はざまの庵

分類し難い存在を愛でる覚え書き by aiwendil お気軽にコメントをどうぞ。

芸術の秋ツアー2007@東京。

2007-10-01 22:07:43 | アートなど
ツアー最終日の昨日、9月30日は、東京の台場にある日本科学未来館で開催されていた「インタラクティブ東京」「国際学生対抗バーチャルリアリティコンテスト(IVRC)」「デバイスアート展」を見て参りました。
本当は科学未来館で開催中の企画展「地下展」のチケットも購入したのですが、うっかりして気が付けば閉館時間で見られずじまい。
いずれ日を改めてリベンジしたいと思います。

「インタラクティブ東京」と「IVRC」は昨年の9月半ばに拝見してとても面白かったので、今年も楽しみに足を運びました。
行ってみれば、昨年と比べて幾分パワーアップしたような印象を受けました。
例えば会場の使い方。
昨年は1階奥の広い催事スペースを使ったワンフロア展示でしたが、今年は7階の中規模スペース3部屋を使った構成でした。作品数自体は変わりませんが、会場を適度に配分することで、1作品ごとのスペースが把握しやすくなるとともに、観客の動線がすっきりしてとても見やすくなっていたように思います。「インタラクティブ東京」と「IVRC」の区分けがはっきりしていたのもわかりやすくて良かったと思います。
作品も全体的にレベルが上がったのでは?と思えるものばかり。
殊に「IVRC」の充実ぶりには舌を巻きました。荒削りだけれど奇想天外で遊び心に満ちた作品が多く、製品としての完成度に制約されない自由な発想が活きた展示になっていたと思います。学生さんだからこそできる、学生の本領発揮の見本のような催しだったのではないでしょうか。
昼過ぎに行ったため、親子連れが多く訪れており、子供たちが実に楽しそうに作品体験しているのが印象的でした。子供でも直感的に楽しめる要件が揃っている点において、まさにインタラクティブ技術の真骨頂ここにあり、という状況だったのではないかと思います。

以下、メモ的短評。

・インタラクティブ東京
I-1 TWISTER V :予約がいっぱいで体験できず。残念。去年からさらに進化したのでしょうか。気になるところです。
I-2 ビュー・ビュー・View :風の情報を遠隔地へ届けるインタラクティブシステム。昨年のIVRC作品が双方向システムとして進化。風の検出器兼出力デバイスともなる映像スクリーンを二基接続することで、うちわで扇いだ風や呼気による風を、遠く離れた場所へ伝えることができる。デモ映像ではテレビ電話の向こうから吹いた息で誕生ケーキのろうそくを吹き消している場面が紹介されており、情報伝達における新しい提案として非常に面白いなと思いました。ある意味で、これはひとつの新機軸かもしれません。
I-3 CoGAME :携帯式プロジェクタで投影した道の映像で亀のロボットをナビゲートするシステム。これも昨年のIVRC作品が進化したもの。ディティールや精度が格段に上がっていて感心。投影の向きにかかわらず、投影された映像が常に正方形なのがすごい。亀が展示フィールドを離れて外へ『お散歩』していたのが印象的でした。
I-4 inter-glow :4つのライトが人物情報を担い、中央のテーブルに光をあてることでそれぞれの「人格」同士が会話するシステム。ライトの点滅がそれぞれ別々の周波数になっており、その周波数を検知することで人物情報が認識される。ある意味、光を使ったスイッチのようなものかと。なおかつ重複検出自在なのが面白い。岩井俊雄さんのサウンドレンズでこの装置を『聞いて』みたら面白そう。
I-5 多点入力デバイスを用いたアニメーション作成システム :テーブル上のディスプレイにある映像を手で触って何か所でも直接操作できるシステム。同時に何カ所でも操作できるというのがすごい。特殊なアクリル板へ触点が接着することで生じる光情報のゆがみによって位置情報を検出しているとのこと。始めて聞く技術。面白い。
I-6 ログログ: 川の映像の上に渡された丸太橋を渡ると、その振動が川の映像に反映されるシステム。ICCのキッズプログラムにも出展されていた作品。橋を渡った時だけリアクションが生じるのが面白い。横方向からのプロジェクションというのも斬新。
I-7 目が動いた時だけ見ることができる情報提示装置: 縦長に並んだLEDの光を見ながら目を動かすと画像が見える、というディスプレイシステム。今年のメディア芸術祭地下にも展示されていたもの。眼球のサッケードを利用した点が面白い。プロジェクタの映像を見ていて目を動かすと赤青緑に光分解された色が見えることがあるのは、おそらくこれと同じ原理。
I-8 オプティカル トラジェクトリー2: 倒れても起き上がるライトに、360°の傾き方向と色相環を対応させた、『回すと虹色に光る』ライト。RGBシステムと人間の色彩感知特性とを勘案した色彩グラデーション開発の解説映像が非常に面白い。明度を一定にした色相環には純粋に驚きました。以前色盲のメカニズムを調べた時に、人間の錐体細胞の検知範囲にはかなり偏りがあると知ったので、その予備知識のおかげで余計に面白く感じられました。いろいろな色覚の人間にはそれぞれどう見えるのか興味深いところです。
I-9 Thermoesthesia 冷温感覚ディスプレイ: 微細な温度を検知し、触って操作できるディスプレイシステム。温度で操作、というのが斬新。面白い。分解能の精度がどれくらいなのか興味のあるところ。
I-10 Kage no Sekai: テーブル上にあるモノの影から小さな生物がわき出し、動きを感知すると消えてしまう、というシステム。物の怪や妖怪的な、幼少時の心象風景を再現したようで面白い。テーブル下方からプロジェクションした映像が木目調のテープを透過して影の中に写り込んでいるものと思われるが、かたくなにカゲを生き物扱いして仕掛けなどないと言い張っていたスタッフさんの徹底ぶりが印象的。
I-11 ビデオエージェント: 写真をもとにした画像をディスプレイ上へ配置し、それらをキャラクターのように動かせるシステム。写真を切り抜いてコマ撮りしたような映像が自律的に展開してゆくのが面白い。
I-12 くまたちと: クマのぬいぐるみをいわば操縦桿のようにして、映像の中のクマを操作するシステム。クマの腕を交互に動かすことで前進、首を回すと方向転換。
ところで、「くまたちと」の横にひっそりとあった「ホタル通信」が興味深い。装着者の呼吸を感知して明滅する明かりとして遠隔地へ提示できる装置。Macのスリープランプのよう。誰かの気配、活きている証のバイタルサインを視覚的に共有できる点でとても面白い。パフォーマンスアートやインスタレーションへ応用できそう。検知が呼気の気流であるため、装置が仰々しいのが唯一の難点か。
I-13 TORSO: 人間の腰から上の動きを忠実に再現したロボットアーム(?)による遠隔地視覚取得マシン。視差で遠近感も取れ、側面を覗き込む動作も可能。限りなく実視覚に近い視野が得られる。とにかくすごい!の一言。
I-14 Gravity Grabber: 人差し指と親指に装着した2つの装置で、持っている立方体の中にあたかも物体が入っているかのような感覚を再現するシステム。装置によって指を締め付けたり緩めたりするだけで、動きが発生しているかのような感覚を再現できるのが驚き。面白い。
I-15 Tempo Primo 演奏者のテンポ感をいかした音楽表現支援システム: ボタンを押すテンポを一定に保っていると、音楽が自動的に生成されてゆくシステム。ボタンを放すタイミングが難しいが、上手くゆくと何重にも音が重層されてゆく。その様子が何度やっても面白い。
I-16 Haptic Telexistence 分布型触覚情報を伝達するロボットハンドシステム: 手で動かした通りにロボットハンドが動く、というシステムに、ロボットハンド側の触覚情報をフィードバックさせるシステムを組み込んだもの。触覚の代わりに微小電極による指先への電気刺激を採用。操作部が大きすぎて私の手にフィットしなかったためいまひとつすごさが実感できず残念。フィードバック刺激はなかなかのもの。ただ、実用性を考えると、繊細さが要求される手術のような操作に使うためには、この刺激法では操作者の負担が大きすぎて本末転倒になる可能性もありそう。進化を期待。
I-17 String Walker: 半ば空中に吊ったサンダル状の靴を履くことで「その場で歩き続ける」ことを可能にした装置。足を踏み出すごとにもう片方の足が引き戻されるので、普通に歩いているにもかかわらず足の位置が保持される。前面にはディスプレイがあって、足の情報と連動しているので、仮想の町の中を歩くことができる。
I-18 Sound Candy: 混んでいて体験できず。残念。
I-19 Spilant World: 混んでいて体験できず。残念。
I-20 Kobitoのケーキ屋: 混んでいて体験できず。残念。

・IVRC
V-1 MABOROSHI: スクリーンに映る光の中で、目の端にちらちらと見える何か。瞬きをしたり目を動かしたりすると、輪郭のゆがんだ人影がかすかにみとめられる。驚き盤の要領で目の前で手を振ると、見ていたのが白抜きのきちんとした人物シルエットであったことがわかる。映像条件としては常に同じなのに見えるものが違ってくるのが面白い。
V-2 かげかみさま: 壁のスクリーンに映る二次元の影を自分の手の影でつまんで『3次元変換装置』へ落し込んでやると、床のスクリーンへその物体の正体が3D映像で写し出される。影たちの『正体』が奇想天外で予想を裏切ってくれるのが文句なしに面白い。ネタ勝負的なところがエンタテインメントとしての強みだけれど、同時に、技術よりも影→3Dの意外性のアイデアのほうが注目されてしまうという弱みもありそう。壁と床のスクリーンを繋ぐコンベアがアナログな物体であることで、あたかも影が運ばれて3Dになったかのようなリアリティを生んでいるのが興味深く感じました。
V-3 虫 HOW? : 専用手袋を装着し、アリの行列映像に手を触れることでアリが腕を這い登ってくるかのような感覚を再現するシステム。山アリのように強烈な感覚でした。おそらく電気刺激。
V-4 いれたら: 生物の口の中を再現した装置。真実の口の中に手を入れると、生暖かい。さらに舌が手を舐めてくる。馬や牛の口に手を入れた感じにとても近い。リアル。湿度と温度が絶妙。感触と舌の大きさは馬っぽい。素材が気になるところ。
V-5 HOP AMP: ジャンプ感覚を増幅してくれるシステム。トランポリンの足下にビル群を見下ろす映像があり、ジャンプの強さに応じてビルが遥か彼方に小さくなる。気分は大ジャンプ。かなり爽快。
V-6 Heaven's Mirror: 鏡像の視覚効果が現実的に再現されるシステム。傾斜再現と物体破断感覚再現の2種。
V-7 かげくり: 自分の影と映像とのインタラクションシステム。振り返ってから目を戻すとその隙に映像が変わっている、という演出が面白い。
V-8 HAPPA!!: サトイモの葉のような大きな葉っぱを上下に扇ぐと、その勢いに応じて盆栽のような木のオブジェから泡が吹き出してくる。泡を生命に見立てた木の育成システム。接客上手で根っからのパフォーマンサーのようなスタッフさんが印象的。
V-9 風景バーテンダー: 液体の入った8つのびん。それぞれの液体が風景要素になっている。びんの中身を好きな配合でシェイカーに入れ、カクテルをつくる要領で混ぜ合わせてグラスに注ぐと、作られた風景がスクリーンに表示される。セットや舞台装置のしくみが考え抜かれていて、びんの中身を混ぜた液体が風景になる、という設定を、直感的に理解できるようになっている点が秀逸。ハイテクは水面下で処理され、テクノロジーを意識させることなく日常動作のみで結果が現れるので限りなく魔法的。
V-10 ムーミのいる部屋: 部屋の中に多数の映像を浮遊させるシステム。
V-a 老化防止ゲート: 人が通ると美容液を噴霧するゲート。たいていの化粧水はエタノール含有だと思われるのですが、私の体質上、微量でもアルコールを吸ってしまうとNGなので念のためパス。残念。
V-b Cycling Colorful Composer: テーブル状のディスプレイ。同心円状に並んだ音階の中を演奏タイムラインがぐるぐる回っている。その上に発光パーツを置くことで、位置によってさまざまな音楽が奏でられる。いわば光のオルゴール。子供たちに大人気。いたずらに苦戦しているようでした。
V-c Visible/Invisible: ルーペ状のモニタで漢字を認識し、その文字に近づけると画像の漢字が古代へ遡ってゆき、ついには漢字の元となった事象の写真が現れる。空間上に時間軸を置いて、漢字という媒体で時間情報を再現してみせた着眼点が面白い。表意文字という漢字の特性を活かした表現であり、立派なアート作品としての強度もありそうに思えました。
V-d Popping-Pump: モニタ上の3D物体に空気入れを接続し、ポンプを動かすとそれに連動して物体映像が膨らんでゆく、というシステム。空気を入れすぎたり、膨らんだモニタ上の映像を触ると物体映像が破裂してしまう。ポンプを動かす動作と映像の膨らみ具合が絶妙に連動していてなかなか面白い。

大会本選にはどの作品が進んだのでしょうか。興味のあるところです。

その後、デバイスアート展をふらりと見て夜の新幹線で帰宅。
7泊8日、アート三昧。じつに充実した夏休み(遅い!)でした。
忘れられない記憶になりそうです。