[東京 17日] - トランプ相場が始まった2016年11月からドル高円安は加速し、一時118円台に達したが、2017年に入って一服、現在(日本時間1月17日午後3時現在)は113円前半で推移している。
ドル円だけではなく、米金利上昇が1月に止まったことを背景に、対ユーロでもドル安に戻っている。足元のわずかなドル安を後押しする要因として、日本の為替アナリストらが言及しているのが、トランプ次期米政権が保護主義的な政策を前面に打ち出す可能性である。
1月20日の米大統領就任式を経て、成長押し上げ政策である減税政策の行方が分かるのは早くても3月とみられ、それまでは個別企業の活動や中国・メキシコに対する政策についてトランプ氏が言及する場面が多くなるかもしれない。すると、「ドル安政策か」との条件反射的な言動が、特に日本の市場参加者の間で増えるだろう。
ただ、そうした反応を示すであろうエコノミストや為替アナリストの多くが、トランプ氏の大統領選勝利に前後して、「1ドル100円割れの恐れ」「トランプ相場は短命」などと指摘していたことを、投資家は冷静に認識したいところだ。結論から言えば、筆者は年初からのドル円の下落は長期化しないとみている。以下、根拠を説明しよう。
<円高シフトが起こるなら別の理由>
まず、日本にありがちな条件反射的な反応に話を戻せば、トランプ氏の政策にまつわる大きなリスクとして、同氏が、「一つの中国」の原則にこだわらない考えを示すなど中国に対して強硬な姿勢を見せていることがある。
筆者は国際政治を分析する力量を十分に持ち合わせていないので、トランプ氏の発言だけで、米中関係がどう動くのか、判然としない。そもそも、具体策が分からない段階で、為替への影響をとやかく言えるわけがないだろう。
ところが、トランプ相場の前にドル安リスクを懸念していたエコノミストやアナリストほど、米中関係の悪化を「リスク」として強調している。彼らの国際関係を読み解く力がどの程度優れているか筆者には分からないが、経済メディアのバイアスに影響されている可能性もあるだろう。
米中の経済関係と言えば、13日付の米紙ウォール・ストリート・ジャーナルのインタビューで、トランプ氏は中国について言及しつつ、20日の大統領就任直後には「為替操作国」には認定する考えはないとの見方を示し、就任前の公約をあっさり翻すことになった。
この経緯を筆者が知る由もないが、中国にとって足元の問題は資本流出の拡大で、通貨安が進んでいることである。トランプ氏は為替操作国と批判したいのだろうが、少なくとも人民元の下落期待を和らげる点については、米国、中国ともに利害が一致する状況だろう。
2017年に入ってから「為替操作国」というフレーズに、日本の為替市場参加者は過敏に反応している。そもそも、仮に中国がそうした対象になったところで、ドル円にどのような影響を与えるのか、筆者には全く分からない。円高ドル安要因になるという意見も聞くが、本当にそうなのだろうか。
2016年11月11日掲載のコラムでも述べたが、筆者は常々、日本の為替市場参加者の多くが「円高シンドローム」にとらわれていると感じている。
ロナルド・マッキノン氏と大野健一氏が1998年に「ドルと円」で論じた、米政権の意向によって政治的にドル安が起きるという説である。最近のドル安は、円高シンドロームが刺激されたがゆえに起きているように思われる。ただ、この円高シンドローム仮説はすでに時代遅れになっていると思っている。アベノミクス発動により日銀が米連邦準備理事会(FRB)と同様の標準的な金融政策運営を始めたと認識していることが一因だが、詳しくは別の機会に改めて論じたい。
結局、円高に反転するかどうかは、2016年のようにFRBが利上げ先送りを続ける状況になるか否かで決まるだろう。円高シンドロームにとらわれず、それらを冷静に見ておかないと、アベノミクス相場同様に、トランプ相場でリターンを高めることは難しい。つまり、米国の経済指標、FRBの政策姿勢、拡張財政政策の現実性がドル円のトレンドセッターになるということである。
確かに、13日に公表された昨年12月の米小売売上高は前月比0.6%増と4カ月連続の増加となったものの、市場予測(0.7%増程度)をやや下回った。事前に示されていた消費者センチメントの大幅な改善ほど、米個人消費のハードデータは良くなかったと評価できる。
ただ、経済をけん引する個人消費の底堅い伸びが続いているとの判断を変えるほどではない。2016年10―12月に続き、2017年1―3月も成長率とインフレ率が堅調な伸びを示すと予想され、3月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で利上げが実現する公算は大きい。したがって、年初からのドル円の下落は長期化せず、近いうちに上昇トレンドに復する可能性が高いと筆者はみている。
*村上尚己氏は、米大手運用会社アライアンス・バーンスタイン(AB)のマーケット・ストラテジスト。1994年第一生命保険入社、BNPパリバ、ゴールドマン・サックス、マネックス証券などを経て、2014年5月より現職。
以上、ロイターコラム
円高株安のリスクは米中関係の要因もあるだろうが、私は今ドル安に誘導していると思われる。
トランプ政権がスタートして政策を発表するごとにドル高になる形になると思う。