杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

翔ぶ少女

2023年11月28日 | 
原田マハ(著) ポプラ社(発行)

泣き叫ぶことしかできなかった、あの朝。
二度と大切なものをなくさないように、あたしは強くなりたい。
1995年、神戸市長田区。震災で両親を失った小学一年生の丹華(ニケ)は、兄の逸輝(イッキ)、妹の讃空(サンク)とともに、医師のゼロ先生こと佐元良是郎に助けられた。復興へと歩む町で、少しずつ絆を育んでいく四人を待ち受けていたのは、思いがけない出来事だった――。(あらすじ紹介より)


1995年1月17日。阪神淡路大震災が起き、パン屋を営んでいた阿藤家は全壊し両親は亡くなり、丹華は右足を大怪我します。
火の手が迫る中、動けない丹華や兄の逸騎、妹の燦空を助けてくれたのは長田区で心療内科をしている「ゼロ先生」こと佐元良是朗でした。

ゼロ先生は丹華たちを養子として引き取り、仮設住宅で4人で暮らし始めます。丹華の右足は元には戻らず、引きずって歩くようになります。怪我や震災孤児となったことへの同情や憐みの視線に居たたまれなさを感じる丹華は、次第に友達から浮いていきます。唯一の楽しみは、ゼロ先やゆい姉(心療内科の研修医)に同行する復興訪問と、同じボランティア仲間の陽太に会うことでした。

陽太への気持ちが高まるにつれ肩に違和感を覚えるようになったある日、突然皮膚が裂けて小さな白い羽が生えてきます。驚く丹華でしたが、すぐに羽は背中から落ち消えてしまいます。体の変調を大人になる準備かもと考え不安になる丹華が何だか愛しくなります。

陽太のことを考えると肩が痛くなると気付いた丹華は、心に隙間を作らないよう猛勉強を始めます。病気やケガで苦しんでいる人や困っている人を助けてあげたいと思うようになり、ゼロ先生のような医者になりたいと考えたのです。ゼロ先生は宿題や授業でわからないことがあったら徹底的に付き合ってくれました。

震災から6年が経ち丹華が中2になったある日、ゼロ先生が倒れ救急車で総合病院に搬送されます。どうにか持ち直したものの、先天的な心臓疾患があり、早急に開胸手術が必要ですが、手術を成功させるには高度な腕を持つ心臓外科医でなければいけません。
ゆい姉からゼロ先生には東京の大学病院に勤務している優秀な心臓外科医の息子・佐元良裕也がいること、震災の時に倒壊した自宅の中に奥さんの昭江を残して他の被災者の救出にあたっていた父親を許せず、以来断絶状態にあることを聞いた逸騎と丹華は、ゆい姉に頼んで裕也先生の勤務先を訪問します。必死にお願いした兄妹でしたが、裕也先生は手術を断ります。この時二人は「おっちゃん」ではなく「お父ちゃん」を助けてと口にしています。大事な人、愛する人としてゼロ先生は彼らの「家族」なのです。

その夜、病院近くのビジネスホテルに泊まっていた丹華が真夜中に目を覚ますと、再び肩から羽が生えてきました。
裕也先生の病院まで飛んで、5階の窓から羽を生やしたまま部屋の中に入った丹華は(この時、裕也先生もニケが勝利の女神だという震災時のゼロ先生が丹華を励ました時と同じことを口にします)、今すぐにでも裕也先生を連れて神戸まで飛んでいくと宣言した後、意識を失い、気付くと病院のベッドの上にいました。ホテルの部屋から消えた丹華を追ってきた逸騎とゆい姉が側に立っています。
裕也先生は丹華の羽のことは誰にも話さず、「僕も(親父のもとへ)飛んでいこう」と言いました。

震災から10年が経ち、長田の街も見違えるように綺麗になっていました。
裕也先生に手術してもらい健康を取り戻したゼロ先生は、復興カウンセラーとして活躍しています。逸騎は高校を卒業して調理の専門学校に進学しています。中学生の燦空はファッションに夢中で、楽しい学校生活を送っています。高3になった丹華は、神戸大医学部合格を目標に毎日勉強に励み、放課後「阿藤パン」があった場所にできた喫茶店「もくれん」でコーヒーを飲みながら参考書と問題集を広げるのが日課です。

家族や友だちや大好きな人たちとこの土地で地に足着けて生きていくと決意した丹華の背中には、あれ以来羽は生えていません。

3兄妹の名前が「イチ・ニ、サン」となっているのが印象的です。料理上手な兄とおしゃまな妹、とても仲のよい兄妹です。
主人公の丹華が、ギリシャ神話の勝利の女神(ニケ)のように前を向いて進んで成長していく姿が描かれています。
「背中に羽」の丹華の心を投影した表現とも思うのですが、ここは素直にファンタジーを楽しむ方が良いのかも。

ゼロ先生を始め、ゆい姉や、仮設住宅のお隣さんだった佐々木のおばちゃん(後に孤独死していて切なかった)、長田名物そばめしの店主、「もくれん」の妙子さんなど周囲の人たちの輪がとても温かい。
震災時の描写や、愛する人を置いていかなければならなかった悲しみ、苦しみに何度も涙が出そうになりますが、目を背けずにいたいと思いました。
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