昔むかしの、昔すぎるほど昔の物語。
ある小さな島にサル達が住んでおりました。
島には野菜や果物もありましたが、あまり多くはありません。
いつしかサル達は浜辺に行き、魚を獲って食べる様になっていました。
1匹のサルがおりまして、名前をサルオと言います。
サルオには2匹の弟がいましたが、
まだどちらも生まれたばかりなので何も出来ません。
ある日サルオは父親に連れられて海に漁へと出かけました。
初めて見る海にサルオは怯えましたが、
父親はそんなサルオにかまわず漁を始めます。
サルオも見よう見真似で漁をしますが、なかなか魚が獲れません。
父親が3匹目の魚を獲ったところでサルオは訊ねました。
「父ちゃん、一体どうすりゃ魚が獲れるんだい?」
その時、大きな波がサルオの父親を飲み込んでしまいました。
波が去った後、そこにはサルオの父親の姿はありません。
さっきまでそこにいたはずの父親がいないのです。
「あれ?父ちゃん、どこ行ったの?・・・父ちゃん?」
いくら呼んでも、いくら探しても、
サルオの父親はサルオの前に姿を現しませんでした。
夕暮れまで待っていましたが、
「そうか、父ちゃんは先に山に帰ったんだ。」
そう思い、サルオは父親が獲った3匹の魚を持って山に帰りました。
しかし山に帰っても父親はいません。
「そうか、父ちゃんはまだ魚を獲ってるんだ。」
次の日もサルオは海に行きましたが、父親はいませんでした。
次の日も、次の日も、そのまた次の日も、どこにも父親はいませんでした。
「そうか、父ちゃんは海に食われちまったんだ・・。
今日からおいらが魚を獲らなくちゃ。」
サルオは胸がギュウっとなりましたが、
母親と弟達の為に漁を始めました。
やがて魚の獲り方を覚えたサルオは、
弟を1匹だけ連れて漁に出かける様になりました。
まず道具の作り方を教えて、それを覚えたら魚の獲り方を教えました。
その弟が自分で魚を獲れる様になると、
今度はもう1匹の弟を連れて行き、また順番に道具の作り方から教えました。
次第に弟達が増え、
いつしか自分達で漁を教えあう様になっていました。
それでもサルオは、毎日同じことを弟達に教えます。
「海は怖いぞ。大きな波には勝てないぞ。
海に食われたら戻って来れないぞ。」と。
そして毎日の漁が終わると必ず魚を1匹だけ海に戻すのです。
そんなサルオを見て弟達が尋ねました。
「兄ちゃん、せっかく獲った魚をどうして海に戻すんだい?」
「これは父ちゃんの分だよ。」
「父ちゃんって・・どこにいるんだい?」
弟達はキョロキョロと辺りを見渡しました。
「父ちゃんは海にいて、おいら達を守ってくれてるんだよ。」
弟達は海を覗き込みましたが、そこには誰もいません。
サルオが山に帰ったので、弟達も山に帰りました。
それから何年もたちました。
サルオにも子供が生まれ、弟達にも子供が生まれ、
その子供達にも子供が生まれ始めました。
サルオは随分と年老いて、この頃は体も動かず漁にも出られませんが、
家族の誰かが魚や食べ物を渡してくれます。
ある星の綺麗な夜のこと。
サルオは体の調子がとても良くなったので、
久しぶりに海に出かけました。
月が明るく照らす海はとても穏やかです。
波の音が静かな子守唄の様です。
その時、サルオの目に1匹のサルが見えました。
こんな夜中に漁をしています。
「誰だ、こんな夜中に漁なんかしてるのは?危ないぞ、
海は怖いぞっていつも言ってるだろ!」
サルオの声に、そのサルが振り返ります。
サルオは驚きました。
「え?・・・父ちゃん。」
それはサルオの父親でした。
「父ちゃん、何やってんだよ?こんなところで!」
サルオが近づくと父親は朴訥に言いました。
「魚の獲り方を教えてやるよ。」
サルオは昔に戻って父親の後を追いかけました。
言いたいことも、聞きたいことも山ほどありましたが、
2匹はただ黙って一緒に漁をしました。
静かな静かな夜。
こんなに優しい海は初めてです。
夢なら覚めないで欲しい・・サルオはそう思いました。
しかし、それはサルオが見た夢でした。
星の綺麗な夜に見た短い短い夢でした。
そしてサルオは二度と夢からは覚めませんでした。
その日も弟達は漁をして、
漁が終わると魚を二匹だけ海に戻したのでした。
おわり
ある小さな島にサル達が住んでおりました。
島には野菜や果物もありましたが、あまり多くはありません。
いつしかサル達は浜辺に行き、魚を獲って食べる様になっていました。
1匹のサルがおりまして、名前をサルオと言います。
サルオには2匹の弟がいましたが、
まだどちらも生まれたばかりなので何も出来ません。
ある日サルオは父親に連れられて海に漁へと出かけました。
初めて見る海にサルオは怯えましたが、
父親はそんなサルオにかまわず漁を始めます。
サルオも見よう見真似で漁をしますが、なかなか魚が獲れません。
父親が3匹目の魚を獲ったところでサルオは訊ねました。
「父ちゃん、一体どうすりゃ魚が獲れるんだい?」
その時、大きな波がサルオの父親を飲み込んでしまいました。
波が去った後、そこにはサルオの父親の姿はありません。
さっきまでそこにいたはずの父親がいないのです。
「あれ?父ちゃん、どこ行ったの?・・・父ちゃん?」
いくら呼んでも、いくら探しても、
サルオの父親はサルオの前に姿を現しませんでした。
夕暮れまで待っていましたが、
「そうか、父ちゃんは先に山に帰ったんだ。」
そう思い、サルオは父親が獲った3匹の魚を持って山に帰りました。
しかし山に帰っても父親はいません。
「そうか、父ちゃんはまだ魚を獲ってるんだ。」
次の日もサルオは海に行きましたが、父親はいませんでした。
次の日も、次の日も、そのまた次の日も、どこにも父親はいませんでした。
「そうか、父ちゃんは海に食われちまったんだ・・。
今日からおいらが魚を獲らなくちゃ。」
サルオは胸がギュウっとなりましたが、
母親と弟達の為に漁を始めました。
やがて魚の獲り方を覚えたサルオは、
弟を1匹だけ連れて漁に出かける様になりました。
まず道具の作り方を教えて、それを覚えたら魚の獲り方を教えました。
その弟が自分で魚を獲れる様になると、
今度はもう1匹の弟を連れて行き、また順番に道具の作り方から教えました。
次第に弟達が増え、
いつしか自分達で漁を教えあう様になっていました。
それでもサルオは、毎日同じことを弟達に教えます。
「海は怖いぞ。大きな波には勝てないぞ。
海に食われたら戻って来れないぞ。」と。
そして毎日の漁が終わると必ず魚を1匹だけ海に戻すのです。
そんなサルオを見て弟達が尋ねました。
「兄ちゃん、せっかく獲った魚をどうして海に戻すんだい?」
「これは父ちゃんの分だよ。」
「父ちゃんって・・どこにいるんだい?」
弟達はキョロキョロと辺りを見渡しました。
「父ちゃんは海にいて、おいら達を守ってくれてるんだよ。」
弟達は海を覗き込みましたが、そこには誰もいません。
サルオが山に帰ったので、弟達も山に帰りました。
それから何年もたちました。
サルオにも子供が生まれ、弟達にも子供が生まれ、
その子供達にも子供が生まれ始めました。
サルオは随分と年老いて、この頃は体も動かず漁にも出られませんが、
家族の誰かが魚や食べ物を渡してくれます。
ある星の綺麗な夜のこと。
サルオは体の調子がとても良くなったので、
久しぶりに海に出かけました。
月が明るく照らす海はとても穏やかです。
波の音が静かな子守唄の様です。
その時、サルオの目に1匹のサルが見えました。
こんな夜中に漁をしています。
「誰だ、こんな夜中に漁なんかしてるのは?危ないぞ、
海は怖いぞっていつも言ってるだろ!」
サルオの声に、そのサルが振り返ります。
サルオは驚きました。
「え?・・・父ちゃん。」
それはサルオの父親でした。
「父ちゃん、何やってんだよ?こんなところで!」
サルオが近づくと父親は朴訥に言いました。
「魚の獲り方を教えてやるよ。」
サルオは昔に戻って父親の後を追いかけました。
言いたいことも、聞きたいことも山ほどありましたが、
2匹はただ黙って一緒に漁をしました。
静かな静かな夜。
こんなに優しい海は初めてです。
夢なら覚めないで欲しい・・サルオはそう思いました。
しかし、それはサルオが見た夢でした。
星の綺麗な夜に見た短い短い夢でした。
そしてサルオは二度と夢からは覚めませんでした。
その日も弟達は漁をして、
漁が終わると魚を二匹だけ海に戻したのでした。
おわり