水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

困ったユーモア短編集-31- 軽はずみ(2)

2017年05月11日 00時00分00秒 | #小説

 後日談(ごじつだん)を語らないと、やはり無責任にも思え、その後の小松のパソコン対応と、その結果について語りたいと思う。別に語ってもらわなくてもいいっ! と思われる方は、お読みにならず寛(くつろ)いでいただいても構わない。
 話は前話のハプニングが起きた三日前に遡(さかのぼ)る。小松はその朝、とうとう朝食を食べず、パソコンと格闘していた。妻の直美は「変った人ねっ!」と嫌(いや)みをポツリと、ひと言、呟(つぶや)くと、出かけて行った。とうとう、『どこへ行くんだっ?』とも言えず、小松はパソコンの人になり果てたのである。なり果てた・・とは、パソコンに弄(もてあそ)ばれた・・ということだ。
 昼を過ぎると、さすがに小松も腹が減ってきたので、ひと呼吸おいて昼食にした。直美はすでに昼食の準備もしておいてくれたのだが、いい嫁だ! とも思うことなく、ガッついて食べ、無性に空(す)いた腹を満たした。人間とは妙なもので、腹が満ちると、いい発想が湧(わ)くようだ。━ 腹が減っては戦(いくさ)は出来ぬ ━ とは、まさにそれで、小松は急に閃(ひらめ)いたのだった。そして、そのとおりパソコンを操作すると、あれほど弄(いじく)っても、ウン! ともスン! とも言わなかったパソコンが、微(かす)かな音を発し復帰したのだった。それからは、アレヨアレヨという間に、元の状態へ戻っていた。腕をみると、すでに夕方近くになっていた。直美はとっくに帰り、夕飯の支度(したく)をしているようだった。小松の一日は完全にパソコンに支配されて身動きが取れず、関ヶ原の戦いに間に合わなかった徳川秀忠公のような哀(あわ)れな状態に立ち至ったのだった。
 というのがコトの経緯と結果である。小松は、物事は慎重にやらねば…と己(おの)が心を戒めた。ただ一つ、軽はずみで困った結果、やり遂げた充足感だけは小松の心に残ることになった。

                             完


この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 困ったユーモア短編集-30... | トップ | 困ったユーモア短編集-32... »
最新の画像もっと見る

#小説」カテゴリの最新記事