はざまの庵

分類し難い存在を愛でる覚え書き by aiwendil お気軽にコメントをどうぞ。

<font size="-3">「kino」と「キノの本」感想覚え書き。</font>

2004-09-24 03:53:27 | 佐藤雅彦
佐藤雅彦の短編映画集「kino」、そして「kino」製作にかんする解説や感想を綴った「キノの本」、つづけて満喫しました。

まず、映画「kino」本編を観て、「ありがとう佐藤雅彦!!!」という感情で頭の中がいっぱいになりました。
とにかく感動してしまって、なぜかもわからないまま涙が流れる流れる。
佐藤さんご自身が帯の文句で公言していらっしゃるように、たしかに実験的な手法にあふれた映画です。
短編のひとつひとつに「こういう手法で作ってみました」という角書きが貼ってあるかのような潔さすらあります。
しかし、映像実験であると同時に、カメラはあくまで「人間」を見つめているのです。「実験」なのに「人間」を向いている。それだけでもうなんだかうれしくなってしまって、最後は涙が止まりませんでした。
ちょっとした驚きと、感心と笑い。「ええっ?」「おおっ!」「くすっ。」が満載。
そしてなにより優しさと幸福感に満ちています。
どこか遠い国の、どこにでもありそうなさもない日常を、斬新なアイデアでやさしくすくいとった、なんとも心地良い作品です。
「ピタゴラスイッチ」の原形、萌芽ともとれるような手法も随所に見られ、佐藤雅彦の進化までうかがい知れる貴重な1本。
今後、好きな映画は? と訊かれたら、間違いなく「佐藤雅彦の『kino』!」と答えてしまいそうな予感がします(笑)。


そして、「キノの本」。「kino」中の六つの短編「オセロ」「ホテル・ドミニクの謎」「反抗期」「おばあさんの天気予報」「Point」「大人の領域、子供の領域」についてのプロダクションノート、絵コンテ等が佐藤氏のエッセイを折り込みつつまとめられています。
数々の著書や「佐藤雅彦全仕事」、「広告批評」の特集などで目にするのとかわらず、常にわかりやすく誠実な語り口。今現在とくらべてみても、当時からゆるぎのない方法論と主張の一貫性があったとわかります。さらに氏の思考の進化がうかがい知れ、読めば読むほどに頭が下がります。
常に新しい表現というものを誠実に追い続けているその姿勢。やはり佐藤氏は研究者としての私の心の師匠です。


美しくて、謎があって、笑えて、そこはかとなく幸せなもの。そういうものが好きなんだなあ、と自分の嗜好を再確認した今宵でありました。