サル温泉

 動物園で「サル温泉」というイベントがあるので見に行った。
 サル温泉は、2007年に市内の中学生が動物園の活性化を願って発案したのがはじまりで、今回で5回目であるらしい。「温泉」という名前がついているけれど、実際に温泉から出たお湯ではなくて、ごみ焼却で出た熱を有効利用して沸かしたものを、タンクローリーで運んできている。
 暖かい日で、園内には人がいっぱい、それが、午後2時の給湯開始時間を待って、サル島に集まってきた。
 サル島は、円形に深く掘り下げられた真ん中にサル山というのかコンクリートや鉄棒でできた階段やジャングルジムなどが組み合わされた塔が立つ展示施設で、見学者はその周りから中にいるサルを見下ろす(塔の上のほうにいるサルに関しては、同じ目の高さか、あるいは見学者の方が下である)。
 10分前にはすでにすごい人だかりで、かろうじてプールの反対側のあたりに人垣のすきまを見つけて入り込んだが、真ん中のサル山にさえぎられてプールの様子は見えない。サル島の対岸にはものすごい数の人間が並んでいる。これだけの人間どもに周囲を取り囲まれて、サルたちはとてもいい気はしないだろうと思った。
 給湯がはじまったが、見えるのはホースから出るお湯の流れと白い湯気ばかりである。あわてて見なくても、2時間くらいはサルがお湯に浸かる姿が見られるというので、いったんサル島を離れて、しばらくして人がだいぶ引けてから様子を見に戻った。
 サル島のプールには夏には水が張られていて、プールの上の縄ばしごから水に飛び込んだり、水中を上手に泳ぎまわるサルの様子を見たことがあるが、この日のサル温泉でも、子ザルが犬かきならぬ猿かきで泳いだり、頭のてっぺんまで全部水に潜って泳いだりする姿が見られた。
 お湯につかったり泳いだりするのは新しい環境に順応しやすい若いサルばかりで、大人のサルは、水際で手足を浸す程度であるらしい。サルでも人間でも、年を取るにつれ新しいことに挑戦したくなくなるのは同じようである。
 せっかく温泉で暖まっても、お湯から出たあとが吹きさらしではよけいに寒いのではないかしらと思ったが、心配ご無用、ぶるっとからだをひと振るいすればそれでほとんど乾いてしまうので、湯冷めはしないそうである。

※イラストは本文とは無関係(ネコ温泉)です。
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