ねこ絵描き岡田千夏のねこまんが、ねこイラスト、時々エッセイ
猫と千夏とエトセトラ
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ビクトルとアオイちゃん
トラは、アムールトラが二頭いる。雌のアオイちゃんと雄のビクトルで、二頭はお見合い中なのだけれど、ゆっくり慣らしていく過程で、まだ南側のグラウンドと北側の寝室に分かれて住んでいる。部屋はときどき入れ替えて、このあいだはグラウンドの方にアオイちゃんがいたけれど、きょういるのはビクトルだ。
この日も暖かくて、南側のグラウンドには日がいっぱいに差し、ビクトルは丸太で作られたテラスの上で気持ちよさそうに眠っている。
ものすごく大きなトラだけれど、横になった感じとか、目をつぶったまま両手のひらを口元に持っていってぺろぺろ舐めたところなんかが、猫の仕草にそっくりである。
ぽかぽかしたビクトルをしばらく眺めたあと、一方、北側の寝室にいるアオイちゃんはどうしているのかしらと思って裏へまわってみた。
こちらは完全に日が当たらなくて、ひんやりしている。こんなにいいお天気の日にグラウンドに出られないなんて、ビクトルはのびのび日向ぼっこをしているというのに、アオイちゃんは可哀相だと思ったけれど、よく見ると、お昼寝中のアオイちゃんのうしろ姿は、大して可哀相なふうにも見えない。寒そうに丸まっているのではなくて、壁のほうにからだを向けて長々と寝そべっている。思うに、うちの猫が夏の暑い日、廊下の床の上で壁に向って仰向け気味に寝ている姿によく似ている。
それで気がついたのだけれど、アムールトラは、ロシアのタイガの森などもともと寒い地域に住む動物だから、日の当たらない北側の寝室くらいがちょうどいいのかもしれない。グラウンドからビクトルの咆える声が聞こえてきて、アオイちゃんは大きな猫の手みたいな前足をうーんと上に伸ばし、うるさいなあというように手のひらで顔を覆った。
もう一度表にまわってグラウンドのビクトルの様子を見に行ったら、もうビクトルは起きていて、暑そうに口を開けて息をしていた。白い湯気が、もわもわと牙のあいだから立ち昇っていた。
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サル温泉
サル温泉は、2007年に市内の中学生が動物園の活性化を願って発案したのがはじまりで、今回で5回目であるらしい。「温泉」という名前がついているけれど、実際に温泉から出たお湯ではなくて、ごみ焼却で出た熱を有効利用して沸かしたものを、タンクローリーで運んできている。
暖かい日で、園内には人がいっぱい、それが、午後2時の給湯開始時間を待って、サル島に集まってきた。
サル島は、円形に深く掘り下げられた真ん中にサル山というのかコンクリートや鉄棒でできた階段やジャングルジムなどが組み合わされた塔が立つ展示施設で、見学者はその周りから中にいるサルを見下ろす(塔の上のほうにいるサルに関しては、同じ目の高さか、あるいは見学者の方が下である)。
10分前にはすでにすごい人だかりで、かろうじてプールの反対側のあたりに人垣のすきまを見つけて入り込んだが、真ん中のサル山にさえぎられてプールの様子は見えない。サル島の対岸にはものすごい数の人間が並んでいる。これだけの人間どもに周囲を取り囲まれて、サルたちはとてもいい気はしないだろうと思った。
給湯がはじまったが、見えるのはホースから出るお湯の流れと白い湯気ばかりである。あわてて見なくても、2時間くらいはサルがお湯に浸かる姿が見られるというので、いったんサル島を離れて、しばらくして人がだいぶ引けてから様子を見に戻った。
サル島のプールには夏には水が張られていて、プールの上の縄ばしごから水に飛び込んだり、水中を上手に泳ぎまわるサルの様子を見たことがあるが、この日のサル温泉でも、子ザルが犬かきならぬ猿かきで泳いだり、頭のてっぺんまで全部水に潜って泳いだりする姿が見られた。
お湯につかったり泳いだりするのは新しい環境に順応しやすい若いサルばかりで、大人のサルは、水際で手足を浸す程度であるらしい。サルでも人間でも、年を取るにつれ新しいことに挑戦したくなくなるのは同じようである。
せっかく温泉で暖まっても、お湯から出たあとが吹きさらしではよけいに寒いのではないかしらと思ったが、心配ご無用、ぶるっとからだをひと振るいすればそれでほとんど乾いてしまうので、湯冷めはしないそうである。
※イラストは本文とは無関係(ネコ温泉)です。
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猫ルール違反
2009年02月10日 / 猫
手や鼻を刺されないのかしらとびっくりして、私もムカデは恐ろしいからびくびくしながらネロとムカデを引き離したが、長いものが大好きな猫だから、ぞろぞろした動きのムカデは魅力的な獲物だったに違いない。そんな素敵なおもちゃを、遠巻きのコプリたち三兄弟は、よく横取りしたりせずに行儀よく見ていたものだと思った。このエピソードに限らず、普段から猫たちの行動を見ていて、他人(猫)の獲物を奪ってはいけないという猫の社会のルールがあるように私は思っていた。(もっともこの三兄弟はタマのようにやる気のない系統の猫だから、獲物を奪う気力も関心もなくて、ただ野次猫をしていただけという可能性もある。)
だから、ふくちゃんのお行儀の悪さには閉口してしまう。みゆちゃんのために猫じゃらしやひもを振ってあげても、すぐにふくちゃんが飛んできて横取りするのである。全然、猫のルールを守らない。みゆちゃんは遊び好きな猫だけれど、もともとがおっとりしていて鷹揚なうえに、ふくちゃんの登場でいまだナイーブなところがあるから、活発なふくちゃんにおもちゃを取られると、遊ぼうという気がすぐに萎えてしまう。いままで自分専用だったおもちゃをふくちゃんが次々とダイナミックに奪っていくのを、面白くなさそうな顔で黙って見ている。
ふくちゃんが来てからみゆちゃんが新しく考えた遊びがあって、猫トンネルの外側を猫じゃらしでかさかさしているところに、みゆちゃんがトンネルの内側から猫パンチするというものだけれど、考え出してしばらくのあいだはみゆちゃんだけが得意顔でこの遊びをしていたのが、そのうちふくちゃんもやり方を覚えてしまって、みゆちゃんのためにかさかさやっても、やっぱりふくちゃんが先に飛び込んできてしまうようになってしまった。
せっかく遊びを考えたのに、お株を奪われ、しょんぼりしていたみゆちゃんだけど、最近ようやくふくちゃんがいることにストレスを感じなくなってきたこともあって、遊びに関してもふたたび意欲が湧いてきたようである。とくに、このトンネルかさかさは自分が考え出した遊びでもあるし、思い入れが強いのかもしれない。昨日とうとう、邪魔しに入って来たふくちゃんのあとから、勇気を奮ってトンネルに飛び込み、見事トンネル遊びを奪回することに成功した。私は猫じゃらしをかさかさやりながら、みゆちゃん、よく頑張ったぞ、と心の中でエールを送った。
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3ヶ月ぶりのごろ~ん
2009年02月07日 / 猫
猫同士の関係は、割合に早いうちから打ち解けて、仲良く遊んだり一緒に寝たりしていたのだが、みゆちゃんは人に対してなんだかそっけなくなってしまっていた。以前なら、手を伸ばせば後ろ足で立ち上がって顔を擦り付けてきたり、背中を撫でると、しっぽをピンと立てて応じたりしていたのに、撫でようとしても、身体をかがめて、私の手からするりと逃げていってしまう。遊びに関しても、自分でひもをくわえて持ってきて、にゃー、遊ぼう、と催促するみゆちゃんだったのに、私の方から遊びに誘ってみても、気が乗らない様子だった。
鳥を手乗りにしようと思ったら、一羽で飼わなければならない、二羽で飼えば鳥同士が仲良くなってしまって、人にはあまりなつかないからだという話を聞いたことがある。それとおんなじで、みゆちゃんも、猫の友達ができたから、もう人とは遊ばなくてもよくなってしまったのかもしれないと思った。それでみゆちゃんが楽しいのなら、とは思うけれど、やっぱり寂しかった。
それが数日前から、椅子に座っている私の横にやってきて、顔を見上げながら小さく「なあ」と言ってみたり、机の上に登ってきてそこに座り、何か言いたそうな目をしてじっとこっちを見ていたりするので、ああ、みゆちゃんは、子猫のふくちゃんに遠慮してずっと我慢していたけれど、やっぱり自分も前のように遊びたくなったんだと思って、ひもなんかをおおっぴらに振り回すとすぐにふくちゃんが飛んできて邪魔をするから、机の上でこっそり、折り紙で作った小さな小箱にどんぐりを入れてころころ動かすと、まだまだ控えめだけど、小箱に前足を突っ込んで遊び出した。
自分のほうから遊ぼうといってきてくれるのは、本当に久しぶりのことである。それに続いて、前のように甘えるようにもなった。立ち上がって私の手に顔をこすりつけてくれるし、背中をとんとんと叩くとしっぽをぴんと立てて、さらには、ごろりとお腹を出してじゅうたんの上に寝転がった。そういう仕草をするのは、3ヶ月ぶりのことだった。正確に言うと、たとえば寝室とか、ふくちゃんがいない部屋ではごろんをすることもあったけど、ふくちゃんと同じ部屋にいて、人にそこまで無防備に甘えるのは、初めてだったのである。
みゆちゃんの中でどういう変化があったのか、お姉さんの役ばかりするのはもういやになったのか、それともふくちゃんのほうがだんだん大人になってきたから、もう子猫だと思って遠慮する必要はないと思ったのか。のどを鳴らすごろごろ音はまだ戻ってきていないから、はやく前の通りのみゆちゃんになって、懐かしい音を聞かせてほしい。
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鬼は外、猫は内
2009年02月05日 / 猫
塩焼きにした鰯の、煙のにおいが立ち込めて、いてもたってもいられなくなったふくちゃんがまず、にゃーにゃー鳴きながら鰯はどこかと台所へやってきた。あとからやってきたみゆちゃんも一緒に、ふたり並んでテーブルで待っている。
このあいだ、ぶりの照り焼きをつまみ食いして怒られたふくちゃんは、その数日後、また懲りずに焼いたさんまのしっぽをくわえて皿から引きずりおろそうとしているところを目撃されているので、要注意猫。
鬼は外、猫は内。鰯を焼く煙の匂いで、本当に鬼が逃げていくのかどうかは知らないが、猫がやってくるのは確かである。
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ねこでもドア
2009年02月03日 / 猫
長いあいだ、その猫用取っ手を使ってドアを開けることができなかったタマだが、最近ようやく開けられるようになった。
一応開けられるのだけれど、不慣れなためか不器用なのか、下手である。ドアの向こうでもぞもぞしていて、なかなかこちらへ入ってこられない。
それに比べて、ちゃめは見事である。押す方向のときは、両前足で豪快に押し開ける。引っ張る場合には、前足を器用に使って、自分が通れるぴったりの幅だけを開けて通る。開けたドアはバネで自動的に閉まるようになっているから、ちゃめの縞縞のしっぽが通り抜けたと同時にドアが静かに閉まる。無駄な動きはひとつもない。どちらの方向に開けるときも、まったくドアを障害とは感じていないような鮮やかさである。
家のドアには猫用取っ手はついていないが、細く開けておいてやると、みゆちゃんは押す方も引く方も、自分で開けることができる。
それが、ふくちゃんははじめの頃できなかった。ちょっと押せばすぐ開くのに、ドアの向こうでにーにー鳴いて、開けてほしいと訴える。まだ子猫でよくわかってないのかしらとも思ったけれど、ひもをぐるぐる回せばばか正直にぐるぐる回って追いかけるといったような、そのほかのふくちゃんの行動を考え合わせると、あんまりおつむの方はよくないのかしらんとも思われた。
ところが、いまでは部屋のドアは開けられるようになったし、そればかりでなく、みゆちゃんが開けることのできない、庭へ出る窓も開けられるようになって(少しすきまが開いていればみゆちゃんも開けられる。開けられないからといって、みゆちゃんがふくちゃんより頭が悪いということでは決してない)、ふくちゃんはちょっぴり見直された(いまだにぐるぐる回りはしているけれど)。
(絵の上はタマ、下はちゃめのイメージです)
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