狐の日記帳

倉敷美観地区内の陶芸店の店員が店内の生け花の写真をUpしたりしなかったりするブログ

呑む時は口実が必要よ。そう思わない? さもないと人は単なる呑んだくれにすぎないもの。

2020年04月14日 23時36分14秒 | 知人、友人に関する日記
 本日4月14日は、源満仲の密告により源高明が皇太子・守平親王廃立陰謀の容疑で大宰権帥に左遷された日で、ハドリアノポリスの戦いでラテン帝国軍がブルガリア帝国軍に大敗して皇帝ボードゥアン1世が捕虜となった日で、鎌倉幕府が蒙古再来に備えて九州の裁判と軍事指揮を行う鎮西探題を博多に設置した日で、箱根用水の全長1200メートルの隧道が貫通した日で、アメリカ合衆国大統領エイブラハム・リンカーンがワシントンのフォード劇場で狙撃された(翌日死亡)日で、豪華客船タイタニック号がニューファントランド島沖で氷山に衝突した日で、第1回モナコグランプリ開催された日で、スペイン国王アルフォンソ13世が退位して王政が廃止されてスペイン第二共和政が成立した日で、日本で濱口雄幸首相が前年11月に狙撃されたことが元で病状が悪化して濱口内閣が総辞職した日で、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(独占禁止法)が公布された日で、バングラデシュ・ゴパルゴンジで史上最大の1キログラムの雹が落下して92人が死亡した日で、ナポリの米軍クラブで車爆弾が爆発して22人が死亡した日で、光市母子殺害事件が起こった日で、国際ヒトゲノム計画によってヒトゲノム解読の全作業を完了した日で、中国のチベット州自治区でMw6.9の青海地震が発生して少なくとも2698名が死亡して10万名以上が家屋を失った日で、熊本地震があった日です。

 本日の倉敷は晴れでありましたよ。
 最高気温は十六度。最低気温は六度でありました。
 明日も予報では晴れとなっております。





 或る肌寒い春の夜のこと。

 狐は或るパブリック・ハウスの卓子席に腰をかけて、絶えずミルクを舐めてゐた。
 その頃狐はお仕事が終わると暇を持て余し自室でごろごろして本でも読んでいるかそれに飽きると当てどもなく散歩に出てあまり費用のかからぬ酒精を出すお店でミルクを舐めるが毎日の日課だつた。
 其のパブリック・ハウスは狐の部屋から近くもあり何処へ散歩するにも必ず其の前を通る様な位置にあつたので随って一番よく出入りした訳であつたが狐の悪い癖でバーに入るとどうも長くなつてしまう。
 其れも元来御酒に強い方なのだが嚢中の乏しい所為もあつて高いお酒を注文すること無く温めたミルクを何杯もお代わりして一時間も二時間もぢつとしているのだ。質の悪いお客である。
 そうかといつて別段店員さんに思召しがあつたりする訳ではない。
 まあ自室より何となく居心地がよいのだろう。
 狐はその晩も例によつて一杯のミルクを十分もかかつて舐めながらいつもの往来に面した卓子に陣取つてぼんやり窓の外を眺めていた。

 さて其のパブリック・ハウスの丁度真向こうに一本の桜の樹が或る。
 実は狐は其の桜の樹を眺めていたのだ。
 立派で大きな桜の樹なのだがもはや御花を散らしかけていて別段眺める程の景色でもない。しかし狐には一寸興味があつた。
 狐は三十分程も同じ所を見詰めていた。
 其時、狐の友人が窓の外を通りかかつた。
 狐の友人は狐に気が付くと会釈して中に入って来た。
 そして葡萄酒を命じて置いて狐と同じ様に窓の方を向いて狐の隣に腰をかけた。
 そして狐が一つの所を見詰めているのに気付くと狐の友人は狐の視線を辿つて同じく向こうの桜の樹を眺めた。
 しかも不思議な事には狐の友人も亦如何にも興味ありげに少しも目を逸らさないで其の方を凝視し出したのである。
 狐達はさうして申しあわせた様に同じ場所を眺めながら色々な無駄話を取交した。

 だが或る瞬間、二人は云い合せた様に黙り込んで了つた。
 「君も気づいている様ですね」と狐が囁くと友人は即座に答えた。「桜のお花が散りかけています。私達はお花見をしていなかつたのに」
 「お花見をする機会を逸してしまいましたね」
 「お花見をする機会を逸してしまいました」
 「でも呑む名目は幾らでも作れますよ」
 「呑みたいのではありません。風雅の問題です。桜のお花は散りかけています。嗚呼。君は風流というものを解さない人でしたね」
 「如何にも。私は風流というものを解さない僕人参ですもとい朴念仁です」
 「しかし、呑む機会は逃さない、其れが我等の鉄の掟です。機会を逃したのも残念です」
 「残念です。しかし過ぎたことは是非も無しと申します」
 「ふむん。如何にもその通りです」
 「機会は作ればよいのです」
 「ふむん。如何にもその通りです。呑む機会は私が作ると致しませう。スケジュール合わせはお願いします。けれども、当分は無理そうです。そこは了承してください」
 「了解しました」
 「処で君は何故バーの卓子に座っているのに御酒を呑まずにミルクを舐めているのですか?」
 「それは美味しいからです」
 「ミルクが?」
 「ミルクがです」
 「ふむん?」

 さうして呑み会の約束をした後、狐と狐の友人はパブリック・ハウスを出て或る横町で別れを告げた。
 其の時、狐は横町を曲がつてモデルのような歩き方でカツカツと足音を鳴らしながらさつさと帰っていく友人の後姿が暗闇の中にくつきりと浮き出して見えたのを覚えている。


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『海獣の子供』第1巻/五十嵐大介

2020年04月14日 21時32分02秒 | 漫画・ゲームに関する日記
 昨日の夜は、五十嵐大介の漫画『海獣の子供』の第1巻を読んでいました。

 自分の気持ちを言葉にするのが苦手な中学生の琉花は、長い夏休みの間、家にも学校にも居場所がなく、幼少期に大好きだった水族館へ行き不思議な少年・海と出会う。
 翌日、父親の働いている水族館へと足を運ぶと彼女は、海と再び会い、父親に海の面倒を見ることを命じられた……。
 同じ頃、海に隕石が落ち、海で異変が起きていた……。

 この作品は、第38回日本漫画家協会賞優秀賞と第13回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞しております。

 五十嵐大介という漫画家は、幻想的なイメージを写実的に描く圧倒的な画力を持っています。
 この漫画の第1巻を読んで感じたのは、重心や重力を表現するのがとても上手い作家さんだなあ、ということ。
 一枚の絵で動きを表してしまう。上手いです。
 そして言葉では伝えることが出来ないことを漫画で表現しようとしていること。非常に野心的です。

 面白かったですよ。
 続きを読んでいこうと思っているところなのでございます。




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百夜の悲しき常闇に卵の来生を統神に祈む

2020年04月14日 19時08分28秒 | VSの日記
 昔、蔵屋敷が立ち並ぶ通りに源助という金持ちの商人が住んでいた。
 此の人にお園という一人の娘があつた。
 お園は非常に怜悧で、また美人であつたので、源助は田舎の老師の教育だけで育てる事を遺憾に思い、信用のある従者をつけて娘を京にやり、都の婦人達の受ける上品な芸事を修業させるようにした。
 斯うして教育を受けて後、お園は父の一族の知人の商人に嫁けられ、ほとんど四年の間其の男と楽しく暮した。

 然るにお園は結婚後四年目に病気になり死んでしまつた。
 其の葬式のあつた晩にお園の遠縁の子である狐という変わつた名前の子供が、『お園さんが二階の部屋に居たよ』と云つた。
 お園は狐を見て微笑んだが、口を利きはしなかつた。
 それで狐は不思議に思って二階から降りてきて大人に話したのであつた。

 そこで、一家の内の誰れ彼れが、お園のであつた二階の部屋に行つてみると、驚いたことには、其の部屋にある位牌の前に点された小さい灯明の光りで、死んだ女の人の姿が見えたのである。
 お園は箪笥即ち抽斗になつている箱の前に立つているらしく、其の箪笥にはまだお園の飾り道具や衣類が入つていたのである。
 お園の頭と肩とはごく瞭然はつきり見えたが、腰から下は姿がだんだん薄くなって見えなくなつている――恰も其れが本人の、はつきりしない反影のように、又、水面における影の如く透き通つていた。

 其れで人々は、恐れを抱き部屋を出てしまい、下で一同集つて相談をした。
 お園の夫の母の云うには『女というものは、自分の小間物が好きなものだが、お園も自分のものに執著していた。たぶん、其れを見に戻つたのであろう。死人でそんな事をするものも随分あります――其の品物が檀寺にやられずにいると。お園の著物や帯もお寺へ納めれば、たぶん魂も安心するであろう』
 其れで、出来る限り早く、此の事を果すという事に極められ、翌朝、抽斗を空にし、お園の飾り道具や衣裳はみな寺に運ばれた。
 然しお園は次の夜も帰って来て、前の通り箪笥を見ていた。
 其れからその次の晩も、次の次の晩も、毎晩帰つて来た。
 なので、此の家は恐怖の家となつた。

 狐は、お園姐さんが自分を祟つたりはすまいと考え、お園姐さんが箪笥の中に何か隠しものをしていたのならばまだそれは箪笥の中にあるに違いないと考えて幽霊の出る部屋に入つた。
 すると、お園の姿が不意に箪笥の前に、いつとなく輪廓を顕して現れた。
 其の顔は何か気になると云つた様子で、両眼をぢつと箪笥に据えていた。
 狐はお園に話しかけた。
 『私は御姐さんのお助けをする為に、此処に来ました。定めし其の箪笥の中には、御姐さんの心配になるのも無理のない何かがあるのでしやう? 御姐さんの為に私が其れを探し出して差し上げましやうか?』
 影は少し頭を動かして、承諾したらしい様子をした。
 そこで狐は一番上の抽斗を開けてみた。
 然し、それは空であつた。
 続いて狐は、第二、第三、第四の抽斗を開け、抽斗の背後や下を気をつけて探した。
 然し何もない……。
 お園の姿は前と同じように、気にかかると云ったようにぢつと見詰めていた。
 『どうしてもらいたいと云うのかしら?』と狐は考えた。
 が、突然こういう事に気がついた。
 抽斗の中を張ってある紙の下に何か隠してあるのかもしれない。
 と、そこで一番目の抽斗の貼り紙を剥がしたが――何もない。 
 第二、第三の抽斗の貼り紙をはがしたが――それでもまだ何もない。
 然るに一番下の抽斗の貼り紙の下に何か見つかつた。一冊の薄い草紙である。
 『御姐さんの心を悩ましていたものはこれ?』と狐は訊ねた。
 女の影は狐の方に向つた。
 その力のない凝視は草紙の上に据えられていた。
 『私がこれを焼き棄てましょうか?』と狐は訊ねた。
 お園の姿は狐の前に頭を下げた。
 『すぐに焼き棄て、私の外、誰れにもそれを読ませません』と狐は約束した。
 姿は微笑して消えてしまった。

 草紙は焼き棄てられた。
 それは顎が尖った若い男二人が睦み合う表紙の草紙であつた。
 草紙が焼き捨てられた後、果してお園の影は遂に顕れなかつた。


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