(*この記事は後半に「TEXT」のネタバレを含みます。)
先週末の3月31日(土)と4月1日(日)は、札幌で芝居を3ステージ観て参りました。
一時は危ぶまれていた旅程ですが、あちこち移動と徹夜でなんとか調整。
ギリギリで実現しました。
観てきたのは、かでる2・7で上演されていたラーメンズ「TEXT」31日13時公演、18時公演および4月1日13時公演。
予期していたとおり、非常に札幌らしい盛り上がりでした。
そればかりか、札幌のおおらかさ効果で公演ツアー最後特有のお祭りムードに拍車がかかり、さらにそこへ、とんでもなく珍しいハプニングが加わる顛末。適切な対応で上演続行したものの、公演中に演者が故障した舞台は初めて観ました。
2004年の札幌ラーメンズライブにおける『箱馬に足をガ~ン』事件といい、2005年のALICEにおける『小林ティーチャーご乱心』事件といい、けっこう何かが起こる札幌。
しかし今回の類い稀な事件も、北海道民の皆様方は大きな包容力で暖かく受け止めていたように思います。
ビバ・札幌。
詳細は以下のネタバレ記事に譲りますが、回を重ねるごとに作品のゆらぎの幅が大きくなってゆく様子が、観ていて興味深く思えました。
以下、ネタバレ。
2月3日および3月17日と比べてみると、総体的に、ALICEの時ほど激しい台本変更はなかったようです。
1つ目のコントへのディティール付加、3つ目のコントの著しいゆらぎが印象的ですが、コントの意味が変わってしまうほどのゆらぎはなし。TEXTとして意味を固定されていた公演であったと思えます。
いろいろ書きたいことは多いのですが、とりあえずメモ的に、事件について2つと、新たに気付いた点2つ。
○事件1 ゴールデンボール号、後肢故障
31日の夜公演で、珍しいことに小林氏が足を故障するというハプニングが起こりました。
4つ目のコント「条例が出た」の うやうや条例 後の暗転時に何らかの事故があったらしく、ミュージカル条例以降の小林氏は左足に加重できなくなっていたように見受けられました。そのまま動きの少ない「ジョッキーと馬」のコントまで進めていましたが、最後のコントの前に「やめないからね。」と小林氏登場。片桐氏と並んで事情説明するに、『小林が右膝を痛めた』とのこと。『動きが鈍くなるけれども最後のコントはどうしても見せたいので、申し訳ないが本来よりもアクションが落ちた状態で観ていただきたい』と請う小林氏に会場拍手。
『じゃ、はじめます』という小林氏。はっとして慌てて裏へ新聞を取りに走る片桐氏に会場和やかな笑い。
誤植の『忍』ネタでひざまづく場面では、ぎこちない動きに対して会場からは心配のどよめきが上がり、それに対して『おおっ、心配されている!』と喜んでみせる小林氏。
最後まで演じきり、そのままカーテンコールで再度事情説明。
曰く、『歳なので膝にきちゃって』『いつもだいたい30分程度でなおるんですけど』『がんばってなおします』等々。
翌4月1日の楽公演では、小林氏自らが開演前アナウンスで諸注意とともに『昨夜の公演で小林が足を痛めました。それゆえ、動きが少々鈍うございます。』と笑いをとりつつ事情説明。それを除けば公演そのものにはとりたてて影響はありませんでした。
観ていた感じた点が二つ。
その1。ご本人は不本意かもしれませんが、条件付きでの上演続行は非常に適切な判断のように思えました。元々大きな動きを要求しないコントなので、本来の価値は損なわれていなかったと思います。強いて言えば、ミュージカル条例だけが真価を発揮できていなかったのではないでしょうか。
その2。ご本人は右膝を故障箇所と申告してらっしゃいましたが、左足負重性の跛行でしたので、獣医師としての見地からは左足首か左股関節のどちらかに故障があるように見受けられました。見ていててっきり、左足首を『ゆっくり捻挫』したのかと思っていたので、ご本人の説明には少々驚きました。気になります。
○事件2 鞭、折れる
4月1日の楽公演で、ジョッキー馬坂の鞭が折れるというハプニングが起こりました。
『苦行』のシーンで振り回されるうち、持ち手の柄の部分からポッキリ折れて馬の背後へ飛んでゆく鞭。
会場大喜び。途方に暮れながらも、折れた鞭で様々なネタを連発する片桐氏。『最後だからもういいや』と開き直ってみたり、余裕です。その後、アドリブを連発しながらお祭り騒ぎのうちに5つ目のコント終了。
ジョッキーがすべてをかっさらってゆくかのような、強烈な印象を残したハプニングでした。
エンドトークによれば、51公演中鞭は3回折れたのだそうで、『そのうち1回はよりによって収録の日だったんですよね。おかしくってしょうがない。ぜひ映像に残したい』と小林氏。
映像化に期待です。
○気付いた点1 二つ目のコントは順列組み合わせ構造
二つ目の「同音異義語」のコントは、2人の演者が演じる並列した2つのシチュエーションで『同じ文字列が同時に別の意味を担う情景』を4つのユニットとして提示していますが、この4つのユニットはそれぞれ同音異義語が意味として成立するベクトルを変えていった順列組み合わせ構造を持っていることに気付きました。
片桐氏をA、小林氏をBとするなら、
ユニット1 A←B
ユニット2 B←A
ユニット3 A=B
ユニット4 B→←A
という方向性が見受けられます。
単独で成立する発話と、意味重複のある発話の位置関係を見ると非常に面白い構造になっていて、観ながら気付いてエキサイトしてしまいました。
なお、この構造発見については、詳細記事をのちほどJSRブログへ投稿予定です。
興味のある方はどうぞ気長にお待ちください。
○気付いた点2 5つ目のコントは『引用』がテーマ
5つ目の「ジョッキーと馬」のコントは、いっけん、ジョッキーの奔放ぶりを主体に据えた、父さんやギリジンの系譜をなぞったセルフオマージュコントとしての理解が先に立ってしまい、解釈が容易ではないと思います。
私もジョッキーの魅力のせいで、今まで冷静な視点で観ることができていなかったのですが、今回の鑑賞でふと重要な台詞のことに気付きました。
劇中、ジョッキーはしきりに『ものの本によれば』という言葉を繰り返します。
ジョッキーはそのたびに間違った解釈を開陳するわけなのですが、この『ものの本によれば』という引用解釈行為がじつはこの5つ目のコントのテーマなのではないかと思えます。
じつは、TEXTという英単語には、「聖書から引用した聖句」という意味があります。(参照「Oxford English Dictionary」)
コントの最後でジョッキーは『ものの本とは、モノホンのものの本のことである。モノホンのものの本とは、台本のことである。全部台本どおりじゃー!』と宣言します。
となるとつまり、ジョッキーの誤った引用は『台本』という『聖書』からの引用句であり、それはすなわち「TEXT」である、ということなのではないかと思えるのです。
初見時、私はこの5つ目のコントだけが「TEXT」という作品としては異質ではないかと考えていたのですが、今回のこの解釈をもってようやく腑に落ちました。
興味深いです。
なお、この「5つ目のコントのテーマは『引用』説」についても、のちほど詳細をJSRブログへ投稿予定です。
興味のある向きは、どうぞ気長にお待ちください。
追記: 今回の観劇で個人的に最もツボだったのが、31日夜公演のジョッキー馬坂が放った『光学迷彩』というネタ。
『保護色』の代わりに放った言葉でしたが、ジョッキーの黄金に輝くジャケットを光学迷彩に見立てていることで、私にとっては妙に納得。会場のウケはいまひとつでしたが、わたくし個人的に、これには異様にウケてしまいました。
ちなみに光学迷彩とは、迷彩模様ではなく光を使って物体を透明にして見え難くするという未来の技術。SFで考案されたアイデアで、近年ですと「攻殻機動隊」などでおなじみでしょうか。
ちなみにこれ、日本の研究者が実際に具現化しています。(詳細は→
こちら (動画あり))
私は数年前に日経サイエンスの表紙裏を見て度肝を抜かれました。
来てるな、未来!
いつかぜひ実物を見てみたいものです。
追記2: 「条例が出た」のコントを観ていて、笑いと悪意についての問題が再燃。異質な文化への悪意が笑いの方向性とあまりに一体化していて気付かれ難いけれど、ある意味で、このコントが「TEXT」の中で最も悪意の顕著なコントかもしれない、と感じました。