話な。その有効範囲か?」
『そうです。きのう戻ってから霊界万(よろず)集で調べたんですよ』
「なんと書いてあった?」
『肝心なところだけ云いますと、効力は無限にして無上、とありました』
「…、ということは、どこにいたって無上で無限の霊力を維持できるってこったぜ」
『ええ…どうも、そのようです』
 幽霊平林は少しダレていた。


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