娘が東京に戻ったその日に東京の弟がこの家にやってきた。
遠い姉の家になんかわざわざ来るわけはないだろうなと思っていたのだったけれど、
去年の母の葬儀のとき、弟に美しいところだから暇になったら遊びに来てと声をかけたら、
えっと驚くような顔をして「行くよ」と答えたのだった。
定年になって五日目にここにやって来た。
新幹線にも乗って来たのだけれど、旅の趣味もなく、
一人で電車に乗って遠くに出かけるという経験がほとんどなかったよう。
切符がとれたら行く日を連絡すると電話で言ってきて、
予約なんてしなくても東海道新幹線は5分か10分おきに出ているから、
東京駅に行けばすぐに乗れるよ、と言うと、
へぇそうなのかと驚いていた。
とてもこの時代を生きてきた人とは思えないなんて思ったけど、
関心のないことにはセンサーも働かないので、
そうなんだなと思った。
兄弟といっても本当に何もかも違う。全く当たり前のことだけど。
最初の結婚をするまでは同じ家に暮らしてきた仲だけど、
それからの40年近くは会っても年に一度くらいで、
その上、特別話をするわけでもないし、
この人がこの人生で何を思って生きてきたのか、
どんな好き嫌いがあるのか、何かに対してどんな感想を持つ人なのか、
どんな人生観を持っているのか、他の何もかもを私は全く知らないのだ。
いたずらっ子で気が優しくて音楽が好きで勉強のよくできる子だった。
大人になってから母から聞いた情報は
「あの子の車の運転はお前やМ(兄)よりずっと安心して乗っていられる」だった。
亡くなった母は弟を愛していた。可愛がっていた。
もちろん私も愛されたと思っているけど、
可愛がられた、という印象はない。
彼は母をいつまでも慕っていたようだ。
今回三日間だけだったけど、同じ屋根の下に暮し、海や山を見、
共に食べ、飲み、語った。
楽しい時間だった。
彼は小さい時のまま気が優しかった。
そして、弟はこんなふうな人になっていたのだなぁと思った。
これからの人生の時間の中でどのくらいこの人と共に居る時間があるのかわからないけれど、
そういう時を持てたら、その時間を慈しんで使いたいと思った。
遠い姉の家になんかわざわざ来るわけはないだろうなと思っていたのだったけれど、
去年の母の葬儀のとき、弟に美しいところだから暇になったら遊びに来てと声をかけたら、
えっと驚くような顔をして「行くよ」と答えたのだった。
定年になって五日目にここにやって来た。
新幹線にも乗って来たのだけれど、旅の趣味もなく、
一人で電車に乗って遠くに出かけるという経験がほとんどなかったよう。
切符がとれたら行く日を連絡すると電話で言ってきて、
予約なんてしなくても東海道新幹線は5分か10分おきに出ているから、
東京駅に行けばすぐに乗れるよ、と言うと、
へぇそうなのかと驚いていた。
とてもこの時代を生きてきた人とは思えないなんて思ったけど、
関心のないことにはセンサーも働かないので、
そうなんだなと思った。
兄弟といっても本当に何もかも違う。全く当たり前のことだけど。
最初の結婚をするまでは同じ家に暮らしてきた仲だけど、
それからの40年近くは会っても年に一度くらいで、
その上、特別話をするわけでもないし、
この人がこの人生で何を思って生きてきたのか、
どんな好き嫌いがあるのか、何かに対してどんな感想を持つ人なのか、
どんな人生観を持っているのか、他の何もかもを私は全く知らないのだ。
いたずらっ子で気が優しくて音楽が好きで勉強のよくできる子だった。
大人になってから母から聞いた情報は
「あの子の車の運転はお前やМ(兄)よりずっと安心して乗っていられる」だった。
亡くなった母は弟を愛していた。可愛がっていた。
もちろん私も愛されたと思っているけど、
可愛がられた、という印象はない。
彼は母をいつまでも慕っていたようだ。
今回三日間だけだったけど、同じ屋根の下に暮し、海や山を見、
共に食べ、飲み、語った。
楽しい時間だった。
彼は小さい時のまま気が優しかった。
そして、弟はこんなふうな人になっていたのだなぁと思った。
これからの人生の時間の中でどのくらいこの人と共に居る時間があるのかわからないけれど、
そういう時を持てたら、その時間を慈しんで使いたいと思った。