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<連句の世界-安東次男「風狂始末-芭蕉連句評釈」より>
「鳶の羽の巻」-30
青天に有明月の朝ぼらけ
湖水の秋の比良のはつ霜 芭蕉
次男曰く、時分に景の付である。
比良山と云えば、古来、寄合の詞は雪・月・花それに山風と相場が決まっている。比良の初霜を詠んだ歌はあるまい。
去来の人柄には、月と雪よりも月と霜-秋霜-の取合せがよく似合う、と云いたげな作りで、翻転の下敷は例の「百人一首」の歌、「朝ぼらけ有明の月と見るまでに吉野の里に降れる白雪」-古今集、坂上是則- だろう。
この歌が李白の「牀前月光ヲ看ル、疑フラクハ是レ地上ノ霜カト。頭ヲ挙ゲテ山月ヲ望ミ、頭ヲ垂レテ故郷ヲ思フ」-静夜思-を踏えていると確かに思われるだけに-芭蕉の念頭にもあったのではないか-、「比良のはつ霜」はいっそう面白く読める。初霜とだけでは冬の季だが、秋の詞を添えて霜は秋にも遣う。
貞享5(元禄元)年9月、越人・芭蕉の両吟「雁がねの巻」には、初裏十句目「物いそくさき舟路なりれり-越人」に付て、「月と花比良の高ねを北にして-芭蕉」と作っている。この時の俤は、「平家物語」巻十、本三位中将重衡の海堂送りだった。俳諧師は思出しながら、興を春秋に作り分けたに違いない、と。
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