ふくちゃん絶好調

 ふくちゃんは、動くものなら何にでも飛びついてくる。
 私がパソコンを使っていると、ときどき机の上に乗ってくるのだが、モニターでマウスのポインターが動くのをじっと注視していて、そのうち、えい、と画面を猫パンチする。
 ふくちゃんの爪で液晶に傷がついたら困るので、だめだめと引き止めると、そこではあまり無理は言わないで、ごろごろとのどを鳴らしながら(ふくちゃんは、ちょっと手を触れただけですぐにごろごろ言う)机の上をうろうろし始める。ふくちゃんはみゆちゃん以上に、キーボードを踏みつけることに対して何の抵抗もない。絵を描いているときには、知らないうちに色の濃度が変わっていたりするし、メールを書いているときなどは、mmmmmmとかpppppとか勝手に入力されて、書き終えるのに普段の倍くらい暇が掛かる。いつか、おかしな文字を入力したままで送信してしまわないかしらと思う。
 そのうちキーボードの前で横になるから、ちょうどいいと思って机の下からスケッチブックを取り出してふくちゃんをスケッチし始めると、今度はスケッチする鉛筆の動きをじっと見ていて、鉛筆の頭に猫パンチ。絵が描けない。
 幼少の頃に外へ捨てられたふくちゃんだから、生まれてこの方ブラッシングなどしてもらったことがないだろうと思って、ブラシをかけてあげようとしたら、ブラシにまとわりついて、ブラッシング不可能であった。
 猫トイレの掃除も苦労する。スコップを手に取ると、すぐにやってくる。さすがにうんちをのせたスコップにじゃれつかれたら困るので、反対の手でふくちゃんを制止しながら掃除をすると、ごろごろ言いながら、もがいて必死に飛びつこうとする。砂の塊をゴミ袋に入れたら、砂が転げ落ちるのを見てゴミ袋を手で叩く。スコップよりももっと大好きなのが、トイレの外に飛び散った砂を掃くために買った小さな手ぼうきで、私がほうきを手にするとどこにいてもうれしそうに飛んできて、ほうきの先に抱きついて離れないから、全然掃除にならない。それでもなんとか砂をちりとりに集めて、トイレに戻そうとすると、今度はちりとりにとびつくから、また砂が飛び散る。
 文豪内田百が可愛がった猫のノラが百の家に飼われるようになったきっかけは、子猫のノラが庭に水を撒く柄杓に飛びつき、その勢いで水がめに落ちてずぶ濡れになってしまったことで、随筆「ノラや」でそのくだりを読んだとき、柄杓の動きにじゃれつく子猫がいるのかと思ったけれど、今回ふくちゃんが家に来て、なるほどとよくわかった。
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