絶対に許してはならない、偽りのハングタンだけは…絶対に
ある晩、盛岡学園の教諭栗山和正がある女子生徒の凶刃に倒れた。しかし盛岡学園に今中と言う生徒はいない。
「栗山和正、女子生徒への不義密通の罪で処刑する。ザ・ハングタン」
栗山の死体のそばにはこういう書置きがあった。
実は10日ほど前に盛岡学園の不良生徒と卒業生のカップルがスーパーセンターの駐車場で排気ガス自殺を図るという事件が発生。その後教諭や生徒への暴行が後を絶たなかったが、ついに犠牲者が出たとなると話は大事だ。しかも「ザ・ハングタン」と名乗る集団が存在しているのだから、マッキーもショパンも気が気でない。
マッキーとショパンは栗山の葬儀に参列した。葬儀が行なわれたのは北山の報恩寺、五百羅漢で有名な寺である。
「まったく、栗山先生を殺してなんかいないって言うのに」
「生徒が殺したと言う証言があるわ」
そこへスティングこと原俊彦がやってきた。何やら慌てたしぐさである。
「大変だ。おたくのクラスの生徒が逮捕された」
「えっ!?」
「どういうことよ」
「実は昨夜の栗山先生の事件の前に、ハングタンが通り魔事件をやったと言うんだ」
それを聞いたマッキーとショパンはすぐに盛岡中央警察署へ。
「すいません、ちょっと通りますよ」
「担任の牧村です。逮捕された生徒と言うのは…」
なんと逮捕されたのはウイングとアロー、そしてホワイトだった。
「美雪、それに高橋!?」
「葵ちゃんまでいる」
「何だ、やっぱりおたくの生徒たちみたいだな。ハングタンというのは」
刑事たちは根拠もなしにマッキーたちをハングタンだと断定したようだ。当然マッキーとショパンは浮き足立ったが、そこは別に知らないと白を切って見せた。
「知りませんよ」
「ハングタンって、どういう人たちなの」
刑事はハングタンの書置きについて説明する。3日前には通り魔事件で市の職員が犠牲になったが、その市の職員は競馬の金を着服して自分が馬券を買う金にしていたらしい。それからその前に襲撃された放送局のアナウンサーはフットサルの選手と交際していることが新聞で話題になっていた。さらに不正が噂される企業の重役も刺されて一時重体となった。
「でも殺人事件なんてね」
「ハングタンというのはね、人殺しは決してしないんですよ。それに」
「どうした」
「ハングタンという存在自体が知られる筈はないんです」
盛岡学園の理事長室、ゴッドこと大谷正治理事長はスティングとエースに話をした。
「牧村先生、横田君、それに斉藤、白澤、高橋。彼女たちが逮捕された。そこでだ、彼女たちを抹殺してもらいたい」
ゴッドのこの話にエースは黙り込んだ。スティングはそりゃ無茶だと訴えたが、ゴッドの決心は固かった。
「原君、ハングタンは人を殺めたりしないとか言うけれど、そんなことで何になる」
「はぁ」
「わたしが危惧しているのは、ハングタンの存在が公になった場合だ。そうなるとわたしの立場もある、わかるな」
「確かにゴッドの意見はもっともでしょう。でも…」
「そうだ。もし本当に彼女たちがやっていないというのなら、24時間以内に証を立て、真犯人をハンギングしてもらいたい」
「わかりました」
「牧村先生のためなら、クラスの垣根も越えてみせます」
こうして、24時間のタイムリミットの中でハングタンは偽者のハングタンをハンギングすることになった。
その頃、偽者のハングタンのアジトでは女の高笑いが聞こえた。
「ハングタンの正体は女子校生だって」
「あら、いやだ」
「でも、あの原俊彦と言う男は役に立ちますね」
「あらあら、お兄様」
お兄様と女性たちに呼ばれているのがリーダーの安田恭平だ。アジトは市内の菜園にある安田の興信所である。
「しかしまずは偽装自殺、それから原俊彦がスクープした記事をネタに通り魔を装いハングタンを名乗る。いい方法じゃないですか」
「そうよ、これであたしたちは勝ち組だわ。女神様よ」
「晃子、やったな」
15時、スティングは偽ハングタンのアジトにいた一人の女性に注目していた。
「あの女なんか、ハングタンやっていそうかな」
彼女は石倉伸子、28歳。普段は市内の銀行に勤めるOLだ。しかし持ち物がかなり高級だ。
「岩手のOLが買うレベルじゃない。こんなことできるのは金がたっぷりあるからだ」
そう言ってスティングは石倉を尾行。石倉は駅の中にあるデパートで今日すぐに着る服を買った。
「うわっ、高そうだな」
ちょうどその頃、本物のハングタンたちは盛岡中央署から釈放された。マッキーは生徒たちとこの状況について考えた。
「もしもこれが事実だったらどうする?」
「どうするも何も、あたしたち何もしてないのに」
「そうだよ」
「朝に捕まったときなんて、ただ単にハングタンなんて…と言ってただけなのに」
「それだけで逮捕されちゃ」
「バッキャロー!!」
ところが、そこでハングタンたちを盗撮していたストーカーがいた。安田である。そんな安田のもとに電話が。
「原俊彦は今日は休みか」
「はい、どうやらハングタンの事件にはノータッチのようで」
「そうか。これでハングタンが正義の味方だと誰もが思ってくれたら、と思っていたのだが…まさか逮捕とは」
「おっしゃる通り、しかしハングタンを祭り上げてどうしたいのでしょうか」
「そんなことは聞くな」
スティングは石倉の尾行を続けていたが、念のためショパンの携帯に連絡を入れてみた。
「あ、先生?今重要参考人を尾行中」
「重要参考人?」
スティングの説明では、市職員と会社重役の事件の際に石倉伸子は会っていると言う。それにこの石倉の恋人と言うのがトップ屋らしいのだ。
「昔いただろ、アッシー、ミツグって。そういう類らしいよ」
「男の人が実際に手を下した、というわけね」
「しかし盛岡学園の話になると厄介だ。多分彼女は関与していない、となるとその男が鍵になる」
「わかったわ」
マッキーは安田の視線が気になっていた。そしてマッキーと安田の目が合った瞬間、安田は大通りの方へ駆けていった。すぐに生徒たちが追跡したが、産業会館ビルの交差点で見失った。その後安田と石倉はアジトである国際探偵社に入った。
国際探偵社、つまり偽ハングタンのアジトでは石倉がスティングに目をつけられたことを安田に話していた。
「あの人、多分あんたにも気付いているはずよ」
「さぁ、それはどうですかね」
「でも、でも…」
「だったら原俊彦を消せばいいんじゃないですか?」
安田はそう言って小説本を読んでいた。そしてそこに二人の女性がやってくる。安田は二人の女性に一万円を手渡していた。
「今中由佳君、堀口恵理君、一万円だ」
「ありがとうございます」
しかし石倉は不服そうな顔。そりゃ無理もない、金でなんちゃって女子校生を演じた上で殺人なんて犯すのだから。
「こんなことして、よく平気ですね」
「お金がもらえて、しかも不平不満の分子を消すことが出来るんだから」
「みんなの敵はハングタンに処刑されるべきよ」
「その通り、世間は悪い人たちに不満をぶつけたくてうずうずしているのだ。その不満が鬱積して腐海と化したのが現代日本だ」
そう言って安田と電話した男がやってきた。
「これはゴッド」
ゴッドと名乗る男は安田にジュラルミンケースを手渡した。中には一億円が入っている。
「しかしけしからんな、盛岡学園の人間が捜査している」
「はぁ?」
「お前たちが利用している原俊彦、あいつがハングタンを操っている」
「わたしたちのほかにもハングマンごっこしている連中が」
「そうだ。だから原俊彦と盛岡学園の関係者を抹殺しろ」
石倉は了承した。
「わかりました、さっそく例の通りに」
ゴッドが出て来たところをスティングたちも目撃。
「あれ?どっかで見たことがあるな」
スティングは見覚えのあるゴッドの顔を思い出した。
「経済評論家の大井勝雄だ」
マッキーも父の勤める蔵の蔵元から話だけは聞いていた。かなり強欲な経済論者だったという。数年前まで信越経済大学の教授だった。
「そんなえらい学者やエリートが、社会悪撲滅を謳っては…」
「エリートさんは必要悪ってことね」
「おいおい、そんなこと言うなよ。安田だって好きで公務員辞めて探偵になったわけじゃないからな」
スティングは安田の素性も調べていた。安田は4年前に県庁を辞めていた。原因は女性関係だったと言うが、それは県議会議員の情婦にされた女を救うべくやったことだったと安田はスティングに話したことがある。
「エリートだって間違ってたら訴えようとするのさ。でもその県議会議員は国政進出の噂があったから…」
「もみ消されてしまった、というわけね」
「そうだ」
19時、まだ国際探偵社の近くで見張るスティングとエース。そこにショパンとアローがやってきた。アローはクロスボウのようなものを手に持っていた。
「葵ちゃん、それは?」
「名づけてアローガン、これで発信機を取り付けるのよ」
「発信機?」
そして国際探偵社の近くの電柱ではホワイトとウイングが見張っており、マッキーは反対側でオペラグラスを片手に、トランシーバーを肩口にという格好で待機。
「どう?」
「あっ、今出て来た」
ちょうど安田たちが出て来た。しかし表に車はない。いったいどこに車があると言うのだろうか?すると近くのタワーパーキングで安田は係員に話をした。
「例の奴」
「かしこまりました」
そして安田は少し小さめのサルーンカーに乗ろうとした。そのとき
「ちょっと待って下さい。あなたにはどうしてもお話しなければならないこどがあります」
「誰ですか」
スティングは安田にこう言った。
「忘れたんですか?僕ですよ。あの節は本当に申し訳ありませんでした」
「貴様…原俊彦か」
「はい」
そしてハングタンたちも登場。ショパンは偽ハングタンを一喝した。
「あんたたち、ハングタンと名乗っているわけね」
「それが何か」
「本物のハングタンはあたしたちよ」
「えっ?」
安田はサルーンカーに乗って逃げようとした。しかしすでにアローがアローガンでくっつけた発信機がついてしまっていた。
「安田は大丈夫だ。あとは君たちに任せる」
そして本物のハングタンは石倉たち本物のハングタンを撃退。スティングも安田を発信機を頼りに追跡した結果、盛岡学園近くのスーパーセンターの駐車場で身柄確保。
「ここは…一週間前に大坪って盛岡学園を退学した元生徒が一酸化炭素中毒で自殺したところだ」
スティングはさっそくショパンに連絡し、偽ハングタンたちを連れてくるようにした。そして偽ハングタンたちも安田の車に閉じ込められた。
翌朝、盛岡学園の理事長室。ショパンがゴッドに報告した。
「ご苦労さんでした。これで君たちへの処分はなしと言うことになります」
「ありがとうございます」
「しかし、世の中にはすべて偽りがあると言うことですよ。君たちもせいぜいそのへんのことをわきまえて欲しいですな」
「はい」
正午、スーパーセンターの駐車場では安田たちのハンギングショーが行なわれていた。
「一週間前にここで偽装自殺を仕組んだのは皆さんですか」
「違う、あいつらは自殺したんだ、だよな」
「こうやって死んだんですよ」
「やめて」
「あの子は学校の生徒に破廉恥なことを言わせるから、セクハラだって…それで退学させられたのよ」
「何だって?」
「あたしたちの秘密を知られた美樹と一緒に…」
「そうですか、大坪公一君と佐々木美樹さんの偽装自殺はあなたたちだったんですか」
しかし安田は白を切ってばかり。
「やめろ、嘘だ、嘘だ」
「じゃあ市職員殺しと盛岡学園教諭殺しは」
「盛岡学園の教諭殺しだけだったのよ、美樹のかわりにあたしたち利用して」
「なるほど、栗山先生はあなたが殺したんですね」
「でもそれは安田のお兄ちゃんが」
「な、何を言うのか!自分たちで裏切ろうとした仲間を殺めた者が、何を言うのかっ!」
そして石倉は安田の首を絞めた。
「安田さん、そうやって美樹も、栗山先生も殺したんですね」
「伸子、許してくれ。俺は正義のために色々とやってきた。しかしそれがどうだ」
「確かに僕も最初は県職員安田恭平とは書かなかった。石川尚登県議と書くつもりだった。しかしマスコミの悲しさ、報道管制で石川尚登の記事は没にされた」
「そうだよ。だからそんな世の中がいやになった女たちを集めて、俺は探偵気取りのリーダーさ。盛岡の正義の味方、世界の恋人だ」
「お前は正義の味方でも世界の恋人でもない、下劣な男だ」
「そうよ、バッキャロー!!」
そして幕が開き、安田と石倉はお互いを見合った。石倉は自分がしていることに恐怖さえ覚えた。そして野次馬たちは
「お前たちは悪人だぁ」
「よくも先生を」
「息子を返せ」
などと罵った。そこへパトカーがやってきて安田と偽ハングタンを逮捕した。
ある晩、盛岡学園の教諭栗山和正がある女子生徒の凶刃に倒れた。しかし盛岡学園に今中と言う生徒はいない。
「栗山和正、女子生徒への不義密通の罪で処刑する。ザ・ハングタン」
栗山の死体のそばにはこういう書置きがあった。
実は10日ほど前に盛岡学園の不良生徒と卒業生のカップルがスーパーセンターの駐車場で排気ガス自殺を図るという事件が発生。その後教諭や生徒への暴行が後を絶たなかったが、ついに犠牲者が出たとなると話は大事だ。しかも「ザ・ハングタン」と名乗る集団が存在しているのだから、マッキーもショパンも気が気でない。
マッキーとショパンは栗山の葬儀に参列した。葬儀が行なわれたのは北山の報恩寺、五百羅漢で有名な寺である。
「まったく、栗山先生を殺してなんかいないって言うのに」
「生徒が殺したと言う証言があるわ」
そこへスティングこと原俊彦がやってきた。何やら慌てたしぐさである。
「大変だ。おたくのクラスの生徒が逮捕された」
「えっ!?」
「どういうことよ」
「実は昨夜の栗山先生の事件の前に、ハングタンが通り魔事件をやったと言うんだ」
それを聞いたマッキーとショパンはすぐに盛岡中央警察署へ。
「すいません、ちょっと通りますよ」
「担任の牧村です。逮捕された生徒と言うのは…」
なんと逮捕されたのはウイングとアロー、そしてホワイトだった。
「美雪、それに高橋!?」
「葵ちゃんまでいる」
「何だ、やっぱりおたくの生徒たちみたいだな。ハングタンというのは」
刑事たちは根拠もなしにマッキーたちをハングタンだと断定したようだ。当然マッキーとショパンは浮き足立ったが、そこは別に知らないと白を切って見せた。
「知りませんよ」
「ハングタンって、どういう人たちなの」
刑事はハングタンの書置きについて説明する。3日前には通り魔事件で市の職員が犠牲になったが、その市の職員は競馬の金を着服して自分が馬券を買う金にしていたらしい。それからその前に襲撃された放送局のアナウンサーはフットサルの選手と交際していることが新聞で話題になっていた。さらに不正が噂される企業の重役も刺されて一時重体となった。
「でも殺人事件なんてね」
「ハングタンというのはね、人殺しは決してしないんですよ。それに」
「どうした」
「ハングタンという存在自体が知られる筈はないんです」
盛岡学園の理事長室、ゴッドこと大谷正治理事長はスティングとエースに話をした。
「牧村先生、横田君、それに斉藤、白澤、高橋。彼女たちが逮捕された。そこでだ、彼女たちを抹殺してもらいたい」
ゴッドのこの話にエースは黙り込んだ。スティングはそりゃ無茶だと訴えたが、ゴッドの決心は固かった。
「原君、ハングタンは人を殺めたりしないとか言うけれど、そんなことで何になる」
「はぁ」
「わたしが危惧しているのは、ハングタンの存在が公になった場合だ。そうなるとわたしの立場もある、わかるな」
「確かにゴッドの意見はもっともでしょう。でも…」
「そうだ。もし本当に彼女たちがやっていないというのなら、24時間以内に証を立て、真犯人をハンギングしてもらいたい」
「わかりました」
「牧村先生のためなら、クラスの垣根も越えてみせます」
こうして、24時間のタイムリミットの中でハングタンは偽者のハングタンをハンギングすることになった。
その頃、偽者のハングタンのアジトでは女の高笑いが聞こえた。
「ハングタンの正体は女子校生だって」
「あら、いやだ」
「でも、あの原俊彦と言う男は役に立ちますね」
「あらあら、お兄様」
お兄様と女性たちに呼ばれているのがリーダーの安田恭平だ。アジトは市内の菜園にある安田の興信所である。
「しかしまずは偽装自殺、それから原俊彦がスクープした記事をネタに通り魔を装いハングタンを名乗る。いい方法じゃないですか」
「そうよ、これであたしたちは勝ち組だわ。女神様よ」
「晃子、やったな」
15時、スティングは偽ハングタンのアジトにいた一人の女性に注目していた。
「あの女なんか、ハングタンやっていそうかな」
彼女は石倉伸子、28歳。普段は市内の銀行に勤めるOLだ。しかし持ち物がかなり高級だ。
「岩手のOLが買うレベルじゃない。こんなことできるのは金がたっぷりあるからだ」
そう言ってスティングは石倉を尾行。石倉は駅の中にあるデパートで今日すぐに着る服を買った。
「うわっ、高そうだな」
ちょうどその頃、本物のハングタンたちは盛岡中央署から釈放された。マッキーは生徒たちとこの状況について考えた。
「もしもこれが事実だったらどうする?」
「どうするも何も、あたしたち何もしてないのに」
「そうだよ」
「朝に捕まったときなんて、ただ単にハングタンなんて…と言ってただけなのに」
「それだけで逮捕されちゃ」
「バッキャロー!!」
ところが、そこでハングタンたちを盗撮していたストーカーがいた。安田である。そんな安田のもとに電話が。
「原俊彦は今日は休みか」
「はい、どうやらハングタンの事件にはノータッチのようで」
「そうか。これでハングタンが正義の味方だと誰もが思ってくれたら、と思っていたのだが…まさか逮捕とは」
「おっしゃる通り、しかしハングタンを祭り上げてどうしたいのでしょうか」
「そんなことは聞くな」
スティングは石倉の尾行を続けていたが、念のためショパンの携帯に連絡を入れてみた。
「あ、先生?今重要参考人を尾行中」
「重要参考人?」
スティングの説明では、市職員と会社重役の事件の際に石倉伸子は会っていると言う。それにこの石倉の恋人と言うのがトップ屋らしいのだ。
「昔いただろ、アッシー、ミツグって。そういう類らしいよ」
「男の人が実際に手を下した、というわけね」
「しかし盛岡学園の話になると厄介だ。多分彼女は関与していない、となるとその男が鍵になる」
「わかったわ」
マッキーは安田の視線が気になっていた。そしてマッキーと安田の目が合った瞬間、安田は大通りの方へ駆けていった。すぐに生徒たちが追跡したが、産業会館ビルの交差点で見失った。その後安田と石倉はアジトである国際探偵社に入った。
国際探偵社、つまり偽ハングタンのアジトでは石倉がスティングに目をつけられたことを安田に話していた。
「あの人、多分あんたにも気付いているはずよ」
「さぁ、それはどうですかね」
「でも、でも…」
「だったら原俊彦を消せばいいんじゃないですか?」
安田はそう言って小説本を読んでいた。そしてそこに二人の女性がやってくる。安田は二人の女性に一万円を手渡していた。
「今中由佳君、堀口恵理君、一万円だ」
「ありがとうございます」
しかし石倉は不服そうな顔。そりゃ無理もない、金でなんちゃって女子校生を演じた上で殺人なんて犯すのだから。
「こんなことして、よく平気ですね」
「お金がもらえて、しかも不平不満の分子を消すことが出来るんだから」
「みんなの敵はハングタンに処刑されるべきよ」
「その通り、世間は悪い人たちに不満をぶつけたくてうずうずしているのだ。その不満が鬱積して腐海と化したのが現代日本だ」
そう言って安田と電話した男がやってきた。
「これはゴッド」
ゴッドと名乗る男は安田にジュラルミンケースを手渡した。中には一億円が入っている。
「しかしけしからんな、盛岡学園の人間が捜査している」
「はぁ?」
「お前たちが利用している原俊彦、あいつがハングタンを操っている」
「わたしたちのほかにもハングマンごっこしている連中が」
「そうだ。だから原俊彦と盛岡学園の関係者を抹殺しろ」
石倉は了承した。
「わかりました、さっそく例の通りに」
ゴッドが出て来たところをスティングたちも目撃。
「あれ?どっかで見たことがあるな」
スティングは見覚えのあるゴッドの顔を思い出した。
「経済評論家の大井勝雄だ」
マッキーも父の勤める蔵の蔵元から話だけは聞いていた。かなり強欲な経済論者だったという。数年前まで信越経済大学の教授だった。
「そんなえらい学者やエリートが、社会悪撲滅を謳っては…」
「エリートさんは必要悪ってことね」
「おいおい、そんなこと言うなよ。安田だって好きで公務員辞めて探偵になったわけじゃないからな」
スティングは安田の素性も調べていた。安田は4年前に県庁を辞めていた。原因は女性関係だったと言うが、それは県議会議員の情婦にされた女を救うべくやったことだったと安田はスティングに話したことがある。
「エリートだって間違ってたら訴えようとするのさ。でもその県議会議員は国政進出の噂があったから…」
「もみ消されてしまった、というわけね」
「そうだ」
19時、まだ国際探偵社の近くで見張るスティングとエース。そこにショパンとアローがやってきた。アローはクロスボウのようなものを手に持っていた。
「葵ちゃん、それは?」
「名づけてアローガン、これで発信機を取り付けるのよ」
「発信機?」
そして国際探偵社の近くの電柱ではホワイトとウイングが見張っており、マッキーは反対側でオペラグラスを片手に、トランシーバーを肩口にという格好で待機。
「どう?」
「あっ、今出て来た」
ちょうど安田たちが出て来た。しかし表に車はない。いったいどこに車があると言うのだろうか?すると近くのタワーパーキングで安田は係員に話をした。
「例の奴」
「かしこまりました」
そして安田は少し小さめのサルーンカーに乗ろうとした。そのとき
「ちょっと待って下さい。あなたにはどうしてもお話しなければならないこどがあります」
「誰ですか」
スティングは安田にこう言った。
「忘れたんですか?僕ですよ。あの節は本当に申し訳ありませんでした」
「貴様…原俊彦か」
「はい」
そしてハングタンたちも登場。ショパンは偽ハングタンを一喝した。
「あんたたち、ハングタンと名乗っているわけね」
「それが何か」
「本物のハングタンはあたしたちよ」
「えっ?」
安田はサルーンカーに乗って逃げようとした。しかしすでにアローがアローガンでくっつけた発信機がついてしまっていた。
「安田は大丈夫だ。あとは君たちに任せる」
そして本物のハングタンは石倉たち本物のハングタンを撃退。スティングも安田を発信機を頼りに追跡した結果、盛岡学園近くのスーパーセンターの駐車場で身柄確保。
「ここは…一週間前に大坪って盛岡学園を退学した元生徒が一酸化炭素中毒で自殺したところだ」
スティングはさっそくショパンに連絡し、偽ハングタンたちを連れてくるようにした。そして偽ハングタンたちも安田の車に閉じ込められた。
翌朝、盛岡学園の理事長室。ショパンがゴッドに報告した。
「ご苦労さんでした。これで君たちへの処分はなしと言うことになります」
「ありがとうございます」
「しかし、世の中にはすべて偽りがあると言うことですよ。君たちもせいぜいそのへんのことをわきまえて欲しいですな」
「はい」
正午、スーパーセンターの駐車場では安田たちのハンギングショーが行なわれていた。
「一週間前にここで偽装自殺を仕組んだのは皆さんですか」
「違う、あいつらは自殺したんだ、だよな」
「こうやって死んだんですよ」
「やめて」
「あの子は学校の生徒に破廉恥なことを言わせるから、セクハラだって…それで退学させられたのよ」
「何だって?」
「あたしたちの秘密を知られた美樹と一緒に…」
「そうですか、大坪公一君と佐々木美樹さんの偽装自殺はあなたたちだったんですか」
しかし安田は白を切ってばかり。
「やめろ、嘘だ、嘘だ」
「じゃあ市職員殺しと盛岡学園教諭殺しは」
「盛岡学園の教諭殺しだけだったのよ、美樹のかわりにあたしたち利用して」
「なるほど、栗山先生はあなたが殺したんですね」
「でもそれは安田のお兄ちゃんが」
「な、何を言うのか!自分たちで裏切ろうとした仲間を殺めた者が、何を言うのかっ!」
そして石倉は安田の首を絞めた。
「安田さん、そうやって美樹も、栗山先生も殺したんですね」
「伸子、許してくれ。俺は正義のために色々とやってきた。しかしそれがどうだ」
「確かに僕も最初は県職員安田恭平とは書かなかった。石川尚登県議と書くつもりだった。しかしマスコミの悲しさ、報道管制で石川尚登の記事は没にされた」
「そうだよ。だからそんな世の中がいやになった女たちを集めて、俺は探偵気取りのリーダーさ。盛岡の正義の味方、世界の恋人だ」
「お前は正義の味方でも世界の恋人でもない、下劣な男だ」
「そうよ、バッキャロー!!」
そして幕が開き、安田と石倉はお互いを見合った。石倉は自分がしていることに恐怖さえ覚えた。そして野次馬たちは
「お前たちは悪人だぁ」
「よくも先生を」
「息子を返せ」
などと罵った。そこへパトカーがやってきて安田と偽ハングタンを逮捕した。