さ、寒い!
読者諸賢、調子はいかが?
夜がいきなり涼しくなり、
吃驚しているハウリンメガネである。
コロナやインフルの前に日々の体調にはご注意あれ。
さて、涼しくなってきたということは
これ即ち、秋の到来である。
スポーツの秋、食欲の秋、芸術の秋と
まあ秋というのは何をするにしても気分のいいもので、
筆者も仕事帰りの道すがらあれやこれやと
何をしようかと考えながら帰る日が増えてきた。
やはり基本路線は音楽……
と言いたいところだが、
実は秋めきだしたここ最近、
音楽を聴く時間が減っている。
そう、読書の秋の到来である。
皆さんの中で
音楽を聴きながら読書できる方はおられるだろうか?
実は筆者にはこれがまるっきりできない!
本を読みながら音楽を聴くと音楽に意識がいく、
音楽を聴きながら本を読んでいると本に意識がいく……
一方にしか集中できないのだね。
女の人はわりと並行処理できる人が多いようで、
そんなことを言うと「そぉ?」なんて
軽く返されてしまうことも多いのだが、
私はダメだ。そういうわけで私の場合、
本を読む時間が増えると、
これに比例してリスニング時間が減るのである……
ぬぅ、もどかしい……
そんな私だが、本を読んでいるときに
頭の中で音楽が鳴ることは多い。
文章から受けたイメージから記憶の中の音楽が
無意識に結びつき、脳が勝手にBGMをつけてくれる訳だ。
ここが面白いところで、脳内再生の場合、
音楽は邪魔にならず、文章とびしっとマッチする音楽が
頭で鳴り出すと一種のトランス状態に入るのか
文章はスルスルと読めるわ、
脳内BGMは高らかに鳴りやまないわ
という陶酔の一時へ突入していくのである……
(ヘンなクスリはやってないのでご心配なく。)
ということで今回は少し趣向を変え、
秋にオススメの一冊の小説と
それに私の頭がリンクさせた音楽の話をしよう。
メンフィスでエルビスが死に、
イギリスでパンクが勃興し、
ベルリンでボウイがイーノやフリップ先生と
アルバムを作っていた1977年、ある小説が上梓された。
40年の時を経て今なおハードSFの金字塔として名高き
J・P・ホーガン作『星を継ぐもの』である。
『月面で発見された真紅の宇宙服をまとった死体。だが綿密な調査の結果、 驚くべき事実が判明する。死体はどの月面基地の所属でもなければ、ましてやこの世界の住人でもなかった。彼は五万年前に死亡していたのだ! 一方、木星の衛星ガニメデで、地球の物ではない宇宙船の残骸が発見される。関連は?J・P・ホーガンがこの一作をもって現代ハードSFの巨星となった傑作長編!』
(創元SF社文庫のあらすじより)
この小説にはスペースオペラのヒーローも
主人公を殺そうとするエイリアンも
アンドロイドも出てこない。
出てくるのは5万年前の死体と
ウィットにとんだ物理学者と
偏屈な生物学者。
やり手の宇宙軍本部長に
そのチャーミングな秘書と
そんな彼らをとりまく個性的な科学者、技術者達。
月に残された5万年前の死体に端を発し、
次々と過去の宇宙に起きた出来事が発見され、
決定的と思われる説が打ち出されては新たな発見により
再考察を迫られ、スクラップ&ビルドが繰り返されていき、
対立軸にあった研究者たちは
5万年前の真実を知るために交流を深めていく……
静かで少し肌寒くなってきた月のよく見える秋の夜長に
この小説は大変合うのであります。
ホーガンの筆による説得力のある力強いロジックと
魅力的なダイアログの積み重ねによって
静謐に盛り上がっていくこのSF小説は一種のミステリでもあり、
最後には驚愕のエンディングへと辿り着くのだが、
まあ、そこは是非ご自身で読んで頂きたい。
そしてそんな名作に私の頭が鳴らした一曲、それが
『Scarcity of Miracles / A King Crimson ProjeKct』
であった。
名前で「またフリップ先生か!」と思ったあなた。
正解!この曲は2011年に発売された
アルバム『A Scarcity of Miracles』
(写真の筆者所有盤は当時発売された日本プレス限定盤)
のタイトルトラック。
参加メンバーはフリップ先生(g, soundscapes)
トニー・レヴィン(b)
ギャビン・ハリソン(dr)
メル・コリンズ(a.sax)
ジャッコ・ジャクジス(vo, g)
と、まさに現在進行中の第6期クリムゾンメンバーを全員含み、
現在のクリムゾンの礎となった重要作なのである。
そんなメンバーが鳴らすこの曲は神秘的でスペーシー。
メルのメロウなサックスに先生のサウンドスケープ、
そしてジャッコが爪弾くアコギと歌が
もの寂しくも美しいメロディを奏で、
トニーとギャビンのリズム隊が
どっしりとした重厚な音で空間そのものを支えることで
フロント3人のメロディアスなプレイをしっかりとフォロー。
先生のサウンドスケープが真っ暗な宇宙の寂しさを、
ジャッコの歌とギターが星々の神秘性を、
そしてその宇宙の中で未知なるものへの探究心を胸に
前へ進む人間たちの情熱を現すような
叙情的なメロディをメルのサックスが力強く奏でる。
これが宇宙の神秘を主題にした
ハードSFに合わずしてなにが合うというのか!
是非みなさんも当作を聴いた上で
『星を継ぐもの』を読んで頂きたい。
(なお、この『星を継ぐもの』この一冊だけでも話はまとまっているのだが、実は全3部作。正確には3部までの好評を受け、後年さらに続篇も出ている為、全5部となるのだが残念ながら最後の5部が未だ未訳。実を言えば筆者が一番好きなのは第2部の『ガニメデの優しい巨人』。おおゾラック!)
珍しく本がメインの話となったが、
音楽と文学は切っても切れないものであります。
秋の夜長に、たまには古典SFでもいかが?
以上、グレッグ・イーガンは
一冊で挫折したハウリンメガネでした。
お粗末!
《ハウリンメガネ筆》