幽霊パッション 第三章 水本爽涼
第百四回
勧(すす)められるまま、上山は応接セットのソファーに腰を下ろした。続いて、岬と亜沙美もその対面へと座った。
「あらっ! また動いた! 不思議だわ…」
「何がそんなに不思議なんだね、亜沙美君」
「なんか、お腹で太鼓が鳴ってる感じなんです」
「おいおい! 大丈夫か? 病院へ行った方がいいぞ」
驚いた岬が心配顔で妻の亜沙美を見つめた。
「大丈夫よ! 動き方がリズムっぽかっただけ…」
「そうか? 予定より少し早いって云うし、俺は少し心配だな…」
「岬君、奥さんが、そう云ってるんだから大丈夫だよ」
上山が岬を宥(なだ)めにかかった。
『ちょっと、課長! 気づいて下さいよ…って、無理か』
亜沙美の胎内にいる平林は、ふとそう思った。上山はこのとき、ひょっとすると…と改めて思った。
「おい! 平林か?!」
「課長、何を云ってられるんです。平林って、事故死した先輩の平林さんですか?」
「んっ? いや、なんでもない…」
上山は失言に、慌てて口を噤(つぐ)んだ。
「あらっ! また、トントン! って動いたわ」
それを聞き、上山は亜沙美の胎内に紛れもなく昇華した平林がいることを確信した。
その様子は、霊界司のいる霊界鏡に映し出されていた。
『ふむ…、この辺りが限界かのう…霊界番人よ』
『ははぁ~、左様に思われまする~』
『じゃのう…。さすれば、ただちにこの者の記憶を消滅させよ! ひと工夫してのう…。その方法は、そちに委(ゆだ)ねる。このままにはしておけぬ故(ゆえ)に…』
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