大きな 大きな 手術をして、
少し早めに退院をしてきた笑ちゃんなので、
自宅では慎重に様子を診ていかないと。
退院したその日は、笑ちゃんも、
父ちゃんと母ちゃんが病院に迎えに来てくれて、
ほっとしたのか?
まだ何処かが痛いのか?
ぐったりした様子だったので、
東大から、かかりつけ医のところへ寄り、
そのまま自宅へ帰って来ました。
静かに過ごしてあげよう。
そんな事で夜も早めに、みんなで就寝。
日付が変わって、明け方3:00に母ちゃんの携帯が鳴りました。
1コールでとりました。
『おじじ 死んじゃった』
母ちゃんの弟からの電話でした。
先生の死亡確認が終わり、
清拭をする看護師さんを母ちゃんが手伝い、
葬儀屋が来る、ほんの少し前に、
笑ちゃん、じいちゃんと添い寝です。
まだ温もりたっぷり、じいちゃんにくっついて。
1時間前には、自分でトイレへ歩いて行って、
だけどヨタヨタして倒れて、弟が起こしたり。
それからしばらくはベッドで過ごして。
じいちゃん、最後のメモですが。
『コキウが出来な。』
呼吸が出来ない。と書きたかったんだと思います。
喉頭がんの再発で、
首の皮膚から飛び出していた腫瘤は、
握り拳大になっていたじいちゃんでした。
そこからの出血が、呼吸口に流れ込み、
血栓が呼吸をする道を塞いでの窒息死でした。
最後の苦しむ顔を見ていた、
ばあちゃんと、母ちゃんの弟は、
《目に焼きついて頭から離れない》と。
家族葬にしました。
お通夜と出棺時には、
じいちゃんが可愛がっていた笑ちゃんも参加しました。
会場初、特別の特別に。
お利口ちゃんにしている事が条件でした。
病院の入院生活では、
《ふるまい》があまり良くはなかった笑ちゃんでしたが、
この時はとてもお利口ちゃんでした。
葬儀屋さんとの約束だからね。
『じいちゃーん、ごはんちょーだいよー』
『どちたの? 笑ちゃんがペロペロ介護ちてあげるよ』
そんな、不思議そうな顔をしていた笑ちゃんでした。
高度経済成長期の日本を、
《鉄》の企業で支えていたじいちゃんでした。
向かって1番左にいるのが、
若き日のじいちゃんです。
定年してからは、
地域に貢献するのが大好きで、
毎朝、横断歩道で、
通学する子供たちを見守っていました。
棺には、
ハゲ頭を隠す帽子と、
笑ちゃんを連れて行かれては困るので代わりに
笑ちゃんの写真を、
そして横断歩道の旗の写真を入れました。
お酒では、家族に散々迷惑をかけてきたじいちゃん。
みんなが、じいちゃんの事が大嫌いでした。
数年前に、階段から落ちたじいちゃんは、
あら不思議、
翌日から一滴も、お酒を飲まなくなりました。
そのおかげで、
お酒での家族のストレスが《0》になりました。
じいちゃんの声が聞こえると、下痢が止まらなくなる、
母ちゃんと弟は、過敏性腸症候群と言う病気でした。
それが、喉頭がんになり声を失いました。
そのおかげで、
じいちゃんの声に対するストレスが《0》になりました。
口を開けば、じいちゃんへの愚痴ばかりだったばあちゃんは、
じいちゃんが喉頭がんだと分かった瞬間から、
一切、言わなくなりました。
このままでは、誰も自分の介護をしてくれない。
このままでは、自分が死んでも誰も悲しんでくれない。
ご先祖様たちが、そう思ったか?
じいちゃん本人が、そう感じていたか?
いろいろと順を追って、
介護してもらえるように、
死んだら悲しんでもらえるようにしてきて。
みんなに介護の場を与えて、
みんなが介護疲れする前に、
強い希望どおりに、最期は自宅で。
そして、死なずに生きて退院する笑ちゃんを待って、
笑ちゃんが家着いた10時間後に、
じいちゃんは旅立ちました。
棺に《クギ》は昔のことで、
その代わりに、押さえの帯の生地。
その帯の後ろに、お別れの言葉を書きました。
『オジジ、急に姿を消すとさみしいね。
家の中にいるような気がします。
長い間 仲良くしてくれて有りがとう
おばばです。』
夫婦喧嘩が日常だったのに。
仲良くしていたつもりだったんだ。
ん? なんだこれは。
反りが合わず、
声も聞きたくなく、同じ部屋にいるのも避けていた
母ちゃんの弟が、1番悲しんでいました。
ん? なんなのだ、これは。
頭の中が《嫌な事》でいっぱいで、
ぎゅーっと締め付けられていたのに、
徐々に弱り衰えていき、そして亡くなると、
ぎゅーっと締め付けられていたものが、
だんだんとほぐれていき、
その隙間から、
良かった思い出が、1つ、また1つと、
ふわふわと舞い降りて来ます。
親の死とは、こう言うものなのか。
60歳を前にして、
人生、まだ初体験があるものですね。
おーい❗️ じいちゃんよー。
絶対に、ぜーーーーったいに、
笑ちゃんを連れて行かないでよーーー🚀
84歳、やりたい放題の人生。
じいちゃんの辞書に、《悔い》と言う文字は、
ないと思います。
《合掌》ではなく、《拍手》を贈ります。
敬意を込めて。