はざまの庵

分類し難い存在を愛でる覚え書き by aiwendil お気軽にコメントをどうぞ。

東京遠征9/17。

2006-09-18 23:57:11 | アートなど
本日9月17日は、昨日にひきつづき東京で展示会を2つ(3つ?)観て参りました。

まずは、台場の日本科学未来館で開催中の「インタラクティブ東京2006」。
 観る側が関わることで何らかのアクションが生ずる作品、いわゆるインタラクション型のアート作品を集めた展示会です。最先端の科学技術の結晶ともいえる作品が主であるので、アートというよりむしろ実用や純粋な学問を目指して作成されたものも多数みとめられました。実際、観客側が『この技術はどのように役立つんですか?』といった質問を投げかけている場面を何度も目にしました。そういった意味では、展覧会というよりも情報工学系の学会に近いものがあったかもしれません。
 各展示ブースには解説パネルもありますが、基本的には制作者(又は研究チームの誰か)が常駐しており、作品概要と使い方を直接解説してもらえます。
 質問もできるので『ここはどうなってるの?』と気になる色々を確認したり、『ここがおもしろい』と感想を伝えたり『こうできたらいいのに~』と要望を述べたり、作者と鑑賞者もインタラクション(笑)。双方にとってたいへん有意義です。午後になって子供連れの親子が参入してくると、子供の正直な反応で会場はさらに楽しげな空気に。メディアアートの可能性に、毎度ながら感心させられました。
 いっぽうで、繊細な物理的要件に支えられた作品であるがゆえのマシン不調もみとめられ、アイデアを実用に耐え得るものにすることの厳しさと、表現を支える技術のすごさに心を打たれました。ひとつの論文の裏に何十・何百もの実験が潜んでいるように、ひとつの作品の裏にも見えない努力、とほうもない時間と労力が潜んでいるのだろうなと思います。しかし同時に、アイデアが形になったり、問題が解決したり、仮説が証明されたり、何かを発見したときの喜びはその苦労を帳消しにするぐらい大きなものなのだろうなとも思います。きっとこの点は研究者ならば本質的に皆一緒なのではないでしょうか(笑)。
今回出品されていた作品数は27ほど。以下備忘録的に感想。
I-1 KITAKAZE 混んでいて体験できず。残念。
I-2 Embossed Touch Display 指で金属の円盤をなぞると、指の動きに合わせて金属盤が動く。目を閉じると金属盤の大きさが変わったように感じられる。長さ知覚の錯覚を利用した装置。シンプルながら磐石の技術に支えられた装置。とても面白い。
I-3 Gravity Jockey 耳の後ろに電極を貼り付け、2mA以下の微弱電流を流して平衡感覚を操作する装置。なおこの装置、体に電流を流すので体験には同意書が必要です。仰々しいただし書きに少々躊躇しましたが、やはり好奇心には勝てず。結果、ものすごい体験をいたしました。強烈な揺れが体感できます。実際には体は揺れていないのに、体験している本人はあきらかに『揺れている』ように感じられるのです。加えて私はかなり感受性が高かったらしく、体験後もしばら~くクラクラ。帰り際に体験したので、後述のGEISAI会場でも終始妙にふわふわした感覚を味わいました。
聴覚には影響せず前庭感覚のみを選択的に刺激できることも面白いし、三半規管から脳までの経路のうち作用点が不明だというのも面白い。色々な意味で今回いちばん印象的な作品です。
I-4 Perceptual Attraction Force 二方向性の力を一方向へのみ指向性をもって感じさせる装置。私の場合は一般的な感じ方とは違うように感じられてしまい、指向性を体験できませんでした。残念。
I-5 触覚的描画体験 視覚によって、触覚的に抵抗が生じているように感じさせるシステム。いろいろ応用がききそうで面白い。これを利用して、市販の描画アプリケーション上で筆を変えた時に書き味まで変わればいいのに、と夢想。
I-6 物まねロボットハンド 操作用手袋と連動してその通りに動くロボットハンド。最新バージョンでは物をつまむことも可能だそうです。ハイテク。逆説的ですが、こういう生体模倣作品を見ると生物の組織がいかに高性能であるかを実感させられます。
I-7 演奏インターフェイス 混んでいて体験できず。残念。
I-8 Suicaを用いたDigitalPublick Artにおけるインタラクション 鑑賞者がかざしたSuicaの履歴が読み込まれ、映写されたマップ上に地図データとして蓄積されてゆく作品。2月のメディア芸術祭でみたものの簡易版。私のSuicaには仙台管区の履歴しかないので地図上には表示されず。残念。ちなみに、Suica本体には、20件分の履歴が残っているのだそうです。読み取り装置があれば、持ち主の行動がバレてしまいますね(笑)。あなどれじ、Suica。
I-9 水滴を利用した空間充填型ディスプレイ 等間隔で高速滴下される柱状の水滴を、光の照射タイミングでカラフルな3D表示に変貌させる作品。美しい。とても好きな作品。
I-10 Forehead Retina System 電気刺激作品第2弾。小型電極が集まった帯を額に装着し、電気刺激を触覚として感じ取る装置。カメラで映し出された映像を額の刺激位置と相関させることで『額で見る』ことができる。視覚障害者用の知覚システムとして開発されたものだそうです。実際に体験してみたところ、長時間正座してしびれた足を触った時のようなピリピリした刺激が額に感じられ、その刺激位置でたしかに図形(デモでは二本の線)の存在を知覚することができました。もう少しマイルドな刺激方法があればなお良いのになと思いました。
I-11 Wet-Free Water バーチャル流体を操作できる作品。左利き仕様のようで、右利きの私にとってはちょっと残念でした。
I-12 手が届くバーチャルヒューマノイド 混んでいて体験できず。残念。
I-13 Strino Plant Instrument 鉢植えの植物たちが、風にそよぐことで音を発する。うちわで扇ぐとえもいわれぬ音が。風流。
I-14 Tablescape Plus ディスプレイ上に駒を置くと、そこに人物のアニメーション映像が投影される装置。デュアルディスプレイ技術と光線カット技術が使われており、ひそかにスゴい。
I-15 視覚的聴覚体験 顔の向きによって、聞こえてくる音が変わってくるという、指向性音響システム。赤外線感知による音声チャネル切り替えによるものだそうです。視覚障害者のガイドシステムに使えそうだなあと夢想してしまいました。
I-16 Powder Screen 水面のようなスクリーンと釣り竿でバーチャル釣りゲームが体験できる装置。ゲームに気を取られてパウダースクリーン技術のほうに目がゆきませんでした。不覚。
I-17 Powered Shoes 体験できず。残念。
I-18 Fabricel Element 温度変化で色の変わる塗料を布に塗り、電熱線を仕込んで温度制御で絵を表示させる装置。正方形の升目を並べたピクセル画のような構成。孔雀の羽のような色合いも美しく、非発光ディスプレイというところが非常に面白い。
I-19 Freqtric Drums 人間パーカッション生成装置。演奏者と楽器者が電気的につながることで音が発生。つまり、演奏者が楽器側の手に触るとそれぞれ割り振られた音が鳴ります。4人ほどで体験しただけでも面白かったです。最大6人までが楽器になれ、ドラムセットを組むことができるそうで、デモ映像に爆笑してしまいました。大人数でずいずいずっころばしをやったらどうなるのか興味のあるところです。
I-20 Incompatible BLOCK 3D積み木ソフト。ありえない配置がそのまま反映されるので思わぬ画像が生まれます。そのありえなさに思わず笑ってしまいました。
I-21 TWISTER V 裸眼での360°立体映像装置。体験は予約制。科学未来館のラボスペース、レーザー実験室の隣に設置されていました。装置は直径1メートルほどの円筒形で、被験者はその中に入って360°映像を体験することができます。高速で回転するLEDによる残像効果で映像が再現され、なおかつ視差利用で映像に立体感が生まれます。動作も安定しており、技術的にも作品的にも非常に完成度の高いものに思えました。
I-22 Morphovision 岩井俊雄氏とNHK技研との共同作品。高速回転する家の模型に特殊なスリット光を照射することで、実物の家がゆがんで見える、というもの。昨年の超[メタ]ヴィジュアル展で観た「ゆがむ家」のニューバージョン。装置自体がコンパクトになっていたり、回転音がカットされていたり、変形種類が増えていたりと着実な進化がうかがえて感心。何度観てもおもしろい。隠しバージョンの解説モードも見せていただき、理論ではわかっていたしくみを実感として理解することができました。私としては解説モードがとてもエキサイティングで非常におもしろかったです。聞いたところによると、家の模型は600rpmほどで回転しているとのこと。遠心分離機のことを考えると、とても大きなGがかかっていることがうかがえます。簡易近似式でG=1.12×(0.6)2×R(mm) なので、模型の大きさが20cmほどだとすると、庭の柵や犬には40Gほどかかっている計算でしょうか。バランス取りの難しさなども想像され、作品を支える技術にはただただ感心するばかりです。
I-23 LivePic 大きなスクリーンに絵を描くことができ、さらにその絵に息を吹きかけることで絵が動く装置。落書きとのインタラクションが面白い。子供たちの反応が楽しそうだけれども、スクリーンが高い位置にあるのが唯一の難点?
I-24 Ego Balance 鑑賞者を写すスクリーン映像。動くと鑑賞者の中から魚が逃げ出してゆく。それに伴い消えてゆく鑑賞者の映像。最後には輪郭線だけが残る。逃げ出した魚たちに触れると円形の光と音で反応。動かずにいると魚が戻ってきて鑑賞者の姿が復帰するが、触れなかった魚は戻ってこない。流れ出した自分を捕まえる、という概念が面白い。とてもコンセプチュアルなアート作品だと思います。
I-25 Bubble Cosmos 白煙を封じ込めたシャボン玉が光に照らされながら次々と浮き上がってくる。シャボン玉を割ると美しい音が流れる。見た目にも体験してもとても楽しい作品。子供が夢中になっていたのが印象的。安定した動作にも感心。個人的にも好きな作品です。
I-26、I-27 体験できず。残念。

次に、インタラクティブ東京と同時に開催されていた「国際学生バーチャルリアリティコンテスト2006」、こちらも体験して参りました。いずれも学生さんたちの力作揃い。ただ、作品調整に泣かされている作品も数多く見受けられました。
以下、思いつくまま備忘録的に。
V-1 Planet of Grassland 「気配」を演出する着目点が面白い。調整に泣かされていたらしいのが不憫。草の動きがなかなかリアルでよかったです。目に見えない「何か」を探る被験者の探索行動を、あとで被験者自身がCG込みのリプレイ映像として見られたらもっと面白いのになと思いました。
V-2 ぐ~るぐる 体験できず。残念。
V-3 あしゅら 手と足を使って4本の手をヴァーチャル体験。アイデアが面白いけれど、操作性はもどかしい。
V-4 体験できず。残念。
V-5 まじかるSPLASH 杖で噴水を操る装置。解説の必要もなく純粋に面白い。ぜひオープンスペースに設置して欲しいなと思えました。
V-6 Virtual Seesaw 対面式であるはずのシーソーを並列させた作品。背景スクリーンの関係上か、作品をテントで覆っていたのが残念。わざわざテントに入って行かないと何があるのかわかりません。体験の様子を見せてなんぼの世界なので、せっかく面白い作品なのにもったいないなと思えました。
V-7 らくがきえた 子供たちに大人気。いつも行列で体験できず。残念。
V-8 COGAME 手持ちプロジェクタで道を照射し、亀を導くゲーム。制作者側の意図とは違ってなぜかあっけなくゴール。なぜ?
V-9 Sociable Dining Table テーブルの上の皿やポットたちが被験者に寄ってきて自らサービス。ほほえましい。日本古来の九十九神的な世界観ともマッチしていそう。
V-10 新風感 風を感知し花の芽が。そこへ息を吹きかけることでディスプレイに花が咲く。気化熱と熱感知を利用した装置。気化熱利用というアイデアがとても面白い。湿度条件に左右されそうなのに、巧く動作を調整しているのもすばらしい。接客(?)も巧みで、子供たちをうまく乗せる手腕にも脱帽。
V-11 ビュー・ビュー・View ディスプレイに風をあてることで、画面上のブロックが動く。ブロックを動かした先によっては、風が吹き返されてくる。
R-1 KITAKAZE 体験できず。残念。
R-2 CREATUREs:Tabby 光る毛もじゃのインテリアのような家具のような何か。触ることで反応を示す。
R-3 PhysicalDrawingPaper 腕に装着した装置によって生じるタッチペンと描画のズレ。コンセプチュアルな作品。意図は面白いけれど少し伝わり難いかも。
R-4 Crossing Colouful テーブルに配置された3つのマイク。それぞれから入った音声が光の図形として投影され、それぞれが出会うことで美しい音と光がはじける。説明不要。コンセプトがストレートに伝わる楽しい作品。
R-5 百色園 枯山水を模した砂鉄の庭。調整に泣かされていたのが不憫。
R-6 Empty Box 箱を通して観た風景に映像が加わる。視線管理技術と併せてひそかにスゴい作品だと思いました。

審査結果がどうなったのか気になるところです。

さて次に、東京国際展示場で開催されていた「GEISAI#10」。
国内の様々な若手アーティストの展示即売会です。
正直あなどっておりました。しかし行ってみれば、出展作家たちはいずれも確固たる作風を確立している方ばかり。分野も様々な作家たちの「世界」が所狭しとひしめく様子は圧巻。完全に圧倒されました。
絵画や写真、立体、インスタレーション、パフォーマンスなど、媒体も様々。見て回るだけでも面白いのに、その上、各ブースに作家本人がいて、直接話を交わすこともできます。
私にとって今回いちばん印象深かったのがダジャレアートの高田明日路氏。
言葉を象形的に絵として表現する作家さんです。お題を出すと、即興でその言葉を絵にしてくださいます。見本として「ジョーロ」というカタカナでできたジョーロの絵、「ことり」というひらがなでできた鳥の絵、「くるま」というひらがなでできた車の絵など、どれも『!』と思わず膝を打ってしまうような作品が展示してありました。
とても興めたので、日本で一番多い名字「佐藤」で製作を依頼。その結果、次のような素敵作品を作ってくださいました。
(高田氏ご本人に了承を得て写真を掲載しています)
Takkadasato01
ひらがなで「さとう」。
Takadasato02
横から見ると「SATO」に!
あの佐藤雅彦氏含め、全国の佐藤さんにお知らせしたい素晴らしさではありませんか。
思わずハンコにしたくなりました。
ほんの数分の間のクリエイト。高田明日路氏。すごい才能です。
高田氏ご本人は残念ながらHPなどは持ってらっしゃらないとのこと、作品を目にできるのは限られた場においてのみ。もしもどこかで遭遇する機会があればぜひまた製作を依頼してみたいです。
もっと知名度が上がってくれることを祈ります。

時間ギリギリまで駈け足で会場を回り、18時過ぎに帰路につきました。
帰宅したのは22時過ぎ。
インタラクティブ東京と併せて、非常に濃密な一日だったと思います。