水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

世相ユーモア短編集 -33- 慣例

2024年12月24日 00時00分00秒 | #小説

 日本人はどうも慣例に弱い民族のようだ。この慣例という魔物は、目に見えない速度で少しずつ人々の間にウイルスのように忍び寄る性質がある。人々の目には見えず、時折り、悪さをする点は、どちらもよく似通っている。^^ 最近、巷(ちまた)を席巻している国会議員さん達の政治資金収支報告書・未記載問題も、少しずつ資金記載の流れが緩んで慣例となった悪い一例だろう。地検・特捜部も俄かに色めき立っているが、この立件にしたって、かなり以前に立件出来たはずなのである。どうも仕事が慣例となり、少しずつ緩くなっているようだ。議員さんは当然、そうだが、官憲さんもこれでは、もはや手の施しようがない。^^
「あれっ! 俺の海老はっ!!?」
 戸澤家の長男、大也(たいや)が部活を終えて帰るや早々、冷蔵庫を開けて叫んだ。たかが海老の天麩羅一匹なのだが、大也にすれば事件のような大ごとである。
「なんだ大也、帰ってたの。お帰りなさい…」
 抜けたタイヤのように萎(しお)れている大也を見て、キッチンに入ってきた母親の里香が気のない返事をした。
「俺の海老はっ!!?」
「昼、出張帰ってきたお父さんが、腹が空いたってインスタント・ラーメンに乗せて食べてたわよ…」
「チェッ!! またかよ…」
「お父さんが冷蔵庫を物色するのは慣例なんだから、どうしようもないでしょ。ラップに包(くる)んで、名前書いて入れときなさいよっ!」
「ラップにっ!?」
「そう赤マジックがいいわね…」
「そこまで…」
「慣例は、そこまでしないとダメね…」
「そうするか…」
 大也は頷いて浴室へ消えた。
 慣例になっている内容は、相当手荒なことをしないと防止出来ないようです。^^

                   完


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