お手柄ふくちゃん

 いつもは、私が庭からエノコログサの細長い葉を取ってくるのを玄関で待っていて、私が入ってくるとすぐ手に持った葉っぱの束にじゃれかかるふくちゃんだが、なぜかきょうはかかってこない。葉っぱには目もくれず、低い姿勢で玄関の隅っこの傘立てのうしろをじっと見つめている。
 何かいるな、と私は思って、微動だにしないふくちゃんの頭のうしろから傘立ての裏を覗き込んだ。
 ヤモリがいた。まだ子供だろうか、玄関の隅で綿あめみたいにもつれ合った蜘蛛の巣に尻尾が絡まって動けないでいるようだった。尻尾からぶら下げられて、うしろ足が宙ぶらりんになっていた。
 すでに死んでいたらどうしようと思いながら、ふくちゃんを片手で押さえながらもう一方の手で掴んだら、弱々しくではあったけれど動いたのでほっとした。
 尻尾や足、口の周りにまとわりついた蜘蛛の巣を、できる範囲で除いてやって、表の階段下の収納ボックスの上に置いておいたら、しばらくするとどこかへ行ったようだった。
 ふくちゃんが教えてくれなかったら、そんな隅っこにヤモリの子が捕らわれているなんて気がつかずに、死なせてしまったかもしれない。ふくちゃん、お手柄である。
 私は金色の目のヤモリが好きなので、ちゃんと隅々まで掃除しなければいけないと反省した。
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