猫が踏んじゃった

 ふくちゃんはときどきピアノを弾く。たいていは、たまたま蓋の開いていた鍵盤の上を、橋を渡るみたいにとことこ歩いてわたるだけだけれど、このあいだは、ちゃんと椅子に腰掛けて、何の音だったか忘れたけれど、ひとつの音を、前足でとんとん押して鳴らしていた。
 鍵盤の上にのぼろうとしたら、キーが下に動いたので、面白くて突付いてみたというのがたぶん真相だろうけれど、世の中にはピアノを演奏する猫もいるそうだから、ふくちゃんもピアノを弾いていたのだと、親ばかに解釈することにする。
 一歳になった次男はピアノを触るのが好きで、よく音を鳴らしたがるから、椅子に座らせて、なにぶんまだ不安定だからうしろから支えてやっていると、やきもち妬きのみゆちゃんがやってくる。普段はピアノなんかに興味はないくせに、私だって弾けますよとばかり、鍵盤の上を歩くのである。目的はどうであれ、みゆちゃんのほうが意識的にピアノを弾いているかもしれない。
 実家でご飯を食べていたら、突然大きな音でピアノがじゃんとなって、どきりとした。何かと思ったら、ちょうどエアコンの温風が当たるピアノの上で寝ていたタマが、おなかでもすいたのか、下へ降りようとして、蓋の開いたままになっていた鍵盤の上に飛び降りたのだった。
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