数ヵ月後 『島の家』
島の家に移り住んだジュンサンとユジンは一時も離れず寄り添うように暮らしていた。
悪阻(つわり)も治まり安定期に入ると、『どうしてもユジンでなければ』という顧客の仕事だけを引き受け、メールやFAXを使ってしていた。
気分の良いときはジュンサンもそれにアイデアを出したり、アドバイスをすることもあった。
ある夕方、二人は手を繋いで庭を散歩していた。
「こうしていると、アメリカにいた時みたいね。」
「手術の後の頃?」
「ええ、あの時離れていた後だったから、一緒にいられてとても嬉しかった。
たとえあなたが私を覚えていなくてもね。」
「ユジンがフランスに帰る日が近づいて来ると、辛くてね。もうこれきりなのかなって、何とかして君を繋ぎとめておきたくて、苦肉の策だったのさ。あの『宿題』。
何て言って切り出そうか、すごくどきどきしていた、あの時…。
断られたら終わりだからね。」
くすっとジュンサンが笑った。
「そうだったの?全然そんなふうには見えなかったけれど。
だって、イ・ミニョンは女性にモテモテで扱いには慣れていたんじゃないの?」
二人は海の見えるベンチに座った。
ジュンサンは目を閉じて耳を澄ませている。
周りの全てのものを感じ取ろうとしているかのように。
「風が心地いいね。
ユジン、夕日が見える?
今日の夕日は綺麗だろう?僕にも見えるようだよ。」
「あ、今動いたわ。この子きっと男の子よ。
ものすごくお腹をけるんだもの。ほら、触ってみて。」
ジュンサンがそっとユジンのお腹に手をやると、ちょうどその場所を蹴ってきた。
「ほんとだ。コラ、そんなに蹴ったらママが痛がってるぞ。
元気がいいなぁ。」
二人は顔を見合わせて笑った。
やがて秋。 『島の家』にユジンの母が来ている。
ジュンサンの体力は徐々に落ちてきて、ベットで過ごすことが多くなっていた。
「あ、お母さんいらっしゃっていたんですか。」
「ごめんなさい、起こしてしまったようね。起き上がらないで、そのままでいいわ。
具合はどお?ユジンに遠慮して我慢していたらだめよ。」
「はい、薬が良く効いているので辛くはないのです。ただ、ずっと起きているのは辛いので…。
お母さん、御心配には及びません。大丈夫です。子供の顔を見るまでは逝きはしませんから…。」
十一月の初旬 『島の家』
予定日より少し送れて陣痛が始まっている。
ユジンの母は臨月に入るとすぐに手伝いに来ており、予定日にあわせてジュンサンの両親もアメリカから来ていた。
ジュンサンの部屋にユジンの母が様子を見に来た。
「お母さん、ユジンは大丈夫ですか?」
ジュンサンは落ち着かなかった。
「大丈夫よ。いま先生に診察していただいているところよ。
終わったらきっと顔を見に来ると思うから。
…初めてだから時間がかかるのよ。
生まれるのはきっと夜か明け方だわ。今からそんなに緊張していたら、疲れてしまうわよ、ジュンサン。」
ジュンサンの部屋にユジンがやってきた。
「ジュンサン、起きてる?」
「ユジン、大丈夫?君も起きてていいの?」
ユジンはジュンサンの手を握って
「ええ、まだ陣痛の間隔もそんなに短くないから、普通にしていて大丈夫。
しばらくここにいるわ。私よりジュンサンのほうが青い顔をしているわよ。」
「そうかい?男はこんなときに何の役にも立たないわけだ。」
とジュンサンは苦笑した。
「あ、い、痛…。」
「ユジン?」
「大丈夫よ、ジュンサン。すぐ治まるから。
ユジン、やっぱりあなた向こうに行っていた方がいいみたい。あなたが痛がるたびにジュンサンがハラハラしてしまうわ。ね、ここはご両親にお任せして。」
ユジンの母がユジンの腰をさすりながら言った。
「ごめんなさい、ジュンサン。びっくりさせてしまったみたいね。
私、向こうの部屋で休んでいるわ。」
「母さん、女の人って大変な思いをして子供を生むんだね。」
「そうね。」
「僕もこうして生まれてきたんだね。母さんに感謝しなくちゃいけない。
僕を生んでくれてありがとう。」
夜、ユジンは無事出産を終えた。
元気な男の子だった。
ヒジンがジュンサンの部屋へ駆け込んできた。
「お兄さん、生まれたわよ、男の子。赤ちゃんもお姉さんも元気よ。
今看護師さんが産湯を使わせているわ。もう少ししたら連れて来るって。」
「もうユジンは子供に会ったの?」
「ええ、生まれてすぐへその緒を切ったら抱かせてくれたみたい。お兄さんに似てハンサムだって。」
「ジュンサン、おめでとう。」
「ありがとう。母さん、ベットを起こしてくれますか?」
看護師が産湯を浸かったばかりの赤ちゃんを抱いて訪れた。
「お父さん、赤ちゃんですよ。」
と言ってジュンサンの左腕にそっと頭を乗せるようにして抱かせてくれた。
子供はユソンと名付けられた。
島の家に移り住んだジュンサンとユジンは一時も離れず寄り添うように暮らしていた。
悪阻(つわり)も治まり安定期に入ると、『どうしてもユジンでなければ』という顧客の仕事だけを引き受け、メールやFAXを使ってしていた。
気分の良いときはジュンサンもそれにアイデアを出したり、アドバイスをすることもあった。
ある夕方、二人は手を繋いで庭を散歩していた。
「こうしていると、アメリカにいた時みたいね。」
「手術の後の頃?」
「ええ、あの時離れていた後だったから、一緒にいられてとても嬉しかった。
たとえあなたが私を覚えていなくてもね。」
「ユジンがフランスに帰る日が近づいて来ると、辛くてね。もうこれきりなのかなって、何とかして君を繋ぎとめておきたくて、苦肉の策だったのさ。あの『宿題』。
何て言って切り出そうか、すごくどきどきしていた、あの時…。
断られたら終わりだからね。」
くすっとジュンサンが笑った。
「そうだったの?全然そんなふうには見えなかったけれど。
だって、イ・ミニョンは女性にモテモテで扱いには慣れていたんじゃないの?」
二人は海の見えるベンチに座った。
ジュンサンは目を閉じて耳を澄ませている。
周りの全てのものを感じ取ろうとしているかのように。
「風が心地いいね。
ユジン、夕日が見える?
今日の夕日は綺麗だろう?僕にも見えるようだよ。」
「あ、今動いたわ。この子きっと男の子よ。
ものすごくお腹をけるんだもの。ほら、触ってみて。」
ジュンサンがそっとユジンのお腹に手をやると、ちょうどその場所を蹴ってきた。
「ほんとだ。コラ、そんなに蹴ったらママが痛がってるぞ。
元気がいいなぁ。」
二人は顔を見合わせて笑った。
やがて秋。 『島の家』にユジンの母が来ている。
ジュンサンの体力は徐々に落ちてきて、ベットで過ごすことが多くなっていた。
「あ、お母さんいらっしゃっていたんですか。」
「ごめんなさい、起こしてしまったようね。起き上がらないで、そのままでいいわ。
具合はどお?ユジンに遠慮して我慢していたらだめよ。」
「はい、薬が良く効いているので辛くはないのです。ただ、ずっと起きているのは辛いので…。
お母さん、御心配には及びません。大丈夫です。子供の顔を見るまでは逝きはしませんから…。」
十一月の初旬 『島の家』
予定日より少し送れて陣痛が始まっている。
ユジンの母は臨月に入るとすぐに手伝いに来ており、予定日にあわせてジュンサンの両親もアメリカから来ていた。
ジュンサンの部屋にユジンの母が様子を見に来た。
「お母さん、ユジンは大丈夫ですか?」
ジュンサンは落ち着かなかった。
「大丈夫よ。いま先生に診察していただいているところよ。
終わったらきっと顔を見に来ると思うから。
…初めてだから時間がかかるのよ。
生まれるのはきっと夜か明け方だわ。今からそんなに緊張していたら、疲れてしまうわよ、ジュンサン。」
ジュンサンの部屋にユジンがやってきた。
「ジュンサン、起きてる?」
「ユジン、大丈夫?君も起きてていいの?」
ユジンはジュンサンの手を握って
「ええ、まだ陣痛の間隔もそんなに短くないから、普通にしていて大丈夫。
しばらくここにいるわ。私よりジュンサンのほうが青い顔をしているわよ。」
「そうかい?男はこんなときに何の役にも立たないわけだ。」
とジュンサンは苦笑した。
「あ、い、痛…。」
「ユジン?」
「大丈夫よ、ジュンサン。すぐ治まるから。
ユジン、やっぱりあなた向こうに行っていた方がいいみたい。あなたが痛がるたびにジュンサンがハラハラしてしまうわ。ね、ここはご両親にお任せして。」
ユジンの母がユジンの腰をさすりながら言った。
「ごめんなさい、ジュンサン。びっくりさせてしまったみたいね。
私、向こうの部屋で休んでいるわ。」
「母さん、女の人って大変な思いをして子供を生むんだね。」
「そうね。」
「僕もこうして生まれてきたんだね。母さんに感謝しなくちゃいけない。
僕を生んでくれてありがとう。」
夜、ユジンは無事出産を終えた。
元気な男の子だった。
ヒジンがジュンサンの部屋へ駆け込んできた。
「お兄さん、生まれたわよ、男の子。赤ちゃんもお姉さんも元気よ。
今看護師さんが産湯を使わせているわ。もう少ししたら連れて来るって。」
「もうユジンは子供に会ったの?」
「ええ、生まれてすぐへその緒を切ったら抱かせてくれたみたい。お兄さんに似てハンサムだって。」
「ジュンサン、おめでとう。」
「ありがとう。母さん、ベットを起こしてくれますか?」
看護師が産湯を浸かったばかりの赤ちゃんを抱いて訪れた。
「お父さん、赤ちゃんですよ。」
と言ってジュンサンの左腕にそっと頭を乗せるようにして抱かせてくれた。
子供はユソンと名付けられた。