全体的に暗いトーンの「末摘花」。
「コーラス 音に聞くサフラン姫は、額がせり上がり、驚くほどの長い鼻。これはまるで普賢菩薩(サマンタバドラ)をお乗せする白ゾウの鼻。千年の後まで語られる、赤い鼻。たいそう痩せて寒さに震え」(毬矢まりえ×森山恵「らせん創作・夢幻能<サフラン天女>」『群像・12・P.155』講談社 二〇二四年)
能の定式ではラストで救われる形を取る。しかし源氏物語原典を見るとそうではない。陰鬱な空気がほぼ全面を占める。なかでも有名なこのフレーズが全体に掛かっている。
「幼(わか)き者(もの)は形(かたち)蔽(かく)れず」
白居易からの引用。次の通り。
「歳暮天地閉 陰風生破村 夜深烟火尽 霰雪白紛紛 幼者形不蔽 老者體無温 悲喘與寒気 併入鼻中辛
(書き下し)歳暮(としく)れて天地(てんち)閉(と)ぢ、陰風(いんぷう) 破村(はそん)に生(しやう)ず。夜深(よふ)けて烟火尽(えんくわつ)き、霰雪(せんせつ)白(しろ)くして紛紛(ふんぷん)たり。幼者(えうしや)は形(かたち)蔽(おほ)はず、老者(ろうしや)は體(たい)温(あたたか)なるなし。悲喘(ひせん)と寒気(かんき)と、あはせて鼻中(びちゅう)に入(い)りて辛(から)し」(漢詩選10「重賦」『白居易・P.134~135』集英社 一九九六年)
末摘花の「花」はここで「鼻」に掛かる。それにしても二〇二四年の日本の歳暮ときたらもう何とも言いようがない。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます