御津池(みついけ)が冷蔵庫を開けると、困ったことに食べ物がなかった。確か、記憶では買い置きして冷蔵庫の中は満杯のはずだった。それが、空腹状態で心勇んで開けてみれば、ほぼ空(から)に近かった。そんな馬鹿なことはないっ! と少し腹が立った御津池だったが、愚痴ったところで空のものは仕方がない。ないものはないのだ。これほど食べ物がないことを意識して思ったのは御津池にとっては初めての経験だった。今の世は飽食の時代である。お金さえ出せば、食べ物がいくらでも手に入る有り難い時代なのだ。
「ぅぅぅ…どこへいったぁ!」
腹ペコもあり、御津池は思わず叫んでいた。叫んだあと、ふと、御津池は思った。今日は確か、土曜だったよな…と。部屋へ戻(もど)った御津池は机に置かれた小ぶりなカレンダー立てを手にした。今日は日曜だった。ということは…と、御津池は考えた。ああっ! と御津池は口走った。御津池は一週間前に買い物をしたことを頭に描いていたのである。それから買い物は今日までしていなかったのだ。当然、食べ物は御津池によって食べつくされた訳だ。昨日、御津池は、そろそろ買い物に…と思っていた矢先だった。それがどういう訳か今日になり、思い込み違いをしたのだった。そう分かったが、家の中に食べられそうな物はなかった。
「ぅぅぅ…」
御津池は財布を手にして家を走り出ていた。向かうは本所(ほんじょ)松坂(まつざか)町! 吉良(きら)の屋敷・・ではなく、家近くにあるコンビニだった。そのとき、御津池は飢えに苦しむ他国の人々のことを、偉そうに思った。そして日本はいい国だ…と有り難さを実感しながら、通行人も気にせず買ったパンに齧(かじ)りついていた。さもしく齧る御津池の姿は、困ったことに難民そのものだった。
完
最新の画像[もっと見る]