【連載】頑張れ!ニッポン⑮
間近に見た「セミコンジャパン2024」
釜原紘一(日本電子デバイス産業協会監事)
来場者は10万人以上
「セミコンジャパン2024」が東京・江東区の東京ビッグサイト(東京国際展示場)で12月11日から13日にかけて開催された。「半導体の未来がここにある。」がテーマである。
私は例年通り、手伝っている社団法人のブースで3日間「店番」をすることになった。その合間をぬって会場を見て回ったので、今回はその印象を報告することにしたい。最初に断っておくが、「店番」の合間に回ったので、表面的にざっと見ただけである。それもごく一部を見ただけだ。
まず感じたのは、人出の多さだった。初日から出足が良く、非常に多くの来場者が訪れたのには驚いた。去年も来場者が増えていると感じたが、今年はそれを上回るとの印象を持った。主催者側は3日間で10万人以上の来場者を見込んでいたらしいが、なんと延べ10万2987名が来場した。
私が手伝っている法人のブースは、無償提供を受けたものてある。だから、8ホールある会場の一番奥の第7ホール内にあり、その中でもあまり人が通らないような隅にあった。そんなブースでも多くの人がやって来たのには驚いた。
そして近年の傾向として、若い人たちの来場が増えていることである。今年はさらに増えており、大変喜ばしく感じた。10人~20人程度の学生らしき若者が小旗を持った人に連れられて会場を行く姿も見かけた。
この展示会は、半導体デバイスよりも半導体デバイスを作るための装置や、それに使用される特殊な部品、そして半導体材料の出展が中心である。私のいたブースの向かいにはEU(ヨーロッパユニオン)のブースがあり、欧州の企業40社ほどが共同で出展していた。最近日本の半導体業界が活況を呈している事を知り、ビジネスチャンスを求めて出てきたのかもしれない。
▲EUのブースで▼
▲学生専用のブースも
主催者発表によると、今年のセミコンジャパンには1100社が出展していたという。多くの企業に混じって地方自治体も出展しており、その中でもとくに九州や東北地方のブースが目立った。さらに目についたのは、全国の高専(高等専門学校)のブースである。「The高専」と銘打って例年展示しているが、今年はその数が増えたようだ。
▲全国から高専(高等専門学校)も全国から数多く参加
人気を集めたラピダスのブース
今話題のラピダスのブースにも人が集まっていた。同社はまだ工場を立ち上げ中であり、展示物件は殆ど無く、動画での説明だけだった。セミナー会場では、ラピダスの小池社長が講演に立ち、工場の建設は順調だと語っていた。テレビでも微細化技術の鍵を握る「EUV露光装置」が日本に到着したというニュースが流れており、じつにいいタイミングだったと言えるだろう。
例年大勢の人だかりで目立つのが、ダイシングマシーン専門メーカー、ディスコ社のブースだ。しかし、今年は他のブースでも多くの人が集まっており、それほど目立たなかった。また、韓国や台湾のブースもあったが、それ程目立たないのは例年通りだ。
▲注目を浴びたラピダスのブース
▲例年人気だったディスコのブースも今年は目立たない
▲台湾企業のブースはなぜか閑散と
初日はセミナー会場で自民党の半導体戦略推進議員連盟の甘利明さん(この前の衆院選で落選)やラピダスの東哲郎会長などが基調講演をし、石破総理のビデオメッセージなどが流されたとの事だが、私は「店番」の為見損なったのは致し方ない。
会場の各所で各種の講演が行われていたが、どの会場を大勢の人が熱心に聴いていた。講演内容は様々で、半導体製造プロセスの最新動向、パッケージの最新動向、ソフトウエア、パワーデバイス、AI、量子コンピューティングなどである。ここで紹介する事は出来ないが、このようなセミナーは毎年やっており、内容によって有料のものや無料で聴けるものなど様々である。
▲セミナー会場は満席
AI搭載のロボットが会場に
AI(人工知能)をテーマにしたコーナーでは、人間相手に卓球をするロボット(人型ではないが)が実演で展示されていた。またAIを利用して「ルービックキューブ」を1秒以下で解く実演をするブースにも人が集まっていた。1秒以下で解くのは世界最速だそうで、ギネスブックに認定されたとの事である。
▲人間相手に卓球をするロボット
▲AIでルービックキューブを1秒以下で解くデンストレーション。世界最速でギネスにも登録されたとか
▲大企業のブースにはきれいなお姉さんがいた
会場には台湾や中国からの来場者が多く見られ、外見ではわからないが、昼食の為にレストランに入ると。席の周りは中国語が飛び交っていた。衰えたとは言え、やはり彼等にとって日本はまだ無視できない存在なのか。
そう思う一方で、会場でばったり出会った人材派遣会社の知人の話が気になった。彼が言うには、熊本のTSMC工場では、台湾から多くのエンジニアがやって来て働いているが、30歳位のエンジニアでも年収1000万円はあり、さらに日本で働くための手当てが150万円もプラスされるという。
一緒に働く日本の若者は年収500万円~600万円だとかで、今に反乱が起こるのではないか、とその知人は心配していた。どこまで本当の話かは分からないが、熊本ではTSMCの進出によって土地の高騰など様々な問題が起っているようだ。
話を聞きながら会場に押し寄せる群衆のような来場者の流れを見ていると、「今この半導体業界に起きている大きな「うねり」の行く末はどうなるのだろうか?」と考えてしまう。約40年間の現役時代に何度も経験した激しい浮き沈み(それはシリコンサイクルと呼ばれた)を思い出さずにはいられない。
【釜原紘一(かまはら こういち)さんのプロフィール】
昭和15(1940)年12月、高知県室戸市に生まれる。父親の仕事の関係で幼少期に福岡(博多)、東京(世田谷上馬)、埼玉(浦和)、新京(旧満洲国の首都、現在の中国吉林省・長春)などを転々とし、昭和19(1944)年に帰国、室戸市で終戦を迎える。小学2年の時に上京し、少年期から大学卒業までを東京で過ごす。昭和39(1964)年3月、早稲田大学理工学部応用物理学科を卒業。同年4月、三菱電機(株)に入社後、兵庫県伊丹市の半導体工場に配属され、電力用半導体の開発・設計・製造に携わる。昭和57(1982)年3月、福岡市に電力半導体工場が移転したことで福岡へ。昭和60(1985)年10月、電力半導体製造課長を最後に本社に移り、半導体マーケティング部長として半導体全般のグローバルな調査・分析に従事。同時に業界活動にも携わり、EIAJ(社団法人日本電子機械工業会)の調査統計委員長、中国半導体調査団団長、WSTS(世界半導体市場統計)日本協議会会長などを務めた。平成13(2001)年3月に定年退職後、社団法人日本半導体ベンチャー協会常務理事・事務局長に就任。平成25(2013)年10月、同協会が発展的解消となり、(一社)日本電子デバイス産業協会が発足すると同時に監事を拝命し今日に至る。白井市では白井稲門会副会長、白井シニアライオンズクラブ会長などを務めた。本ブログには、平成6年5月23日~8月31日まで「【連載】半導体一筋60年」(平成6年5月23日~8月31日)を15回にわたって執筆し好評を博す。趣味は、音楽鑑賞(クラシックから演歌まで)、旅行(国内、海外)。好きな食べ物は、麺類(蕎麦、ラーメン、うどん、そうめん、パスタなど長いもの全般)とカツオのたたき(但しスーパーで売っているものは食べない)