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足元に気を付けて! 【連載】藤原雄介のちょっと寄り道(72)

2024-10-12 05:37:43 | 【連載】藤原雄介のちょっと寄り道

【連載】藤原雄介のちょっと寄り道(72)

足元に気を付けて!

 

ロンドン(英国)

 

▲ MIND THE GAP ! ロンドンで最も耳に残る言葉

 

 MIND THE GAP! (マーィンドゥ・ザ・ギャップ!)
 ロンドンの地下鉄の駅構内では終日、「マインド・ザ・ギャップ!=足元(の隙間)に気をつけて!」の録音音声が響き渡っている。
 いつも男性の間延びした声だったような気がするが、女性の声バージョンもあったかも知れない。もう10年も前のことなので、記憶が定かでないが、このMIND THE GAPは、あらゆるロンドン土産のモチーフとしてよく使われるのだ。私もMIND THE GAPのマグカップを買い、今も愛用している。
 
 ところで、米国では、「足元に気をつけて!」は、MIND THE GAP!ではなく、WATCH YOUR STEP!だ。ロンドンで世界初の地下鉄が開通したのは1863年、Paddington駅とFarringdon間の6キロだった。
 一方、ニューヨークの地下鉄は1904年完成で、ロンドンの41年後である。ならば、同じ英語圏なのだから、MIND THE GAP!をそのまま踏襲して使っても良さそうなものだと思うのだが、何故かそうはならない。

 英国と米国で、異なる単語や言い回しは枚挙に暇がないほど多く、誤解を生むこともしばしばある。ご存じの方も多いだろう。代表的な例を挙げると、英国では建物の1階はGround Floor、2階はFirst floorである。しかし、米国は日本と同じで、1階がFirst floor、2階はSecond floorだ。
 そうそう、地下鉄の呼び方だって違う。英国はUNDERGROUND或いはTUBEで、米国ではSUBWAYである。ま、MIND…でもWATCH…でも意味は通じるから、あまり深く考える必要はないのかも知れない。イギリス英語とアメリカ英語が何故違うのかについては、諸説ある。とても私ごときの手に負えるものではない。

 

▲愛用のMIND THE GAPマグカップ

▲ロンドン地下鉄のエスカレーター 速度はとても速い 日本のエレベーターの倍ぐらい

▲散らかり放題の地下鉄車内


 さて、日本の地下鉄にMIND THE GAP!に相当する単語はあるだろうか。気になって調べてみた。直訳すれば、「足元注意!」だろうが、そんな注意書きを見た覚えがない。では、日本ではどんな注意喚起をしているのか。
 東京メトロの各種アナウンスを調べて見たら、次のような定型文を見つけて衝撃を受けた。
「ホームと車両の間には段差や隙間がありますので、乗り降りの際はお足元にご注意ください。 乗り降りに不安を感じるお客様には、乗り降りのサポートをさせていただいております。 ご遠慮なく 駅係員にお申し出ください。 また、周囲のお客様も乗り降りのサポートにご協力をお願いいたします」

 ウーン、あまりの丁寧さと礼儀正しさに「流石、日本!」と思わぬでもないが、注意喚起の為には、「(乗り降りの際は)お足元にご注意ください」だけにした方が簡潔で良いような気がする。
 因みに、エスカレーター横で、「足元にご注意ください!」をAI音声で途切れなく繰り返している駅があるが、これはこれで相当イライラさせられる。
 ロンドンの地下鉄は、開業当時蒸気機関車で列車を牽引していたため、乗客は煤だらけになってしまった。そのため、排煙対策が大きな課題で、排気用煙突をいくつも設置していた。1890年には、電気機関車がNorthern Line(ノーザン線)に登場し、その後早いスピードで電化されていったのだが、トンネルや地下鉄駅構内の効率的な排気対策は今も続いている課題である。
 初期の路線は開削工法により建設された比較的大きな断面のトンネルが特徴でSurface Lines(低深度線)と呼ばれる。一方、シールド工法により大深度地下に掘られたトンネルは円形断面で、その形状からTUBEと呼ばれるようになった。TUBEのプラットフォームでトンネルの出口付近に立つと、断面が半円形の地下鉄車両が凄まじい風圧で、まるで3D画面のようにヌーッと飛び出してくる。私は、時間の余裕があるときには、その迫力ある光景を見ながら顔で風圧を受けるのが楽しみで、わざわざプラットフォームの端まで歩いて行ったものだ。
 よく観察すれば、トンネル内壁と車両の間の隙間がギリギリまで狭いことに気付く。この形状は、車両をピストンに見立てて空気を圧縮し、換気扇代わりに排気するアイデアから生まれたらしい。この話を聴いたとき、何だか感動してしまった。

 

▲当初の地下鉄は蒸気機関車が牽引していた


 私が通勤に使っていたのは、前述のNorthern Lineのハムステッド駅(Hampstead Tube Station)だった。この駅のプラットフォームは、ロンドン地下鉄でもっとも深いところにある。地表から59m下だ。
 改札口とプラットフォームはリフト(イギリス英語ではエレベーターではなくリフトと呼ぶ)で結ばれている。320段の螺旋階段があるのだが、普段は閉鎖されている。リフトが故障したときに、一度だけ薄暗い照明の中、地獄に続くような階段を下ったことがあった。もう二度とごめんだ。

 

▲ハムステッド駅外観

▲通勤時間帯のハムステッド駅プラットフォーム

▲リフト(エレベーター)が故障中の張り紙。「リフト故障中。作業中。ご迷惑をお掛けします」とじつに簡潔。復旧見通し情報などが書かれることは絶対にない


 ロンドン地下鉄構内には、当局から許可を得た大道芸人やミュージシャンが沢山いて、目や耳を楽しませてくれる。これは、大都市ならではの楽しみで、東京でも地下鉄構内でのパフォーマンスを解禁してくれればと思う。
 パリと並び、ロンドン地下鉄構内のポスターもなかなか風情がある。下のポスターをご覧いただきたい。今となってははっきり覚えていないが、これは、赤字で後から書きなぐったように見せかけたデザインだったのではないかと思う。

 

▲「恋に落ちる。結婚する。赤ちゃんができる。」(赤字で補足説明)*この順番である必要はない。「赤ちゃんができる→恋に落ちる→結婚する。」

 

           

  

【藤原雄介(ふじわら ゆうすけ)さんのプロフィール】
 昭和27(1952)年、大阪生まれ。大阪府立春日丘高校から京都外国語大学外国語学部イスパニア語学科に入学する。大学時代は探検部に所属するが、1年間休学してシベリア鉄道で渡欧。スペインのマドリード・コンプルテンセ大学で学びながら、休み中にバックパッカーとして欧州各国やモロッコ等をヒッチハイクする。大学卒業後の昭和51(1976)年、石川島播磨重工業株式会社(現IHI)に入社、一貫して海外営業・戦略畑を歩む。入社3年目に日墨政府交換留学制度でメキシコのプエブラ州立大学に1年間留学。その後、オランダ・アムステルダム、台北に駐在し、中国室長、IHI (HK) LTD.社長、海外営業戦略部長などを経て、IHIヨーロッパ(IHI Europe Ltd.) 社長としてロンドンに4年間駐在した。定年退職後、IHI環境エンジニアリング株式会社社長補佐としてバイオリアクターなどの東南アジア事業展開に従事。その後、新潟トランシス株式会社で香港国際空港の無人旅客搬送システム拡張工事のプロジェクトコーディネーターを務め、令和元(2019)年9月に同社を退職した。その間、公私合わせて58カ国を訪問。現在、白井市南山に在住し、環境保全団体グリーンレンジャー会長として活動する傍ら英語翻訳業を営む。


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