「トーマの心臓」萩尾望都(1974.11)
70年代少女マンガの洗礼を受けた人には、王道中の王道ですね。
全寮制の男子校を舞台に、深い傷を抱えた少年たちが、葛藤をくり返しながら成長していく物語。
バナナブレッドと並び、私の心の殿堂で不動の位置を占めている名作です。
この作品には、人生を形作る要素がすべて入っていると、おおげさでなく思っています。
そう気づいたのは20代のころですが、50も過ぎたいまこの年になって、20代の私が感じた思いはまちがっていなかったのだと実感しています。
形作る要素のすべて。
生きること。死ぬこと。
愛情、友情、恋情。よろこび、悲しみ、苦しみ、そして救済。
すべてがこの作品の中にある。すべての要素に、登場人物ひとりひとりが・・・つまり作者自身が向き合っている。
しかも舞台は、多彩で魅力的な美少年たちがつどう、ドイツの寄宿舎。
華やかな画面構成で美しさにあこがれる年代の読者たちを満足させつつ、テーマは純文学並みに深遠、それに加えて、オスカー様までいらっしゃるときたら(笑)。
もう殿堂入りは当然ですね。
先日、萩尾望都さんの対談集を読んでいたら「若いときだから描けた。いまなら愛のために死ぬなんて考えただけで却下」というような発言をみつけました。
たしかに!
実は私、作品のファンでありながらなんですが、トーマの自殺についていまひとつ納得できていなくて。
ユーリがわかってくれたからいいようなものの、わからなかったら無駄死にじゃないの~! もっと別の方法があるでしょ~? なんてね。
ただ、トーマは生身の人間というより「無償の愛の象徴」なんだろうな、というふうに理解はしているつもり。天使なんですよね、きっと。
萩尾望都さんの描く少年は、このあとどんどん進化をとげて、生身の人間になっていきます。
「トーマの心臓」の魅力のひとつは、美少年たちの中性的(女性的ではなく)な描き方にあると思うのですが、近年の作品に出てくる生身の少年たちは、これまた別の意味で魅力的。
つくづく、すごいマンガ家さんだなあと感嘆します。
ちょっと前にEテレで密着番組をやってましたが、正座で拝見させていただきました。
なんていうか・・・まるで子どもを産んで育てるように、自分の才能をいつくしみ育て、作品として産み落としつづけているのを目の当たりにした気がしました。
つづきます