2017年9月23日公開 128分
亮介(松坂桃李)が余命わずかな父の実家で見つけた「ユリゴコロ」と書かれた一冊のノート。「私のように平気で人を殺す人間は、脳の仕組みがどこか普通と違うのでしょうか……」異様な一文で始まるそのノートは、美紗子(吉高由里子)という女の一人称で綴られた告白文だった。誰しもが生きていくために必要な拠りどころ、彼女のそれは“人間の死”であった。殺人という行為から逃れる術を持たず、絶望の日々を送るなか、深い心の傷を抱えている洋介(松山ケンイチ)が美紗子の前に現れる。・・・その内容が事実か創作か、そして自分の家族とどんな関係があるのか、亮介は様々な疑念を抱きながらも強烈にそのノートに惹きつけられていく。
沼田まほかるの同名ミステリー小説の実写映画化で、「人間の死」を心の拠り所にして生きる悲しき殺人者の宿命と葛藤を、過去と現在を交錯させながら描いています。
父親の病気、婚約者・千絵(清野菜名)の失踪とそれに伴う経営の悪化など、トリプルパンチな状況の中で亮介が目にしたノートには、あまりにも重い殺人者の告白が書かれていました。私なら一気に読んでしまいそうですが、その内容故父にも尋ねることができず、亮介は父の不在時にしか読み進められないんですね
正直、前半の美紗子の告白内容には全く共感できる余地はありません。幼い頃の友達の死は積極的な関わりではなく見殺しでしたが、次の中学生の時のそれは明らかに故意です。でも調理学校時代の親友へのそれは大きく違ってくるんですね。みつ子に対する気持ちは紛れもなく愛情ですが、その死に積極的に加担した時、美紗子は恍惚とした幸福感を覚えるのです。愛する者の死によってしか彼女は生きている実感を得られません。通りすがりのような状況で犯した殺人に対しては満足感を覚えないことに気付き、美紗子は深い絶望を味わいます。
生きるために身を持ち崩した彼女に手を差し伸べてくれた洋介が、かつて中学の時に犯した罪の加害者の青年で、深い罪悪感に苛まれていることを知った時、彼女は洋介が自分と同類と認識し愛するようになります。もちろん、本当は美紗子の罪であることなど気付きもしていない洋介は、誰の子ともわからぬ子を身籠った彼女に、結婚して共に育てようと提案します。彼なりの死なせてしまった少年への罪滅ぼしの意もあったのかもですが、美紗子は二人が出会ったことに運命を感じます。
子供が生まれ、平穏に暮らしていた彼女を昔の罪が追いかけてきます。愛するが故に二人の前から消えようとする美紗子はノートに自らの罪を告白して家を出ますが、そのことで更に深く洋介と子供を傷つけてしまうのです。原作とは違う設定のようですが、映画版の方が余計に辛い状況に思えました。
一方、亮介の元を失踪した千絵の元同僚を名乗る女性が訪ねてきます。細谷(木村多江)と名乗り、千絵から伝言を頼まれたと話しますが、やけに親切な彼女にもしやと思った疑問は大当たり!偶然の出会いがここにもあったわけです。
どんなに破綻した殺人者でも親が子を想う気持ちは同じなんですね。千絵を助けるために取った細谷の行動は、もちろん間違ってはいますが、かといって感情的には否定もできないという
映画では、車の運転で無理な追い越しをする亮介の姿が度々登場しますが、彼の受け継いだ狂気を描きたかったのかな。亮介の感情の暴発と美紗子の冷静さは対照的ですが、確かに親子なんだと思わせる描写です。
ユリゴコロとは、幼い美紗子が「よりどころ」と聞き間違えた言葉ということのようですが、愛する人の死でしか生を実感できない哀しい殺人者の告白はとても切なく胸に迫ってきました。初めは全く共感できなかった美紗子ですが、観終わる頃には切なさの方が勝っていたような・・