
日向夏 (著), しのとうこ (イラスト) ヒーロー文庫
戌西州を襲った大蝗害。過去の蝗害を知る者は少なく、人々は混乱する。西都や国境近くでも、食糧の強奪や暴動が頻繁に起きていた。猫猫は、何もできない自分を歯がゆく思いつつも、できる限りのことをやっていた。それは中央からの客人である壬氏も同様で、身の安全のためという名目の軟禁生活を強いられながらも、蝗害を予見していたことで、中央からの支援物資を早く受け取ることができた。だが、その手柄は壬氏ではなく西都の領主代行・玉鴬のものとして扱われてしまう。手柄の横取りに猫猫は腹を立てるが、当の壬氏はどこ吹く風で、皇弟という立場を最大限に利用して戌西州への支援要請を行うのだが―。(「BOOK」データベースより)
序話
一話 乾燥果実
二話 軍師襲来
三話 林大人
四話 林小人
五話 兄帰る
六話 都より
七話 届いた文
八話 届かない文
九話 会合
十話 黄金比
十一話 炭鉱
十二話 親子喧嘩
十三話 慰問
十四話 天祐
十五話 暴動
十六話 玉袁の子どもたち
十七話 祭祀の陰に
十八話 兄弟合議
十九・二十話 風は泣く 前・後編
二十一話 軍師の采配
二十二話 皇弟の愚痴
終話
蝗害が一段落しても終結したわけではなく、小さな規模で繰り返し起こる中、西都の混乱は続いています。
医官たちも駆り出され、怪我人や病人の手当てに多忙を極め、猫猫も薬作りに勤しみますが、材料も底を尽き、代用品でやりくりする日々。
そんなある日、玉鶯の孫娘の治療にあたることになった天祐と猫猫。腹痛と嘔吐を訴える子供は腸閉塞を起こしていて、天祐が開腹手術を行い、猫猫も助手を務めます。詰まっていたのは干し柿と髪の毛。精神的ストレスから髪の毛を食べてしまっていたのね。異国人を嫌う玉鶯が孫娘の髪の色に難色を示しているのが原因。
羅漢が連れて来た将棋の棋聖が戌の一族が滅ぼされた理由を知っていた疑いが浮上します。林大人の介護をしていた男に猫猫や雀たちも見事に騙されてしまいますが、この男の正体が後に重大な事件に繋がっていきます。
中央では猫猫を心配した姚と燕燕が羅半を訪ねます。姚の叔父は祭事を司る高官の魯侍郎で、西部の石炭について調べていたことがあることが示され、これも後々重要な手掛かりになるのね。
都から支援物資が届き出し、戻ってきた羅半兄も作物を補うために勤しみますが、状況は深刻で人々の不満は皇弟である壬氏に向かっていきます。救援物資を手配したのは壬氏なのに表に立つ玉鶯にばかり称賛が集まるの。
猫猫に届いた3通の手紙には暗号が隠されていました。「石炭」という言葉は猫猫には意味不明ですが、壬氏には大きな手掛かりとなったようです。
壬氏を招いた玉鶯は、他国への侵攻を働きかけようとします。彼が同席させた羅漢は乗り気な様子でしたが、壬氏は猫猫を餌に彼の興味を削いで反対の意を示します。まさに政治的駆け引きな場面で、旗頭にされそうになった局面を乗り切る壬氏の手腕もなかなかのものです。
民衆の暴動が壬氏に届きそうになりますが、玉鶯がその場を収め、祭祀が行われることになります。玉鶯の役者めいた振る舞いが鼻につくな~~😔
祭祀が行われている裏で、玉鶯は弟妹達を集めて自分に従わせようとしますが、意見がまとまりません。壬氏が玉鶯の弟に裏取引を持ち掛けていたことも功を奏したようですが、何よりこの弟妹たちは根っからの商売人なのね。
そして事態は急展開を迎えます。例の林小人の正体は玉鶯の乳兄弟で、彼の異母兄だったという衝撃の事実が!!侵略を止めにきた彼を玉鶯は衝動的に殺してしまいます。玉鶯は玉袁の実子ではなく、母が奴隷だった頃の主人との子どもでした。この秘密を守るために彼は17年前の戌の一族を滅ぼしていました。
ちなみに彼だけでなくその弟妹も全て玉袁の実子ではなかったという事実も明かされます😓
その場に駆けつけた陸遜は、次の瞬間玉鶯を刺します。ん?何故??
陸孫は滅ぼされた戌の一族の生き残りだった!!そして母と姉を殺した玉鶯こそ、彼の仇というわけです。この怒涛の展開には驚きの一言しかないね。
玉鶯の副官たちは陸孫に疑いの目を向けますが、羅漢の言葉に疑いを引っ込めます。実は陸孫は昔羅漢と出会っていますが、羅漢は全く気付いていない様子・・・に見えますが、彼の頭の中では常人とは異なる感覚で陸孫を推し量っているのかも。
玉鶯の死で、隣国への侵略の心配はなくなったようですが、彼の代わりを務める者の選定に悩む面々。何だか壬氏様にお鉢が回ってきそうな雰囲気です。
今回、猫猫と壬氏様の接触は掌を合わせるくらいでしたが、求婚したという陸孫への嫉妬とか、最後の愚痴とか、けっこう弱音を吐いてる感がありました。
序話は玉鶯の視点だと思うのですが、終話は陸孫ですね。
玉鶯は承認欲求が嵩じて自分の正義に突っ走って哀しい最期を遂げましたが、陸孫はどうなっていくのかな。