モデルみゆちゃん

 みゆちゃんはよく私の机に上がってくる。パソコンのディスプレイの前でこちらを向いて座って、眠そうな目をしている。ときにはペンタブレットの上に座るから、全然作業ができないけれど、可愛いから仕方がない。
 はじめのうちは、机の上へ来るのは私のことが好きだからだと思って喜んでいたのだが、そうではなくて、どうやらおやつが目当てで来るようであるとわかって、妙に納得した。
 おやつのカリカリとマタタビの入っている一番上の引き出しを、ちらちらと横目で見ている。そこでおやつを出してあげると、さっさと食べて、もう用はないという顔をして降りていってしまう。
 たまに意地悪して、みゆちゃんが来ても「何か御用」などと言ってとぼけておやつを出さないでいると、しばらく座り込みをしてから、あきらめて向こうへ行ってしまう。
 それがこの前は少し様子が違っていて、おやつを催促する様でもないし、カリカリを出さないのに向こうへ行ってしまうこともない。ただじっと座っている。
 何となくポーズを取って待っているようで、私がよく赤ちゃんをスケッチしているから、自分も描いてほしいと思っているじゃないかという気がした。もちろん猫がスケッチしてほしいとは考えないだろうけど、スケッチするためには対象物をじっと見つめるから、その、自分に注目する視線がほしいのだろうと思う。
 町田康氏の「猫にかまけて」の中に、猫のゲンゾーが、町田さんの読んでいる新聞の上に座り込むというエピソードがある。「猫にかまけて」を読んだのはだいぶ昔で、本も今手元にないから、記憶が間違っていたら申し訳ないけれど、町田さんは、ゲンゾーの「邪魔邪魔」行為の理由を、新聞に向いている人間の視線を自分が浴びたいと思っているのだ、というように説明していたように思う。
 みゆちゃんもそうなのだろう。おかげで、三角の耳から体の横にくるりと行儀よく巻きつけたしっぽまで、描くことができた。
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