水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

連載小説 幽霊パッション 第二章 (第百六回)

2011年12月19日 00時00分00秒 | #小説

 幽霊パッション 第二章  水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      
    
第百六回
確かに、常識では起こり得ない世界情勢の急変ぶりに違いなかった。
「効果はバッチリだな…」
 思わずニタリと微笑み、上山は呟(つぶや)いていた。
「どうか、されました?」
 店員が怪訝(けげん)な表情をしている。
「いや、こちらのことです…」
 うっかりした自分に反省しながら、上山はカムフラージュした。店員がブース内へ引っ込むと、上山は辺りを見ながら左手首をグルリと回した。他の者に見えない幽霊平林だから、別に辺りを気にする必要はないのだが…。それは、ともかく、幽霊平林は即座にパッ! と現れた。
『課長! どうでした!』
 幽霊平林も気になっていたとみえ、上山が手にする号外を覗(のぞ)き込んだ。
「まあ! まあまあだな…」
 歩きだした上山は、人の気配を察し、小声で呟いた。駅構内を往来する人の動きは激しい。自動改札からホームへ入ると、さすがに人も、まばらになる。上山としては、ひとまずは、やれやれ・・と胸を撫で下ろす気分だ。というのも、ブツブツと独り言のように呟く姿は、人にそう見せたくないからだった。何を思われるか知れたものではない。幽霊平林は当然のように上山の上後方、左右の上横をスゥ~っと流れて追随していた。実態がないから前方から近づく人と、ぶつかる心配は、まったくなく、透過できる。人間なら怪我ものだが、こういう幽霊独特の都合よさは、あった。上山も、この辺りの気遣(づか)いは、しなくてよいから助かっていた。さて、ホームへ出た二人は電車を待つ態でベンチへ座った。もちろん、幽霊平林は座る態で、プカリプカリと浮かんでいるのだが…。


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