羊日記

大石次郎のさすらい雑記 #このブログはコメントできません

恋仲 1

2015-07-22 22:30:47 | 日記
ウェディングドレス姿のあかりの待つチャペルへ、三浦葵は海岸沿いを走っていた。蒼井翔太も新幹線から降りてホームを走っていた。「アオイさん遅いですね」チャペルのスタッフはあかりに言った。結婚式当日、一人は新郎として、一人は友人代表として、二人は走っていた。
3人が再会する前、葵はアシスタントとして東京の建築事務所で働いていた。押しが弱く人の良い葵は仕事で交渉するのが苦手で、あまり上手くいっておらず、交際していた同僚の冴木にも振られていた。「お前変な食べ方するなぁ」仕事の後で磯原達と食事に行き、溶いた生卵に餃子を浸けて食べて呆れられたりもしていた。
帰宅すると、高校の友達の公平から電話があり、SNSを見ろと言う、見ると、同窓会の誘いだった。苦笑しながら画面を見ていたが、必要な持ち物は『あの頃の思い出』と書いてあり、あかりとの日々を思い出した葵。思わず『芹沢あかり』を検索するが、あかりは未登録だった。窓側のスペースに置かれたワンピースの単行本に目をやる葵。51巻だけ無かった。
高校3年の夏、水泳部の葵は最後の大会に出ていた。「葵ぃッ!! 行け!」当時のあかりは笑顔で声援を送ってくれた。大会の結果は意識し過ぎてフライングしてしまい、失格だった。帰宅して、ドアに貼った筋トレメニューの張り紙を剥がそうとすると、あかりがドアを開けてきて、頭を打たれた葵。「あ、痛ぇっ」「もしかして泣いてた?」今日の失敗と子供の頃、チビでイジメられっ子だったことを引き合いに散々イジってくるあかり。それでも部屋のワンピースの単行本を取ってベッドで呑気に読み出すもう子供ではないあかりにドギマギする葵。家まで送ると、「葵らしくて格好よかった、バイバイ」と笑顔で去ってゆくあかりに、(ずっと、恋をしていた)と、後の葵は思い返した。
その日、建築事務所で
     2に続く

恋仲 2

2015-07-22 22:30:39 | 日記
働いていると、翔太が訪ねて来た。最初に再会したのは翔太だった。垢抜けた様子の翔太は「話がある」と言ってきた。高校時代、翔太が葵達の富山の高校に転入してきたのも3年の夏だった。
どうも暗い翔太は、名字の音が同じ『アオイ』だと、葵が話し掛けても薄い反応だった。公平は屋上で翔太のことを絡み辛いとグチりつつ、夏祭りに意中の女子を誘うと勢い込んでいた。公平へ葵にもあかりを誘えと煽った。「幼馴染みの付かず離れずの関係なんて、あだち充の世界にしかねーんだからな」公平なりに気にかけてるようでもあった。
公平は速攻フラれた。そして橋から川に飛び降りると大騒ぎしだした! なんとか落ちそうな公平の手を取る葵。通り掛かった翔太も手を貸した! と、風が吹いた。遠巻きに見ていた女学生達のスカートが捲れた!!「苺?」公平は見とれて急に立ち上がり、体勢を崩された葵と翔太は川に落ちて行った。ずぶ濡れにはなったが、特に怪我も無く、葵と翔太は河川敷に上がってきた。葵と公平が口喧嘩しだすと翔太が笑いだし、一同はなんとなく流れで富山名物ブラックラーメンを食べにゆくことになった。失恋した時に食べるとか。「旨っ!」気に入った翔太を公平は認めた風であった。また「PKを外すことのできる者のはなぁ、蹴る勇気を持った者だけだ」とサッカー名言を吐き、公平は懲りてないようだった。
帰ると、あかりが上がり込んでいて、葵の建築家の職業紹介本を読んでいた。面白がったあかりは葵のテストの答案の裏に『理想の家』を描き出した。それは簡単に描かれた海辺の家で、「建築家になったら、こういう家造って」あかりは冗談めかして言った。
それから葵、あかり、翔太、公平の四人は急速に仲良くなって行った。いつも一緒にはしゃいでいた。そんなある日、
     3に続く

恋仲 3

2015-07-22 22:30:29 | 日記
サッカー部のモテモテの内田なる男があかりに告白した。他愛なく嫉妬した葵は、帰りしな、止せばいいのに「行けば? からかわれてるだけなんじゃねーの? 喜んで、ばっかじゃねーの?」などと言ってしまった! そのまま冷戦状態になった葵とあかりは夏休みになっても和解できずにいて、最初は楽観的に見ていた公平も困りだし、翔太も心配していた。夏祭りが近くなり、家族旅行に出掛けた公平に対応を丸投げされた翔太は「マジか?」と焦った。
一方で、あかりの実家の工場の経営はもう限界だった。そんな事情は知らない翔太は同じく何も知らない葵を夜のプールに呼び出し、取り敢えずプールに落とした!「何すんだよ!!」「元気あるじゃん?」「はぁ?」「思い切り蹴ってみたら? PK」翔太に言われ、意を決した葵は取り敢えず翔太もプールに落としてお返しはしておいた。
葵はその足であかりを訪ね、港に連れ出した。気まずい二人、困った葵は「ワンピースの新刊明日出るらしい」と言い出し、あかりを呆れさせた。いよいよ困った葵はさらに「餃子に生卵付けて食べると旨いって知ってる?」と言うと、「あたしも好き!」と存外乗ってきた!! 意気投合した二人は改まった、「こないだはごめん」「明日、読みに行ってもいい? ワンピース」「ああ」「じゃあ許す!」あかりは帰ろうとした。「花火大会、一緒に行こう。内田なんて断れよ、行くなよ!」「もう断ってるし」「え?」「しょうがない、行ってあげる」二人は笑顔で別れ、葵はガッツポーズした。
翌日、あかりが呉服屋の前で浴衣を見てまごついていると翔太が通り掛かった。あかりは自信が無いらしい。気を利かせ、中へ誘う翔太だったが、髪飾りを付けて嬉しそうなあかりに見惚れてしまっていた。葵もワンピースの51巻を首尾よく購入していた。
帰宅したあかりは愕然とした、
     4に続く

恋仲 4

2015-07-22 22:30:19 | 日記
債権回収業者が来ていた。荒れる業者。父が戻ると、業者は父に絡んで益々荒れ、仏壇の母の遺影まで壊した。連絡つかないあかりに待ちきれなくなった葵はワンピース51巻を持ってあかりの家に向かうことにした。「少し、葵の所に行ってなさい」業者が手に負えなると、父はあかりを家から出した。家の外へ駆け出しすと、ちょうど翔太が来ていた。あかりが呉服屋にケータイを忘れていたので届けにきたのだった。この為に葵とも連絡がつかなくなっていた。「お父さんが」「え?」翔太はすがり付いてきたあかりを抱き締めた。そのタイミングで葵が来てしまった! あかり達は気付いていないが、ショック受けた葵は51巻をゴミ捨て場に捨てて立ち去ってしまった。「あ、ごめん、ケータイありがとう」あかりは我に返って身を離した。
翌朝、葵は海辺に翔太を呼び出した。「話しって何?」「自分が一番よくわかってんじゃねーの?」二人は対峙した。同じ朝、ゴミ出しにきたあかりは51巻を見付けて拾っていた。葵は翔太との話の後で戻ってきていた公平と二人でブラックラーメンを食べにいった。「しょっぺえ」塩気が沁みた葵。あかりは51巻を拾っただけでなく、同日に父から「すまない」と話を切り出されていた。
祭の夕方、待ち合わせの場所で浴衣姿のあかり思い詰めた顔で待っていた。現れたのは、翔太だった。「どおして? 葵は?」「替わりに行ってやってくれって言われて」夜になり、心ここにあらずなあかり、「ごめん。私、行かなきゃ」花火の上がる頃、あかりは翔太に別れを告げ、走った。一度、翔太に腕を取られたが、振りほどき走った! 堤防の所で、葵は一人で花火を見ていた。「やっぱり、ここにいた」あかりが呼吸を整えながら来た。「なんで?」「葵と一緒に見たかったから」二人は並んで堤防に座った。
     5に続く

恋仲 5

2015-07-22 22:30:07 | 日記
「ねぇ、大人になっても、葵は葵だろうね」「急になんだよ」「これからもさぁ、葵、きっとまた失敗ばかりしちゃうだろうけどぉ、あたし、応援してるから、ずっと」「じゃあさ、明日から英語教えてよ、富山中央大、一緒に行けるよう」もう限界で泣きそうになるあかり、「あのね、あたし」葵が微笑んで振り向くと目が合い、「浴衣似合わないね」あかりは笑った。巻き込みたくなかった。「そんなこと」葵が言いかけると、あかりはキスをして、葵の口をふさいだ。「バイバイ、葵」あかりは笑顔で行って去って行った。
その夜、あかりとあかりの父は夜逃げした。工場には何も残っていなかった。連絡もつかない。翔太は葵の机の引き出しにメモの添えられた51巻を葵より早く見付け、それを奪っていた。そうして、7年が過ぎてしまった。
仕事中の建築事務所ではゆっくり話ができず、改めてレストランで翔太と待ち合わせた葵、慣れない高価そうなレストランに戸惑っていると、「会わせたい人がいるんだ」翔太は言い出し、程なく、あかりが現れた。「あかり」「葵、どおして?」「黙っててごめん、驚かせようと思って」「どういうこと?」「葵にはちゃんと話しておきたかったんだ、俺達付き合ってるんだ」あかりは複雑な表情をし、葵は驚くばかりだった。
・・・親友でライバルのはずの翔太がちょっと女々しいというか、姑息というか、何か真意があるとかなんか人格的フォローがほしいところかな?