【連載】呑んで喰って、また呑んで④
泥酔状態でシベリア鉄道に
●ロシア・ウラジオストク
さあ、待ちに待ったシベリア鉄道の旅だ。いざ、モスクワへ!
と言っても、出発点のウラジオストク駅に行くにはまだ早い。昼は海岸近くの大衆料理屋でビールを飲みながら、恐ろしく不味いパスタで簡単に済ませたが、
「呑んだついでやから、出発まで軽く呑まへんか」
と私は友人のM君に提案した。
「おー、そやな。せっかくロシアにやってきたんやから、ウオッカでも呑もか」
「うん、ウオッカや!」
ふたりとも吞兵衛だから、意見が一致するのも早い。もうお気づきかと思うが、ふたりとも関西出身なので、標準語は使わない。これから先も、ずうっーと関西弁の会話である。
さて、荷物は昨夜泊まったホテルに預けてあるので、身軽だ。小腹も空いてきたので、どこか酒が呑めて、軽く食事のできる店はないかと散策することにした。
ウラジオストクは、どこか函館に似て坂道が多い。9月だが、ロシアでは例年にない猛暑が続いていた。ちょっと歩いただけで、Tシャツは汗だらけ。もちろん喉も渇く。
「うー、暑い。とりあえず、ビールでも呑めへんか」
喉の渇きを訴える私に、M君が即座に反応した。
「そやな。ん? そこに中華料理屋があるで。ここに入ろか」
店に入ると、客は誰もいない。中国人と思しき中年女性が不愛想に私たちを迎えた。ま、いいか。テーブルに座って、ビールを注文する。キンキンに冷えたビールが2本運ばれてきた。まずはビールで乾杯だ。プハーっ、美味い。火照った体にしみわたる。
つまみは水餃子にした。まったく期待していなかったが、なかなかイケる味だ。瞬く間に皿が空っぽになったので、もう一皿追加だ。昼食のパスタを半分以上残したので、腹が減っていたのだろう。
他人のことは知らないが、食がすすむと酒もすすむ。ビールからウオッカに切り替えたのは言うまでもない。1瓶空けてしまうと、ふたりとも気が大きくなったようである。よし、もう一軒行こう! 行こう、行こう。次はロシア料理や!
数分も歩かないうちに、店構えが立派なレストランがあった。高そうだ。が、普段はふたりとも人一倍ケチだが、なにしろ気が大きくなっているので、入ってしまった。
うわーっ、なんて豪華なのだ。ロマノフ王朝の貴族たちが今でも現れそうな、じつにクラシックな雰囲気の店内である。後で知ったが、ウラジオストックでも取り分け有名なロシア料理店「ノスタルギア」だった。
料理はそこそこに、というか、何を食べたのか、まるで覚えていない。覚えているのは、ここでもウオッカを注文したということだけ。
店を出ると日が暮れていた。預けていた荷物をホテルで受け取って、タクシーに乗り込む。駅に着いた。もう千鳥足だ。しかし、まだ列車の出発時間まで数時間ある。駅で時間つぶしをするしかない。
駅構内に軽食を出す店があった。ビールも置いているので、テーブルに陣取った。ソーセージかピザを注文した記憶がある。もちろんビールも何本か。いい気分だったが、時計を見て慌てた。もう時間だ。急がないと! スーツケースやらリュックを手に慌てて、ホームへ。
なんとか無事に列車の中に。1分もしないうちに列車が動き出す。危なかった。下手したら、乗り遅れていたところだ。ホッと一息ついたところで、M君の荷物が一つ少ないことに気づいた。
「あの大きなバッグは?」
「ん?」
「日本から持ってきたやろ。缶詰やカップヌードルとか、スルメとかが入ったバッグや」
「しもたっ! 駅に忘れてきた。えらいこっちゃ!」
顔面蒼白のM君は、今にも泣きそうである。が、もう遅い。列車は出発した。諦めるしかない。ほんと吞兵衛は困る。こうしてモスクワまで1週間の旅が始まった。前途多難の旅が。(次週につづく)