残月剣 -秘抄- 水本爽涼
《剣聖②》第十九回
「ああ…蟹谷さん。薪はいつもの量を割って下されば結構です。駄賃は帰られる時に包ませて戴きます。それより、あちらの離れで堀川の秋月様がお待ちでございますよ」
「えっ? 秋月…。左馬介ですか?」
「はい。確か、そう申されたようで…」
「いったい何用で?」
「さあ、そこのところはお訊きしておりませんから、しかとは分かりかねますが…」
「そうですか、どうもご面倒をおかけしたようで…」
何事だろう? と、首を捻りながら、蟹谷は左馬介が待つ離れの四畳半へと急いだ。
離れに蟹谷が入った時、左馬介は、うつらうつらと首を縦に振っていた。
「おい! 起きろ、左馬介!」
背を叩かれ、左馬介は驚いて正気に戻った。後方をゆったり見上げると、そこには蟹谷が立っていた。その蟹谷が、ぐるっと回り込むように左馬介の前へと出て、どっしり座る。
「いったい何の用だ? これから薪を割る野暮用があるから、早く云ってくれ」