本日4月10日は、日本で記録に残る最古の日食があった日で、比叡山寺が嵯峨天皇の勅により寺号を延暦寺に改めた日で、鎌倉幕府が蒙古来襲に備えて西国御家人らに防備を命じた日で、フランス王フィリップ4世が初の三身分合同会議を開催した日で、徳川光圀が『大日本史』の編纂に着手した日で、シュレージェンのモルヴィッツでフリードリヒ2世率いるプロイセン軍がマリア・テレジア率いるオーストリア軍を破った日で、インドネシアのタンボラ山で過去最大規模の噴火が始まった日で、オーストリアのマクシミリアン大公がメキシコ帝国皇帝に就任した日で、イギリス国会議事堂の時計塔に重さ13.5トンの大時鐘が完成した日で、板垣退助らが高知で日本初の政治結社「立志社」を結成した日で、治安警察法により労働農民党・日本労働組合評議会・全日本無産青年同盟に解散命令が出された日で、明仁親王殿下(当時)と正田美智子様の結婚の儀が執り行われた日で、瀬戸大橋が開通した日で、イギリスとアイルランドの間で和平合意「ベルファスト合意」が締結された日です。
本日も倉敷は晴れでありました。
最高気温は十四度。最低気温は八度でありました。
明日も予報では倉敷は晴れとなっております。
狐が大学に通つていた頃のお話。
狐の友人が或る晩の事、高尚な講義を聴いて下宿に帰つてみると卓の上に斯様な手紙があつた。
『貴女の御関係なすつておいでになる男性の事を或る偶然の機会で承知しました。
其の手続きは如何でも好い事だから申しません。
私は其の男性の妻だと只今迄思つていた女です。
私は貴女の人柄を推察してかう思います。
貴女は決して自分のなすつた事の成行が如何なろうと其の成行の為に前になすつた事の責を負わない方ではありますまい。
また貴女は御自分に対して侮辱を加えた事の無い第三者を侮辱しておきながら、其の責を逃れようとなさる方でも決してありますまい。
私は貴女が度々拳銃で射撃をなさる事を承つています。
私は此れまで武器というものを手にした事がありませんから、貴女のお腕前がどれだけあろうとも拳銃射撃は私より貴女の方がお上手だと信じます。
其処で私は貴女に要求します。
其れは明日午前十時に下に書き記してある停車場へ拳銃御持参で御出で下されたいと申す事です。
此の要求を致しますのに私の方で対等以上の利益を有しているとは申されますまい。
私も立会人を連れて参りませんから貴女もお連にならないように希望いたします。
ついでながら申しますが、此の事件について前以て問題の男性に打明ける必要はないと信じます。
其の男には私が好い加減な事を申して今明日の間遠方に参つていさせるように致しました』
此の文句の次に、出会うはずの場所が明細に書いてある。
最後にコンスタンチェと名前が書いてあつた。
苗字は消してある。
友人は其の手紙を読んで暫し悩んだ。
悩んだ末に私・狐を呼びつけて其の手紙を見せて云つた。「意味が分からん」
手紙を読んだ狐は「果し状なのでは?」と云つた。「貴女に決闘を申し込んでいるようです」
「だから何で私が見ず知らずの人と決闘をしなければならんのか。其処が分からん」
「男を寝取ったからでは?」
「そんなことはしていない! 私は今まで男と付きあつた経験がない! 処女だ!」
「そんなカミングアウトを力強くされても返答に困ります」
「其れに私は銃を手にしたことなどないぞ。此の手紙は誰かと間違えているのではないか?」
「しかし、貴女の部屋の卓の上に置いてあつたのでしやう?」
「其処だよ。訳が分からんのは。如何やつて部屋に入つたのだ? 郵便受けの中に入つていたのならば出し間違いと推測できるけれども部屋の中の卓の上に置かれていたのだ。怖い怖い怖い」
「ふむん? 男を寝取つたのではない。事実無根ですか?」
「そうだよ。当然だろ! 私は処女だ!」
「そんなカミングアウトを繰り返されても返答に困ります。名前に心当たりは?」
「無い! 誰だ? コンスタンチェって」
狐は考え込んで悩んだ末、友人と共に手紙に書いてある時間に指定されている場所に行つてみることにした。
翌日。
狐は約束の時間よりかなり早く指定されている場所の近くに行つて周囲を探索した。
いざという時の逃げ道の確認の為である。
退路の確保は重要である。
約束の時間前に友人と落ち合って、狐は友人と共に指定されている場所に向かつた。
指定されていた駐車場には大学の先輩Aがいた。
先輩Aは読書家で有名である。
背が高くすらりとしていて黒髪前髪ぱつつんで吊り目の美人さんでもある。
ハイスペック美人さん特有の威圧感が半端ない。
先輩Aは小首を傾げて云つた。「立会人をお連れにならないようお願いしたはずだけれども?」
狐は云つた。「成程。先輩の悪戯だつたのですか」
「そうよ。或の手紙は森鴎外が訳したオイレンベルクの小説『女の決闘』の一節なの」
「それは分かつていました。分からないのは何故に或の様な悪戯を先輩がしたのかということです」
「○○(←狐の友人の名前)さんに御話することがあつて……。普通に呼び出してもつまらないと思って……。つい……」
友人は怯え顔で先輩Aに訊いた。「如何やつて私の部屋の中の卓の上に手紙を置いたのですかっ?」
「昨日の朝、貴女が部屋を出る前に私が貴女の部屋に立ち寄つて一緒に貴女の部屋を出て大学に向かつたでしやう。其の時に貴女の部屋の卓の上に置きました」
友人は悶絶した。「あの時かぁぁぁぁ!!!!」
愚かな。鳥頭め。ローストチキンになるがよい。
狐は先輩Aに尋ねた。「では○○(←狐の友人の名前)に話があるといふことなのですね?」
先輩Aは、「……はい。御騒がせして御免なさい」と云つた後、顔を真つ赫にして黙つてしまつた。
狐は先輩Aの友人を見る瞳が妙に潤んでいるのが気になつた。
しかし如何も繊細で微妙な話のやうだし危険もなさそうなので狐は其の場から立ち去つた。
其の後、狐は友人から先輩Aの話がどのやうな話だつたのかは聞いていない。
狐は淡泊な性格なので、聞く必要がないことは聞かない主義だ。
ただ、狐の友人と先輩Aは其の一件以来、とても仲が良い。
仲良きことは美しき哉。
善きことである。
本日も倉敷は晴れでありました。
最高気温は十四度。最低気温は八度でありました。
明日も予報では倉敷は晴れとなっております。
狐が大学に通つていた頃のお話。
狐の友人が或る晩の事、高尚な講義を聴いて下宿に帰つてみると卓の上に斯様な手紙があつた。
『貴女の御関係なすつておいでになる男性の事を或る偶然の機会で承知しました。
其の手続きは如何でも好い事だから申しません。
私は其の男性の妻だと只今迄思つていた女です。
私は貴女の人柄を推察してかう思います。
貴女は決して自分のなすつた事の成行が如何なろうと其の成行の為に前になすつた事の責を負わない方ではありますまい。
また貴女は御自分に対して侮辱を加えた事の無い第三者を侮辱しておきながら、其の責を逃れようとなさる方でも決してありますまい。
私は貴女が度々拳銃で射撃をなさる事を承つています。
私は此れまで武器というものを手にした事がありませんから、貴女のお腕前がどれだけあろうとも拳銃射撃は私より貴女の方がお上手だと信じます。
其処で私は貴女に要求します。
其れは明日午前十時に下に書き記してある停車場へ拳銃御持参で御出で下されたいと申す事です。
此の要求を致しますのに私の方で対等以上の利益を有しているとは申されますまい。
私も立会人を連れて参りませんから貴女もお連にならないように希望いたします。
ついでながら申しますが、此の事件について前以て問題の男性に打明ける必要はないと信じます。
其の男には私が好い加減な事を申して今明日の間遠方に参つていさせるように致しました』
此の文句の次に、出会うはずの場所が明細に書いてある。
最後にコンスタンチェと名前が書いてあつた。
苗字は消してある。
友人は其の手紙を読んで暫し悩んだ。
悩んだ末に私・狐を呼びつけて其の手紙を見せて云つた。「意味が分からん」
手紙を読んだ狐は「果し状なのでは?」と云つた。「貴女に決闘を申し込んでいるようです」
「だから何で私が見ず知らずの人と決闘をしなければならんのか。其処が分からん」
「男を寝取ったからでは?」
「そんなことはしていない! 私は今まで男と付きあつた経験がない! 処女だ!」
「そんなカミングアウトを力強くされても返答に困ります」
「其れに私は銃を手にしたことなどないぞ。此の手紙は誰かと間違えているのではないか?」
「しかし、貴女の部屋の卓の上に置いてあつたのでしやう?」
「其処だよ。訳が分からんのは。如何やつて部屋に入つたのだ? 郵便受けの中に入つていたのならば出し間違いと推測できるけれども部屋の中の卓の上に置かれていたのだ。怖い怖い怖い」
「ふむん? 男を寝取つたのではない。事実無根ですか?」
「そうだよ。当然だろ! 私は処女だ!」
「そんなカミングアウトを繰り返されても返答に困ります。名前に心当たりは?」
「無い! 誰だ? コンスタンチェって」
狐は考え込んで悩んだ末、友人と共に手紙に書いてある時間に指定されている場所に行つてみることにした。
翌日。
狐は約束の時間よりかなり早く指定されている場所の近くに行つて周囲を探索した。
いざという時の逃げ道の確認の為である。
退路の確保は重要である。
約束の時間前に友人と落ち合って、狐は友人と共に指定されている場所に向かつた。
指定されていた駐車場には大学の先輩Aがいた。
先輩Aは読書家で有名である。
背が高くすらりとしていて黒髪前髪ぱつつんで吊り目の美人さんでもある。
ハイスペック美人さん特有の威圧感が半端ない。
先輩Aは小首を傾げて云つた。「立会人をお連れにならないようお願いしたはずだけれども?」
狐は云つた。「成程。先輩の悪戯だつたのですか」
「そうよ。或の手紙は森鴎外が訳したオイレンベルクの小説『女の決闘』の一節なの」
「それは分かつていました。分からないのは何故に或の様な悪戯を先輩がしたのかということです」
「○○(←狐の友人の名前)さんに御話することがあつて……。普通に呼び出してもつまらないと思って……。つい……」
友人は怯え顔で先輩Aに訊いた。「如何やつて私の部屋の中の卓の上に手紙を置いたのですかっ?」
「昨日の朝、貴女が部屋を出る前に私が貴女の部屋に立ち寄つて一緒に貴女の部屋を出て大学に向かつたでしやう。其の時に貴女の部屋の卓の上に置きました」
友人は悶絶した。「あの時かぁぁぁぁ!!!!」
愚かな。鳥頭め。ローストチキンになるがよい。
狐は先輩Aに尋ねた。「では○○(←狐の友人の名前)に話があるといふことなのですね?」
先輩Aは、「……はい。御騒がせして御免なさい」と云つた後、顔を真つ赫にして黙つてしまつた。
狐は先輩Aの友人を見る瞳が妙に潤んでいるのが気になつた。
しかし如何も繊細で微妙な話のやうだし危険もなさそうなので狐は其の場から立ち去つた。
其の後、狐は友人から先輩Aの話がどのやうな話だつたのかは聞いていない。
狐は淡泊な性格なので、聞く必要がないことは聞かない主義だ。
ただ、狐の友人と先輩Aは其の一件以来、とても仲が良い。
仲良きことは美しき哉。
善きことである。