杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

柘榴坂の仇討

2015年05月01日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2014年9月20日公開 119分

幕末の安政七年三月三日、主君である大老・井伊直弼(中村吉右衛門)の御駕籠回り近習役として仕えていた彦根藩士の志村金吾(中井貴一)は、江戸城桜田門外で襲撃に遭い、目の前で井伊の殺害を許してしまう。主君を守り切れなかった後悔を抱え、切腹も許されず仇討を命じられた金吾は、時が明治へと移り変わってもなお、武士としての矜持を持ち敵を探し続ける。一方水戸浪士・佐橋十兵衛(阿部寛)は井伊直弼殺害後、俥引きに身をやつし孤独の中に生きていた。そして明治六年二月七日、仇討禁止令が布告される……。


浅田次郎の短編集「五郎治殿御始末」の中の一編を原作としているそうです。

剣の腕を見込まれて近習(現代のSPだね)になった金吾は、為政者としての表の顔は知らないけれど、屋敷で過ごす普段の大老の、自然を愛し句を嗜むその人柄に惚れ込んでいました。
事件当日は雪が降っていて、濡れそぼった行列では大老が恥をかくとの理由で刀の束にも覆いをかぶせるよう指示が出ます。佐橋が直訴状を持って行列を止めて事を起こした時に、その覆いの紐を解けずに金吾は脇差で戦わざるを得なくなり、手間取っている間に佐橋の仲間たちが籠を襲って大老を殺してしまうのです。

美しく貞淑なセツ(広末涼子)を娶り、近習として将来の出世間違いなしだった金吾の人生は、一転。両親が自害して果て、金吾自身は武士の面目を守る切腹も許されず、首謀者の水戸浪士たちを討つよう命じられます。離縁を切り出す金吾にセツはご下命を果たすまで共にいますと拒否します。

犯人のうち、生き残っている5人のうちの一人でも良いから討ち取って来いという命令は、情報の発達した現代とは違い、人相書きと名前だけの手がかりでは至難の技です。自分の足で見つけ出すしかありません。やっと見つけてみれば既に死亡していたりで13年が経つ間に時代は江戸から明治に代わり、彦根藩そのものも存在しなくなっています。命令そのものが意味を持たなくなっているのですが、金吾にとって、仇を追い求めることこそが武士としての矜持です。

借金取り立ての商人に元武士が辱めを受けているところに通りかかった金吾が割って入り、彼の侍としての矜持に応じた元武士たちが続々と助力に加わり、彼らを撃退するシーンが印象的です。司法省の役人となっていた金吾の親友・内藤新之助(高嶋政宏)は、そんな金吾の力になりたいと思い、かつて水戸浪士たちの取り調べを担当した元評定所御留役の秋元和衛警部(藤竜也)に相談します。助力を約束した秋元ですが、彼の妻は夫を非難します。仇討ちが成就すれば金吾は晴れて切腹するでしょう。そうすればこれまで彼を支えてきた妻も当然後を追うでしょう。時代が変わった今、皆が不幸になるだけではないかと・・。(そうだ!そうだ!!)彼女は訪ねてきた金吾にも同じ意味合いのことを言います。只管夫に仕え支えるセツや、子連れバツイチだからと好意を封じ込むマサといった貞淑な女性たちと、男目線で進む物語の中で、この妻の言動は異彩を放っていますが、彼女の言葉はまさしく女性たちの気持ちの代弁です。

でも秋元は金吾に十兵衛の居場所を教えちゃうんですね~そして金吾はその足で十兵衛のところへ行くの。秋元が金吾を呼びつけたその日は、新政府が「仇討禁止令」を布告した日だったというのが伏線です。

十兵衛の人力車に乗り込んだ金吾は、十兵衛の両親もまた自害し、孤独な人生を歩んできたことを知ります。事件そのものについてはその時は正しいことをしたのだと信じていたという十兵衛に、柘榴坂で車を止めさせた金吾は、自分を討つよう願い出た彼に自らの刀を与えて一騎打ちを申し込むのです。倒れた十兵衛は再度自分を討つように願い出ますが、事件の直前に「命懸けで国を想う者を無下にするな」と言った直弼の言葉と「国を想う者に不当な処罰を与えれば、誰も国を想わなくなる」という秋元の言葉を思い出した金吾は、自分が慕っていた大老の言葉に背くことは出来ないと告げ「新しい人生を生きてくれ」と十兵衛を諭すのです。それはまさに自分を納得させるための言葉でもありました。(どうせならもっと早く気付いて欲しかったけどね~

長屋住まいで独身の十兵衛は、自分を慕ってくれているマサとチヨ母子の気持ちに気付きながらも自分を抑えていたのですが、二人と人生を新たに歩む決意をします。
一方、金吾も居酒屋で働くセツを迎えに行き、これまでの感謝を伝えるの。秋元に呼ばれたと聞いた時から夫の死(仇討成就して切腹)を覚悟していたセツにとって、無事な夫の姿を再び目にし、彼の口からもう仇討は出来なくなったのだと聞かされたその瞬間がまさに願いが敵った瞬間だったことでしょう(共に働く店の女の子からミサンガを貰ってつけているというのはちょっと過剰アレンジな気もするのだけれど、ま、いっか~

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ぼくを探しに

2015年05月01日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2014年8月2日公開 フランス 106分

幼い頃に両親を亡くし、そのショックで言葉を話せなくなったポール(ギョーム・グイ)は、ダンス教室を経営する風変わりな双子の伯母アニー(ベルナデット・ラフォン)とアンナ(エレーヌ・ヴァンサン)のもとで世界一のピアニストになるよう育てられる。伯母たちの教室を手伝い、ピアノを練習するだけの孤独な日々を送り33歳になったポールだが、ある日、同じアパルトマンに住むマダム・プルースト(アンヌ・ル・ニ)と出会う。彼女の淹れたハーブティーには、失われた記憶を呼び覚ます不思議な効果があった。以来、伯母たちに隠れて彼女の部屋をたびたび訪れるようになったポールは、ハーブティーを飲んで記憶を遡るうちに固く閉ざされた心が少しずつ開放されていく。しかし、ポールの行動を怪しみ始めた伯母たちがマダム・プルーストの存在を嗅ぎつけて彼女の部屋に怒鳴り込んでくる。自分の人生を取り戻すため、勇気を振り絞り最後のハーブティーを飲むポールだったが、そこには予想外の真実が待ち受けていた……。


フランス映画らしい独特の雰囲気を持つ作品です。
フランスのアニメーション作家シルバン・ショメが、初めて手がけた実写映画で彼の作品「ベルヴィル・ランデブー」のサントラで使われた「アッティラ・マルセル」という楽曲に着想を得て物語を作っていったのだそう。

両親の死のショックで言葉も記憶も失ってしまったポールが、不思議な女性と出会ったことで、過去の記憶が呼び覚まされます。
彼の覚えている母親はとても優しく美しいのですが、プロレスラーだった父アッティラ・マルセル(ギョーム二役)は野獣のように乱暴で恐い人です。ハーブティー(どうみても危ない脱法ドラッグ系なんですが)を飲むことで、赤ん坊だった頃の幸せな記憶が断片的に蘇ってきますが、同時に父が母に乱暴する痛ましい記憶も思い出してしまい苦悩するポール。そんな頃、伯母たちがマダムの存在に気付いて彼から引き離しにかかるの。マダムも自分の死期が近いことを悟り、彼にハーブを遺してアパルトマンからいなくなります。

部屋いっぱいに植物を育てているマダムといい、ポールを溺愛する伯母たちといい、普通人の感覚とは微妙な距離感のある登場人物たちですが、唯々諾々と従うポールも何だか浮世離れしています。言葉と一緒に感情までも封印してしまったかのよう。そんなポールがピアノコンクールで優勝出来る筈ありませんよね(^^;
ところがマダムと知り合ってハーブティで記憶が蘇るにつれ、ポール自身にも変化が現れます。伯母の知人の娘(中国人で養女)の積極的なアプローチに戸惑いながらもまんざらではなさそうだし、笑顔もみせるようになります。父が母に乱暴していたのではなく、二人でプロレスの練習(女性と闘うという興行が果たして「あり」なのかは別として)をしていたことに気付いた彼は、伯母たちの期待通りコンクールで優勝を果たします。しかし、最後のハーブティーで、上階に住んでいた伯母たちのピアノが落下し、その下敷きになって両親が死んだことを思い出した彼は今まで弾いていたのが「両親を殺したピアノ」であることに愕然とします。蓋が落ちてきて指を怪我してピアニストの道を絶たれる展開は、さらなる悲劇なのか、それともポールが望んでしたことなのか、どっち???

伯母たちの口から語られた真実は、両親が部屋の模様替えのため壁を壊したせいで、支えを失った床がピアノの重さに耐えきれず抜けたというもの。壁を壊した両親の友人が、そのため罪に問われて服役したというのだから、何とも可哀相な話です。ダンス教室の前でポールを見つめていたよれよれの浮浪者風の男が実はその友人だったという伏線までありました。彼は救われないのかしら?

マダム・プルーストがガンで亡くなったと知ったポールは、彼女の形見であるウクレレ(マダムが公園の木を病気だからと切り倒そうとした役人と揉めて壊れたものを彼が修理していました)を持って墓を訪れます。置いて行こうとしたその時、雨が降リ出して、弦を鳴らすその音にマダムのメッセージを受け取ったポールは、ウクレレ奏者として新たなスタートを切るの。

ラストは、「あの」娘と結婚し生まれた子供と共に訪れた峡谷(グランドキャニオン?)で、冒頭のエピソードにあった赤ん坊が初めて言葉を発する場面にリンクします。そしてポール自身も言葉を発するの。この時やっと、ポール自身が呪縛から解き放たれたのでしょうか。

それにしてもポールとマルセルが同じ人が演じているって全く気付かなかった私は一体・・いや、それだけ演技が上手ってことよね

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