蝉取りおじさんたち

 近くの公園へ、子供たちを連れて蝉取りに行った。蝉の声はやかましく聞こえていたが、みんな木の高い枝に止まっているのか、見つかるのは抜け殻ばかりで、なかなか網の届くところへは降りてこなかった。
 空の虫かごを持って木から木へとうろうろした。タクシーの運転手さんが公園で一服をしていた。その少し太ったおじさんも、なぜかタバコを片手に木の下をうろうろしていると思ったら、やがて反対の手を丸く握って近づいてきて、「これ、手で捕まえたからボクにあげる、でも残念ながら鳴かない蝉やわ」と言って、油蝉を一匹かごに入れてくれた。油蝉は、狭いかごの中でプラスチックの壁に羽を打ちつけながら飛び回った。「鳴かへんけど、元気な蝉やわ」とおじさんはちょっと満足そうに言った。
「いっぱいいるけど、みんな高いところやなあ」と運転手のおじさんは、木の梢を見上げていた。私たちも目を凝らして蝉を探していたが、またおじさんが近づいてきて「ちょっと網貸してちょうだい、クマゼミ取ってあげる」と言って、網を持って桜の木の下へ歩いて行き、網の中にクマゼミを捕まえて戻ってきたが、「取れたけど、また鳴かへん蝉やわ」と残念がった。
 そうしているうちに、幹の上の保護色の蝉を見分けることに目が慣れたのか、それとも太陽が高くなって蝉が下のほうに降りてきたのか、子供でも網の届くところに蝉が見つかり出して、どんどん取れるようになった。運転手のおじさんは休憩時間が終わったらしく、タクシーに乗って行ってしまった。
 公園を何周もして蝉を取り続けていたら、手の届く範囲の蝉はもう取り尽してしまったのか、また見つからなくなった。そろそろ帰ろうかと思いながらもまだ梢を眺めていると、公園の反対側の道路に古紙回収の軽トラックが止まって、おじさんが運転席から身を乗り出し、「ここ、ここ!」と木の幹を指差し蝉の居場所を教えてくれた。子供が網を振ったが失敗して、蝉は、ゆっくりと発車した軽トラックの荷台の上を越えて飛んでいってしまった。
 おじさんたちは、自身の子供時代の蝉取りを思い出し、子供の心でわくわくしていたのじゃないかしらと思う。


 ところで、家のベランダでは、毎晩ふくちゃんが蝉取りにいそしんでいる。
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