優緋のブログ

HN変えましたので、ブログ名も変えました。

別れの後 十  手術

2005-07-22 14:31:34 | 別れの後
ユジンがアメリカへ来た翌日。 手術がもうすぐ始まろうとしている。

「必ず戻ってきてね。待ってるから…。
そうだ、昨日は慌てていてプレゼントのお礼を言うのを忘れていたわ。
ジュンサン、ありがとう」
ユジンの胸にポラリスが輝いていた。
「ユジン…。
今度はユジンが僕のポラリスだね。
必ず迷わないで戻ってくるから」

手術は無事成功した。
ジュンサンは集中治療室に運ばれまだ眠っている。
「ご家族の方にお話があります」
主治医に呼ばれた。

「あなた、ユジンさんにも聞いていただきましょう。
ジュンサンにとって一番大切な人よ」
ミヒが言った。
「そうだな。ユジンさんどうぞ一緒に先生のお話を聞いてください」
「お母様、お父様、私なんかがいいんでしょうか」
ユジンは戸惑いを覚えた。

「ユジンさん、もう私はあなたのことも、あなたのお父様のことも憎んでいません。
もともと憎むべき相手ではなかったのよ。
私のせいでジュンサンとあなたの仲を引き裂くようなことになってしまって、本当に申し訳ないと思っているの。
そのことはまた後でお話しましょう。
さ、先生が待っていらっしゃるわ。
あなたにとって辛い話かもしれないけれど…」

「先生、ありがとうございました」
「失礼ですが、こちらの方は」
「息子の婚約者です。
フランスに留学中だったのですが、手術を受けるよう説得に来てもらいました。
一緒にお話しいただいて差し支えありません」
イ氏の言葉に驚いたユジンはミヒを見た。
ミヒは目で「これでいいのよ」と頷いて見せた。

「手術は成功でした。これで当面の危機は回避できたと思います。
ただ残念ながら、一部取ると返って脳に傷をつける可能性があって、少し血腫が残っています。
また、手術の時期が遅れたためにかなりダメージを受けています。
今後も失明の危険と、再び症状が悪化する可能性が考えられます。
体力が回復すれば退院し日常生活に戻ることもできますが、引き続き通院治療、経過観察が必要です」
主治医の話は厳しい内容のものだったが、ともかく手術は間に合ったのだ。
三人は一様に安堵のため息を漏らした。

「先生、面会はできますか」
「まだ麻酔からさめていませんので、意識が戻り次第お知らせします」

「ユジンさん、本当にありがとう。あなたのおかげよ」
「いいえ、お母様。呼んでくださって、本当に感謝しています」
「ユジンさん、空港から直接ここへ来てまだホテルは取っていないんじゃない?
夕べもジュンサンに付きっ切りだったし。
少し休まないとあなたが倒れてしまうわ」
「お許しいただければジュンサンの目が覚めるまでここにいたいのですが。
わがまま言ってすみません」
ユジンはジュンサンのそばを離れたくなかった。

ミヒとイ氏はユジンに無理をしないようにと言い置いていったん自宅へ帰っていった。

人気(ひとけ)のない廊下に待つユジンを見つけて看護師が
「まだ麻酔が切れないけれどもお顔だけでも見ますか」

と声をかけ集中治療室へと誘(いざな)ってくれた。
ジュンサンの顔はずいぶん病みやつれていたが、穏やかな表情で眠っていた。
「良かった。生きていてくれて」
ユジンの目から安堵の涙がハラハラとこぼれ落ちた。

「ありがとうございました。廊下で待っていますので」
といって部屋を出ようとすると先ほどの看護師が
「経過が良いようなので後一時間ほどで個室のほうに行かれると思いますよ。
お部屋でお待ちになったら?」と言った。

ユジンは部屋でジュンサンを待つことにした。

帰省切符

2005-07-22 11:34:24 | 日々の歌
くたくただぁ 毎日夜まで 学校祭
          出品作に 取り組んでると

切符買う 暇さえないと 言われると
        つい甘い顔 送ってやるか…

甘えるな 自分でさせずば きりがない
        夫が言うは もっともなるが

しばらく留守します

2005-07-21 08:11:44 | 日々の歌
土曜から 毎年恒例 北へのたび
       甥っ子姪っ子 おがった(大きくなった)だろな

一年ぶり 会ったとたんに 遊びだす
        兄弟のよな 仲良し従兄弟

ぽちぽちと ケータイメールで 31(みそひと)文字
         旅の思い出 たーんと作ろう!

小説 敬台院

2005-07-20 18:06:39 | 読書
先日あげた「買った本リスト」からまず一冊読破。ほっ♪
〈とは言うものの前に一度読んだ物ですが。〉

敬台院(きょうだいいん)-小笠原秀政の娘、万姫。
母は岡崎どの。岡崎どのは徳川信康の娘であり、つまり敬台院は徳川家康と織田信長のひ孫ということになる。〈信康の妻は信長の娘、徳姫〉

現代の私達の目から見ると、「家康と信長のひ孫」といわれれば「平和になった江戸時代、権力の中枢で豊かな生涯を送った人」と思ってしまうかもしれない。
しかし、母の岡崎どのは孤独な人であったのではないか?
父は祖父に切腹させられ、母は幼い娘を置いて尾張に戻ってしまったのだ。

しかも、当の敬台院ー万姫は家康の手駒の一つとして蜂須賀家に嫁がされる。
蜂須賀家政は豊臣方と目されており、福島正則、加藤清正らとともに家康にとって“必ずつぶさねばならぬ家”の一つであった。

父の秀政は剣よりも書見を好む物静かな人物であった。
万姫はその父に似たのか幼い頃より手習いに興味を示し、賢く美しい姫であった。
手習いの師匠である宮谷壇林の老僧の教えにより、万姫は7歳ごろから南無妙法蓮華経の本尊を拝んでいた。

11歳で嫁いだ万姫は、回り全部が豊臣に心を寄せる者ばかりの四面楚歌の環境の中、法華経の信心を保ちつつ、蜂須賀家の存続の為に心を砕いてゆく。
しかし、長女、夫、長男にも先立たれ、婚家の蜂須賀家の宗旨もついに替えることができなかった。
晩年は江戸から阿波に戻り民衆へ教えを広めることに専心する。

あの日から 八 「秘めごと」

2005-07-19 17:16:39 | あの日から
[ジヌの研究室]

私は彼を待っていた。
〈どうしたのだろう。去年の暮れ、夜遅く訪ねてきて以来来ないな。もう冬休みも終わったというのに…。〉

そういえば、住所も連絡先も聞いていなかった…、迂闊なことだ、私としたことが…。

思えば、不思議な青年だった。

ある日、階段教室の片隅に彼はいた。

ノートも広げず、射るような、何かを訴えかけるような眼差しで私を見つめていた彼…。

思わず吸い込まれるように指名すると、見たこともない公式を駆使して問題を解いて見せた。


『想像力と好奇心で人を探しに来ている』といっていた…。
いったい誰を探しに?…


カン・ジュンサン…。

あの日、ミヒのことを聞いていた。

ミヒとヒョンスの関係。
私との関係…。

ひょっとして…、あの青年はミヒの子供?…


そんなはずはない。
いや、あってはならないのだ。

私は自分にそう言い聞かせた。



彼との会話が、忘れていた“あのこと”を思い出させた。

たった一度の秘めごと…。
幼い頃から想いつづけた人との…。

しかし『それ』はその想いが報われたわけではなかった。

それでも良かった。
後悔はしていない。

その一時(ひととき)だけでも、その人にとって自分は必要な人間でいられたのだから。

たとえ、それが身代わりであったとしても…。



私はミヒを愛していた。
それはいつの頃からの想いだったのか、私自身にも記憶がない。

幼い頃からいつも私の傍らにはヒョンスとミヒがいた。
それは私にとって当たり前の光景だった。


ヒョンスは何でも言い合える親友であったし、ミヒは妹のようであり、また恋人のようでもあった。


幼い頃は良かった。
男女の区別なく、互いに子犬のようにただじゃれあって遊ぶことができた。

それがいつの頃からか、男であり、女であることを意識せざるをえなくなったとき、自然に距離ができ、恋心が芽生えていることを否定できなくなっていた。


思春期を迎えてもヒョンスはいつも変わらずにいた。
しかし、ミヒがヒョンスに恋をしていることは明らかだった。

ミヒの視線の向こうにははいつもヒョンスがいた。

その眼差しは、自分に向けられるものとは違う。

そのミヒを遠くから見ている自分。


そんな自分を哀れに思うこともあった。
ただ、見つめているだけの恋…。

しかし、どうすることができただろう。


やがて、ヒョンスとミヒの婚約が決まった。

ヒョンスは私の心を思い『すまない』といった。

『ミヒを幸せにできるのは君しかいないんだ。ミヒを幸せに、頼んだよ。』

私にできることは二人の幸せを願うこと…。


私もチヨンと婚約し、私なりの幸せを掴もうとしていた。

そんな矢先のことだった。
ヒョンスに悲劇が訪れた。

兄の交通事故。
会社ののっとり。
父親の死…。


音を立てて崩れていく…
明るく輝いて見えていた未来が…。

幸せとは、こんなにも脆(もろ)く失われやすいものなのか…。

掬(すく)い上(あ)げた砂が指の隙間から零(こぼ)れ落(お)ちていくのを止(とど)めることができぬように…


友人の失意を私は側で見ていることしかできなかった。
何もできない無力感。


自暴自棄に陥ろうとしている彼を助けたのは一人の女性だった。
イ・ギョンヒ

彼女もまた、私と同じ…遠くから彼を見つめ、彼の幸せだけを祈っていた人間だった。


彼女は何も言わず、ただ黙々と働き、ヒョンスとその母を慰め勇気づけた。

倒れても、倒れても、そこから立ち上がるしかないことを、彼女の行動は無言で指し示していた。


やがてヒョンスが彼女に惹かれていくのは仕方がないことだったのかもしれない。

しかし、ミヒはどうなるのだ…。


************

その日、初冬の空は晴れ上がり、柔らかな日差しが新たな門出を迎える二人に降り注いでいた。

教会の鐘の音が澄み切った空気の中を響き渡っていく。

家族と僅かな友人だけに囲まれたささやかな結婚式。

友の結婚を祝福しつつも、ミヒの嘆きを思うとき、私の心はどうしようもなくまた友を恨むのだった。

ミヒ?

その場にいるはずのない彼女の姿が、教会から消えるのを見たとき、不吉な予感が走った。

私はヒョンスにだけ耳打ちすると、彼女の後を追いかけた。

まさか…、早まったことをしないでくれ…。


彼女の気性を思うと、それは有り得ないことではなかった。
早く探し出さなければ…。

川のほとりの林の中をおぼつかない足取りで行く人影が見えた。

ミヒだった。

ミヒは雲の上を歩くように、静かに川に入っていく。

ミヒの体がぐらりと傾き、水の中に倒れこもうとしたとき、危うく間に合った。


初冬とはいえ、川の水は冷たかった。

全身ずぶ濡れになり、ミヒは気を失っていた。

幸いあたりに人影はなく、私は急いで車にミヒを乗せるとそのまま走り去った。


ミヒの別荘に着くとすでに管理人さんが鍵を開け、火を焚いてくれていた。

まもなくミヒの兄とお手伝いさんが到着した。


「ジヌ君。ご配慮、本当に感謝する。

今日ミヒの姿が見えないので心配をしていたのだ。

まさかヒョンス君の結婚式に行くとは思わなかった。


最近は落ち着いてきていたから、少しづつ心の整理がついてきているとばかり思っていたのだ。

迂闊だった。


ジヌ君、ミヒが落ち着くまで、もう少し側にいてやってはもらえないだろうか?

私はすぐ戻って、父に話をしなければならない。

明日にでも人を寄こすから、どうだろう?

誰にでも頼めることではないのだ。

人に知れればあの子の将来に傷がついてしまう。

かといって、一人で置いてはまた何をしでかすかわからない。」


「わかりました。実家のほうには、今日は寄らずにソウルへ帰るといってありますので、ご心配には及びません。」


くれぐれもよろしくといって、ミヒの兄はお手伝いさんをつれて帰っていった。


部屋へ戻ると、暖かい服に着替えさせられたミヒは火の前に座っていた。

〈肩の辺りが痩せたな〉と私は思い、ミヒが哀れであった。


「ミヒ、温かいミルクを持ってきたよ。一緒に飲もう。」

ふりむいた目が虚(うつ)ろだった。

「ジヌ?あ、ありがとう。いただくわ。

お兄様とヒョンスは?帰ってしまったの?
せっかく久しぶりに4人で話がしたかったのに。

ああ、あったかくて美味しいわ。」


「ミヒ、ヒョンスは来ていないよ。
今日は何の日だったか覚えていないのかい?」


「今日?今日は…、私何をしていたのかしら?…
そういえばどうしてここにいるの?

ええと、今日は、お医者様へ行ってお薬を頂く筈だったのよ。
でも、家を出て…。」


ミヒの手からカップが転がり落ちた。
飲みかけのミルクが床を濡らし、微(かす)かに湯気を上げていた。


「今日は…、ヒョンスの結婚式だったのね。
とうとうあの人は、私の元には戻らなかった…。」

ミヒの瞳から溢れ出でた涙は頬を伝い、ミルクの海の中にぽとり、ぽとりと落ちていった。



あの人は 私の元に 戻らない
       分かりたくない 悲しい現実

幸せを 願っていたのに 愛し君
      愛に破れて 涙流すか

かりそめの 逢瀬でもいい 今だけは
        恨みを忘れ 静かに眠れ



追記  ↑のお話は、ユソンの恋 6「過去 ④」ユソンの恋 7「過去 ⑤」とリンクしています。
あわせてお読みいただけると幸いです。