楽しいブログ生活

日々感じた心の軌跡と手作りの品々のコレクション

海野十三の「赤外線男」

2017-05-27 22:12:25 | 
本日読書会でした。今回は茶菓子にココアのパウンドケーキ焼いてみました。



割と読み応えのある作品でした。

初出 「新青年」 1933(昭和8)年5月号「東北少国民」河北新報社

収録本 「海野十三全集 第2巻 俘囚」三一書房 1991(平成3)年2月28日第1版第1刷発行

時代設定 作品発表時と同時代程度

作品舞台 東京新宿駅の飛び込み事故を発端に、物語は奇想天外な方向に展開して行く

登場人物 ・探偵、帆村荘六 
     ・理学士、深山楢彦 
     ・深山の助手、白丘ダリア 
     ・深山の愛人、岡見桃枝 
     ・子爵、黒河内尚網 
     ・子爵夫人、京子 
     ・潮十吉 
     ・幾野捜査課長 
     ・熊岡警官 
     ・轢死死体を引き取りに来た隅田乙吉 
     ・その妹梅子

あらすじ

東京新宿駅で若い女性の飛び込みがあり轢死する。

どうも妹のようだと遺体を引き取った隅田乙吉だったが、妹はその後生存が確認され、土葬をした轢死死体を掘り返してみるとその死体は忽然と消えていた。

さて、その頃、理学士・深山楢彦が赤外線テレヴィジョン装置により、肉眼では見えない「赤外線男」を発見したと発表し、世間を騒がせる。

深山には桃枝という愛人がいたが、最近助手として研究所に入った白岡ダリアという肉感的な大女にも惹かれている様子である。

世間では「赤外線男」に懐疑的な意見もあったが、ある日、深山の研究所の装置が破壊され、深山も襲われ、現金も強奪されるという事件が発生、犯人は「赤外線男」ではないかとの見方も出る。

その後、赤外線テレヴィジョン装置は深山と実験事故に合いながらも献身的に協力したダリアのお陰で、復元に成功し、視聴の席には警察関係者と探偵・帆村荘六の姿があったが、そこで捜査課長の幾野が殺害されてしまう。 


みどころ

科学的知識の披瀝に「赤外線男」が想像の産物か、不可思議な現象か半信半疑で追いかける読者に、探偵・帆村荘六を登場させたあたりから、SFから推理の世界に体裁を整えて行く。
何故それが可能だったのかの謎解きに、珍しい実際の病症を伏線の回収として使っているのが、ちゃんと納得できる。

思うのだが、海野の作品に出てくる女性は強い女性が多い。
海野自身が強い女性を好ましく思っていたのか、海野の生きてた時代を考えると、ふっと先見的な感覚を持ち合わせていたのかもしれないという気がしたことである。
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海野十三の「獏鸚」

2017-04-23 23:30:00 | 
このところずっと毎日ブログ更新してたんだけど、夕べは読書会の調査票作りかけて眠くなっちゃって、あ、日が変わる、もう止めとこうということになりました。で、今日もパソコンに向かったのがこんな時間。大丈夫かな。

初出 「新青年」博文館 1935(昭和10)年5月

収録本 「海野十三全集 第3巻 深夜の市長」三一書房 1988(昭和63)年6月30日第1版第1刷発行

時代設定 作品発表時と同時代程度

作品舞台 探偵・帆村荘六の事務所から遠からぬ東京の繁華街

登場人物 ・探偵 帆村荘六 
     ・帆村の友人 
     ・暴力団「暁団」元団員 錨健次 
     ・「暁団」団長 江戸昌 
     ・「暁団」ライバル「黄血社」ダムダム珍 
     ・金満家田代金兵衛 
     ・戸沢刑事 
     ・東キネの幹部女優桐花カスミ 
     ・カスミの弟子三原玲子

あらすじ

かねてより、彼が希望していたトーキーの撮影鑑賞に誘おうと私立探偵・帆村荘六を訪ねた友人は、暗号文に呻吟する帆村より「獏鸚(ばくおう)」が解るかと聞かれる。
ことの起こりは金満家・田代金兵衛の用心棒をしていた錨健次が殺されたことにあった。
錨は『暁団』という暴力団の元団員で、『暁団』団長・江戸昌の指示により殺害されたのだという密告の電話が入る。
警察は密告者は最近台頭してきた「黄血社」ダムダム珍の手のものではと踏んでいたが、帆村もそれを確かめるため喫茶ギロンに勤める『暁団』団員の女に接触する。
そこで仲間のふりをして何とか密告書を手に入れかけるがあわやのところで気付かれ、密告書は引きちぎられ、謎の獏鸚の文字が書かれた一部分だけが、帆村の手に残ったのだった。
某日、東京キネマの撮影所を訪ねた帆村は女優桐花カスミの弟子三原玲子が、かのギロンの女だったことを確認し、悪声の桐花カスミの声優を務めていたことを知る。
そして台本にないセリフを喋ってる玲子のフィルムが切取られていることを知らされた帆村はそのセリフにこそ、行方不明になっている金満家・田代金兵衛の金庫を開ける鍵が隠されていると確信する。

海野の好きな暗号文の謎解きが嬉々として展開されてるような印象を受ける。
トーキーの時代と言っても今の若い人にはピンとこないだろう。推理小説といっても、すでに昭和は遠くなり、過去の歴史を垣間見るひとつの史書としての価値が付加されているのではと感じたことだった。
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海野十三「雪魔」

2017-02-19 23:34:34 | 
現代の少年少女が読むことはほとんどないだろうと思われる、海野のジュブナイルもの。
その当時の少年、少女がどんな風に読んだのだろうかと思いを馳せながら、目を通しています。
また、わたくしにとっては文章をまとめる数少ない機会、一種の脳トレと捉えて月一のルーチンこなしてます。


作品舞台は少年の住むある雪深い山村

登場人物 ・少年彦太 ・彦太の友人五助 ・五助の兄、一造 ・五助の妹、お雪

あらすじ

東京の学校が休みになったので、彦太少年は木谷村へ帰って来る。

父親によれば仲のよい五助少年は三日にあげず雪の積もった山に登っているという。

東京土産を持って五助を訪ねた彦太は、五助が観測のため山に篭っている五助の兄の一造に食料などを届けるために青髪山に行っているのだと聞かされるが、そこは昔から魔神が住んでいるという言い伝えがあって、猟師さえ寄り付かない危険な山だった。

観測というのはその魔神の正体を突き止めようとする一造の探究心のなせる業だった。

彦太は五助の妹の代わりに五助と共に一造へ食料を届ける役目を買って出る。

苦しい雪道を登っている途中で、突然二人は銃声の音を聞く。

急いで、兄のいる雪穴に駆けつけるが、その姿は見えず、やがて襲ってきた雪崩から逃れるために二人は転げるように山を降りる。

しかし、後に五助の手に血が付いていたのが見つかり、それを調べてみると兄でないどころか、人間でもけだものの血でもないというのだ。

雪が溶け、一造の篭っていた場所を探索に行った彦太と五助は一造の残した手帳を発見する。

そこには人間の二倍ぐらいもある体躯に、灰色の毛が生えていて、両足で立ち、声を出して話をし、穴の上を蝙蝠のようにとび、足は蛙のようだという地中怪人族の姿が報告されていた。

最後にイメージが立ち上がる怪人のイラストなどを思い浮かべると戦後まもなくという時代の少年なら、それなりにわくわく感を味わったかもしれませんね。
いまや、怪人より、AIが恐怖です。
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岡田みゆきの「タヒラの人々」あらすじ

2017-01-28 23:38:53 | 
本日標題の読書会だったので、簡単にあらすじだけ。
メンバーと感想など話したことをまとめるのが本筋なんですが、非常に手間がかかってめんどくさいのよね。
どんなお話かという紹介だけでワタシャ、お茶濁すのだ。

この物語には二つの大きなテーマがあります。
ひとつは家族の愛憎。ひとつは時代の変遷。
時は敗戦後まもなく、タヒラという徳島の片田舎をモデルにした山村共同体の人々の営みが描かれています。
山村にあってタヒラは平らを意味し、プロローグではまるで桃源郷の如く穏やかで豊かな自給自足の完全体の村が紹介されますが、そこへ主人公の本庄健介が復員してきてから徐々に風景が変わっていきます。
健介は家に帰った自分を迎えた母親と嫁“絹”の態度に何か不穏な匂いを嗅ぎ取りますがそこで村全体を統べるオサオジの役を担っていた父親が自殺したことを知らされます。
また、留守中に絹は赤ん坊を産んでおり、千恵男と名付けられた乳飲み子が寝ている姿を目にしますが、後日、守りをする母親の「ジイコ、ジイコ~」という何か暗示的な子守唄を聞いて健介にある疑念の思いが沸き起こります。
(千恵男は俺の子ではないのではないか・・・)
ある時には墓参の場で母親が絹を折檻するごとく打ち据える場面も目撃し、胸に黒いわだかまりを抱えますが、しかし、一方ではオサオジを継いだ身は静かに忍び寄ってくる村の統率の乱れにも心を砕かねばなりませんでした。
健介が起こし富の分配の要になっていた養蜂は腐蛆病の発生により、壊滅的な打撃を受けることになります。
町からモダンな文化も流れ込んで来るようになり、伝統的な村の決まり事を必ずしも素直に守ろうとしなくなる若者の離反に健介は苛立ちますが、そもそも強固と見えた共同体の屋台骨が時代の波にさらされてグラグラとゆれ始めていたのです。
健介は蜂の巣箱を積み上げ火を放ちます。
崩れ行く古い因習と共に、持て余す己の空虚な魂も溶かしているのか赤々と燃え上がる巣箱の火は何かの終焉を告げているようです。
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海野十三の「地球発狂事件」

2017-01-25 23:19:37 | 


Yさんが送ってくれた「美男葛」の実。
今から標題の記事書こうと思うんですが、日が変わりそうなので、一旦写真だけUPしておきます。

初出 「協力新聞」 1945年9月1日~1946年(終号未詳

収録本 「海野十三全集・第11巻・四次元漂流」三一書房 1988(昭和63)年12月15日第1版第1刷発行

作品舞台

アイスランドの霊峰へルナーのてっぺんに巨大汽船が乗り上げているというありえない光景を目にした新聞記者のドレゴは、その謎を解くため仲間と共に海底へ探索の冒険に出かける。

登場人物

・デンマーク新報のアイスランド支局員ハリ・ドレゴ 
・同業者で友人の水戸宗一 
・米記者ジム・ホーテンス 
・原子核エネルギーの権威であるワーナー博士 
・商人ケノフスキー 
・水戸を慕う下宿先のエミリー 
・米技術大学のアンダーソン教授

あらすじ

アイスランドの霊峰へルナーのてっぺんに巨大汽船が乗り上げているというありえない光景を目にした新聞記者のドレゴは、同業者で友人の水戸宗一と共にヘルナーに向かうが、巨船ゼムリヤ号はほどなく大きな炎に包まれ、近づくこともままならない。

米記者ジム・ホーテンスからゼムリア号がどうやらソ連の砕氷船らしいことを聞き及んだ二人は彼から謎を解くために原子核エネルギーの権威であるワー
ナー博士らと大西洋の海底探査に同行しないかと誘いを受ける。

ゼムリア号事件とほぼ時を同じくして異常な海底地震が記録されたからだ。

潜水服に身を包み震源地に向かった彼らはそこに沈没した船のようなものを発見するが、中には異形の生物がうごめいていた。

それは地球人よりもはるかに高度な知能を持った地球外生物との初めての遭遇であった。

米技術大学のアンダーソン教授は最新の研究技術を駆使して彼らとなんとか意思疎通を図ろうとするが・・・。

みどころ

何故山のてっぺんに巨大船が突如として現れたのか、センセーショナルな光景と謎が派手に幕開ける。

喧々諤々の論争もそれなりに面白いが、「全宇宙のどこの隅にも不幸な者があってはならないのです。そういう不幸な一部があるということは、所詮宇宙の不幸なんですからねえ。この理屈は、如何なる時代にも、如何なる相手にも納得されることだと思うんですがねえ」とつぶやいた水戸の言葉に作者の思いが代弁されているようだ。
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