芝居が始まれば、稽古に入れば、
情緒不安定になる。
そもそも役者は情緒不安定な生き物、だろ?
違うかな?
人にもよるね。
日常は歌のように流れていく…
って言いたいけれど、
だとしたら随分とつまらない歌だよね。
そうかな?
どうだろう。
嘆いていないよ。
救いならいくらでもあるし、
拗ねてばかりもいられない。
恵みの雨のように、
時々歌が流れて、
心を慰めてくれる。
皆そうやって音楽に心を開いているのかな。
音は心を通過する。
芝居に入れば情緒不安定。
まともな精神じゃとてもじゃなけど舞台に立てない。
少なくとも俺はね。
もう声が出なくなるんじゃないだろうかとか、
体力もたないんんじゃないだろうかとか、
心の中で逃げ口上を並べては、
あからさまに弱さをつぶやく毎日。
強がってもかっこ悪いし、
正直になってもみっともない。
せめてそれが正直な自分ならば、
それが本当の自分ならば、
って思う。
憧れていた世界に辿り着けないまま、
気がつけば通り過ぎてしまっている、
そんなことに気付いた。
壁を越えるでなく、
向こう岸に行くでもなく、
夜の橋、芝居を渡る。