『ナショナル ジオグラフィック』2020年7月号
エベレストにまつわるレポートを集めたナショジオの特集。私が最も注目したのは、トップバッターに据えられていた「エベレスト 幻の初登頂」だったのだが、、、
ジョージ・マロリーとサンディ・アービンがおよそ100年前、現代から見れば貧相な装備でエベレスト山頂を目指した。彼らは遭難し、生きて帰らなかったが、実際には登頂した後に遭難したのかもしれないと夢を語る人がいる。果たして真相はどうなのか。ついにこの追及に終止符が打たれるのか。真相がわからずとも、さらなる手掛かりが見つかったのか。
今回のナショジオの遠征では、アービンらしき遺体の目撃情報からアービンの遺体探しを試みるのだが、シェルパたちに今回の登山の目的がきちんと伝わっておらず、正規ルートを外れるリスクを負いたくないと協力を得られないことになった。シェルパたちにとって死のリスクを負うことになるのだから当然だ。結果はいわずと知れた何の成果もない失敗に終わる。なあんだと失望の嵐で、読む気がしなくなったのだが、後半の記事が面白かったのには救われた。
気候変動で氷河が後退し、また降雪量も減って、農作業の時期の水不足が深刻になった頃、氷の仏塔をつくるというアイデアを思い付いた僧侶がインドのラダックにいた。円錐形の氷は解けにくいのだ。冬場に水を凍らせて巨大な仏塔をつくる。それが夏場に必要不可欠な貴重な水になるのだ。仏の力を借りた巨大アートがそこに暮らす人々に恵みの水をもたらすというのは、すばらしい。
ヒマラヤの渓谷に棲むユキヒョウの話も興味深かった。いまだにユキヒョウの生態はよくわかっていないそうだが、地元の人にはよく知られた老いた雄のユキヒョウを追跡し、その生態が一部明らかになった。
この特集の掉尾を飾ったのは、「世界一高い気象観測所」。もちろんエベレストの話だ。2019年に34人の科学者チームがエベレスト遠征を敢行、氷と雪のサンプルを採取し、さらには標高8430メートルの地点に気象観測所を設けた。彼らの調査からクーンブ氷河の1/4が失われたことが判明した(1962年起点)。それにしてもエベレストに遠征した気象学者の熱意には恐れ入る。