『Starman今夜の1枚!』(Vol,5) Gerry&The Pacemakers「How do you like it?」&「Dont let the sun catch you crying」
今回ご紹介するのは「ジェリー&ザ・ペースメーカーズ」です!この名前に「聞き覚えがある」と言うあなた!そして「無い!」とキッパリと言い切るあなた!どちらにも分かりやすくお伝えしますので、どうぞ引き続きお読み下さい!
まず彼らは、あの「ビートルズ」や、前回紹介した「サーチャーズ」と並び、リヴァプール出身であり、彼らと同様にデビュー前にドイツのハンブルグで数多くのギグをこなした修行バンド軍団の1つなのです。残念ながら当時活躍した数多くの「ブリティッシュ・インヴェンジョン」バンドと同じく短命で終わってしまいましたが、あえて今こそ!彼らの魅力について語りたいと思います。
「ジェリー&ザ・ペースメーカーズ」は、リードヴォーカル&リードギターの「ジェリー・マースデン」と二歳上の兄でドラムの「フレディ・マースデン」を中心に結成されました。重要な点は、なんと!マネージャーがビートルズと同じ「ブライアン・エプスタイン」という点!そしてプロデューサーも、これまたビートルズと同じ「ジョージ・マーティン」!と言う事で、今ではビートルズと比較され「二番煎じ」と結論付けられている彼らなのですが、決してそんな事はありません!今回はUKデビューアルバムの「How do you like it?」
そして、USデビューアルバムの「Dont let the sun catch you crying」
両盤を聴きながら、彼らのオリジナリティ溢れるサウンドについて解説したいと思います。
彼らの特徴の一つは、当時のロックバンドでは珍しく「正規メンバーにピアニストがいる」という点ではないでしょうか。たとえば初期のビートルズではピアノの音が入る際は、プロデューサーのジョージ・マーティンが弾いていますし、その曲数も限られています。アニマルズやデイヴ・クラークファイブでは、ピアノではなく、電子オルガンが取り入れられており、その音色はピアノよりも上で鳴っているフワフワしている印象です。他のバンドでは、リズムギターがビートを刻むのに対し、「ジェリー&ザ・ペースメーカーズ」では、鍵盤弾きの「レス・マクワイア」がその役を務めています。ほぼ全曲で「ピアノ」が演奏されるそのサウンドは、演奏だけを聴くと、例えばビッグ・ジョーターナーやマディ・ウォーターズのような感じにも取れ、非常に興味深いです。ピアノの特性上、左手で低音(ベース音)を弾き、右手でメロディを奏でる事が出来ますので、そのピアノと、エレクトリックベースでのダブルの「ベース音」を奏でることで音に厚みが増しています。それにより、ジェリーがバッキングからリードギターに切り替わっても、音がすかすかに鳴らず、終始素晴らしいグルーヴで演奏されているのです。
聴けば聴くほど、非常に計算されたアレンジである事が分かります。1963年に発表されたこのUK盤デビューアルバムは他のバンド同様、やはりカバー曲が中心なのですが、イングランドの名門サッカーチームである「リヴァプールFC」の応援歌「You never walk alone」は現在でも歌い継がれる余りにも有名な名曲ですし、他にもジャニス・ジョプリンもカバーしたジョージ・ガーシュインの「Summertime」等、R&Bやブルースとは異なるジャンルを取り入れております。しかも当時のロックバンドでは珍しくストリングス(弦楽器隊)が加わっている点も見逃せません。これはジョージ・マーティンの手腕によるところが大きく、彼の仕事の深さを感じ取れる良い仕事と言えるでしょう。他にも黒人音楽のジャンプ・ブルース的なアプロ―チと、白人のミュージカルやポップス的なアプローチが絶妙に混ざり合っており、アルバム全体として変化に富んだサウンドとなっております。
とは言え、やはり「ストリングス」についてもう少し掘り下げて行くべきでしょう。ビートルズが初めてストリングスを取り入れた曲が1965年の名曲「Yesterday」となることを考えると、前述プロデューサーのジョージ・マーティンが、実は1963年時点で、既にロックとストリングスの融合を色々と試していた・・・という事実、これこそが後のビートルズ・サウンドを見る上でも実に興味深い仕事であり、重要盤と言えるでしょう!ちなみにこの2曲におけるレス・マグワイアのピアノプレイは本当に素晴らしく、いかに彼がアメリカのジャズやブルース・ピアノを聴きこんでいたかが手に取るように分かります!そんなピアノ・プレイもピアノ弾きには注目して聴いて欲しいです。
さて、このアルバムの翌年、1964年に発売されたアメリカでのデビューアルバムが「Dont let the sun catch you crying」となります。UK盤と重複する曲が多いものの、UK盤では1曲しか存在しなかったオリジナル曲が5曲にまで増え、彼らの才能の開花を感じさせる盤に仕上がっています。特にタイトル曲であり、当時の大人気番組「エド・サリヴァン・ショー」でも披露されたオリジナル曲「Dont let the sun catch you crying」や、ジョージ・マーティンの勧めでビートルズがレコーディングし、リリースする予定だったものの、ビートルズが『Please Please Me』を仕上げて来た結果「ペースメーカーズ」に渡され、その結果イギリスで1位を獲得した「How do you do it」など「名曲ぞろい」の盤なのです。
その他にもB面後半の「Slow Down」では、ピアノとギターが凄まじい音圧で迫って来て仰天!さらにその後「Show me that you care」ではブギウギピアノのフレーズに全く新しいリズムを載せた斬新なオリジナル曲を収録しており、最後まで飽きさせず、油断のできない名盤に仕上がっています。デビューアルバムとしての完成度や満足感を言えは、個人的にはコチラのUS盤に軍配を上げたいと思います。
カントリーからR&B、ミュージカルなど様々な音楽を取り入れ、しかもレス・マグワイアの素晴らしいピアノ・プレイによって、当時の他のバンドとの差別化が出来たバンド「ジェリー&ザ・ペースメーカーズ」。彼らもまた60年代初期の「ブリティッシュビート」における「語り継がなければいけないバンド」だと言えるでしょう。
それでは次回もお楽しみに!
《Starman★アルチ筆》
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