杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

レッド・ファミリー

2015年05月15日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2014年10月4日公開 韓国 100分

韓国のある町に住むある一家。仲睦まじい家族に見える彼らは北朝鮮のスパイだった。誰もが羨む理想の家族を演じながらも、家の中では厳しい階級制が存在し、妻ベク(キム・ユミ )を演じるリーダーの命令を順守してスパイ活動を行なっていた。共に暮らしながらも、お互いを監視し合い、馴れ合いの許されない疑似家族を演じる彼らにとって、ケンカの絶えない隣の家族は“資本主義の限界”の馬鹿家族だったが、本音で暮らす姿に次第に心を動かされていき、やがて任務と人生そのものに疑問を感じ始める。そんな折、ベクは、夫役のキム(チョン・ウ )の妻が脱北に失敗したことを知り、キムを助けようと独断で行動を起こすが、逆に大失態を犯してしまう。祖国の家族の命と引き換えに与えられたミッションは“隣の家族の暗殺”だった。

キム・ギドク監督の社会派ドラマです。仲睦まじい家族を装う北朝鮮工作員による擬似家族と、その隣人のケンカの絶えない韓国人家族という対照的な2つの家族が描かれます。それにしても現実にこんな工作活動が本当に行われているとしたら何とも恐ろしく切ないことです。

隣家の妻(カン・ウンジン)は勝気で浪費家。夫(パク・ビョンウン)の稼ぎが悪いと罵詈雑言を浴びせ借金を重ねて散財をしています。息子のチャンス(オ・ジェム)は同級生からカツアゲされる気弱な高校生で父母の喧嘩にうんざりしています。祖母(夫の母)も息子夫婦を何とか仲良くさせようとあれこれ諭すのですがすぐにまた喧嘩が始まる始末。

そんな隣家の毎度の騒ぎを聞きながら(いくら隣といっても会話が筒抜け過ぎですが。逆に疑似家族の会話は隣家に全く聞こえていないのが不思議)これだから資本主義はダメなんだと軽蔑していた工作員たちですが、娘役のミンジ(パク・ソヨン)はチャンスと仲良くなっていき、祖父役(ソン・ビョンホ )も祖母に好意を抱かれるようになると、彼らの心境にも変化が現れます。感情豊かに生きている隣人たちの方が、よほど人間らしいのではないかと悩むんですね。そりゃ~脱北者の暗殺に明け暮れる自分たち、本当の家族と遠く離れ安否を気遣いながら暮らす自分たちと比べてあまりにも自由なんだものね。

隣に寝ていても手も握らない関係のベクとキムの間にも微妙な感情が生じてきます。
そんな感情の変化もしかし、しっかり盗聴され、警戒されているというのが怖いところです。
キムの妻が脱北しようとして捕われたことを知ったベクはキムのために手柄を立てて妻の罪を減じようと独断である脱北者の暗殺を実行しますが、それは脱北者を装った工作員だったために彼らは絶体絶命の窮地に立たされます。もう彼らは自分たちの命はないものと覚悟を決めているのですが、残された家族のために最後のミッションを受け入れようとするの。愛するものを守るために別の愛するものを犠牲にすることの不条理に苦しみ悩んだ彼らが出した結論が切ないです。

最後の時を隣人の喧嘩シーンのセリフを再現して「家族ごっこ」を演じる彼らの瞳に映っていたのは本当の家族の姿?それとも・・・。(彼らの始末にきた監視者たちは彼らを盗聴していたので、このセリフの意味は伝わっていたと解釈していいのね。)それにしても針金で手首を数珠つなぎにするシーンの乱暴で酷くて痛々しいことったら

物語はコメディ仕立てですが、扱う内容の息苦しさが逆に引き立っています。
ラストで殺されたはずのミンジが登場するのは、せめてもの救いなのでしょうか。
隣家と共にした食事シーンで、お互いに話し合うことから新しい未来が生まれるというようなことをチャンスとミンジに言わせていますが、若い二人がこのセリフを言うことこそ意味があることですね

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