水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

連載小説 幽霊パッション 第二章 (第八十八回)

2011年12月01日 00時00分00秒 | #小説

 幽霊パッション 第二章  水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                           
    
第八十八回
『それは、どうも…』
「で、どうなんだ。時間が今はないから、あまり詳しくは聞けんが…」
 上山は水に濡れた手をセンサーブロワの風で乾かしながら云った。ブロワの音が五月蠅(うるさ)く響く。
『えっ? よく聞きとれないんですが?』
「だから、あまり時間がないから、簡単に云ってくれってこった!」
 ブロワ音は、声を少し荒げた上山が手を引っ込めて止まった。
『ああ、はい…。ですから、僕は正確に現れることが出来るってことです。もちろん、その近くには何か知名度の高い目標物がいりますが…』
「ほう、そんなことか。…続きは昼休みに聞こう」
 上山はトイレを出ながら小声で云った。
『はい…。それじゃ、いつものように屋上で…』
 素直にそう云うと、幽霊平林は、あっさりと消えた。当然ながら、いつもの格好よく消えるという所作だけは忘れていない。
 結局、この時はそれで終り、続きは昼休みの屋上へと持ち越された。すでに二人の間には、暗黙の了解というコンビ以上の意思の疎通が出来つつあった。これは、他の者には見えない幽霊平林という存在と、他の者とは語れない上山という存在が作りだした関係だから、と考えられる。そんなことで、幽霊平林は屋上で、フワリフワリと漂いながら上山を待つことにした。人の気配が多い食堂だけは、姿が見えないとはいえ、さすがに落ちつかないからだった。
 昼食が済み、上山は食堂から屋上へとエレベーターで昇った。今回の幽霊平林は一端、霊界に戻ることなく、そのままフワリフワリと屋上で漂い続けていた。というのも、上山に云う内容を考えていたからである。


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