[ニューヨーク]
ユジンの「不可能の家」の図面がほぼ出来上がった。
あとは最後の確認をして、キム次長へ送るだけだ。
数日後、図面が出来上がってほっとしたのか、ジュンサンは体調を崩してしまった。
主治医の話ではもう投薬治療も限界へ来ているようだった。
[病院 ジュンサンの病室 ジュンサンはベッドに横たわっている]
「一年も持たなかったな…。
このまま死んだら…ユジンは怒るだろうな。
僕を信じて待っているのに。
僕はどうしても手術を受ける決心をすることができなかったんだ。ごめんよ」
目がかすむ…。
頭がボーっとして体もだるかった。
何もできなくて心が弱っているのだろう、
しきりにユジンのことが想われた。
〈ユジン、元気にしているかい。
本当に君は一途で真面目だね。
僕との約束を懸命に守っているんだね。
ユジン、高校生のころを覚えているかい?
初めて会った時の君…バスの中で居眠りをして(笑)…
あのときの君は本当に愛らしくて、かわいかった。
君は…、闇を抱えて生きるのが辛かった僕の硬く閉じた心にそっと入ってきてくれた。
君の笑顔が真っ暗だった僕の心を一筋の光で照らしてくれたんだ。
その君が、…ユジンが僕の妹かもしれないと知ったときの驚きと悲しみ。
奈落の底に落ちていく様だった。
やっと出会った、心を通わせる人、愛する人が許されぬ相手だなんて…。
自分の存在を呪ったよ。
なぜ生まれてきたんだって。
僕は逃げるようにしてアメリカへ旅立とうとした。
そして交通事故。
記憶を失った十年間。
僕はイ・ミニョンとして生きた。
ユジンが苦しんでいることも知らずに…。
才能を生かし、たくさんの恋をして幸せな日々だった。
でもーキム先輩が言うようにー物ばかりに関心があって人に関心のない人間だった。
真剣に人を好きになったことなどなかった。
そんなことに気付きもしなかったけれど。
女性はいつも僕に感心を持って向こうから近づいてきた。
そんなガールフレンドといるのは楽しかった。それが恋だと思っていた。
会って話をしたり、遊んだり…、でも仕事や勉強を犠牲にしてまですることではなかった。
ところがユジン、君は違っていた。
再び出会ってから、いつも気になって、悩んで、どうしたらいいかわからなかった。
気付いたときは好きになっていた。
辛かった…。君にはサンヒョクがいたからね。
恋とは…苦しいものだと、初めて知ったよ…。
ユジン…、君に会いたい。
まだ一年も離れていないのに…、
君の十年間の辛さは想像もつかないよ。
ユジン…ユジン…
会いたい…〉
病室のドアが開いた。
「母さん?誰?」
まさか!「ユジン?」
ユジンは驚きで声も出せずに泣いて立ちつくしていた。
「ユジン、約束を破ったね。
…どうせならもっと早く元気なときに来ればいいのに、あいも変わらず遅刻だね?」
「ごめんなさい、ジュンサン。
どうしても会いたくて、お母様に頼み込んで来ちゃった。
怒ってる?」
ジュンサンはゆっくり首を振った。
「目がかすんで良く見えないんだ。こっちへ来て顔を見せて」
ジュンサンは大切な宝物を扱うようにユジンの頬を伝う涙をぬぐった。
「この間まで家に居たんだけれど、このところ具合が悪くてね病院に舞い戻ってきてしまったというわけ。
驚かしてごめん。
…相変わらず泣き虫さんだね、ユジンは。
パリでも泣いて暮らしてたんじゃないだろうな」
「ちゃんとジュンサンとの約束を守っていたわ。大丈夫よ。
あなたがちゃんと手術を受けて元気にしてるって信じていたもの。
どうして手術を受けないの?」
「ユジン、僕は弱い人間だよ。ようやく気が付いた。
死ぬのが怖いんだよ。君のいない世界に行くのが。
ユジンは、手術を受けて、もし…僕が死んでも後悔しない?」
「ねえジュンサン、人間っていつかは死ぬのよ。
もしかしたら私のほうが先に事故で死んじゃうかもしれないわ。
お願い、手術を受けて。
このままあなたの命の炎が少しづつ小さくなってゆくのを見ているしかないご両親の気持ちを考えて。
ジュンサン、生きようとしてほしいの。
このままじゃ私だってあなたを追いかけないでフランスへ行ったこと後悔しなくちゃならないわ。
私のことだったら心配しないで、大丈夫だから。
あなたが二度目の交通事故でまだ意識が戻らなかったときに、春川の母に言ったことがあったの。
ただ生きてさえいてくれたらいいって。
また私のことを忘れてしまっても、私のことを愛してくれなくてもいいって。
とにかく目覚めて戻ってきてくれることを祈っているのって。
今も同じ気持ちよ。
大丈夫、今までも何回も離れ離れになったって会うことができたじゃない。
きっと成功する。信じてるわ」
「わかったよ…、ユジン。
いやわかっていたんだ、君が一人でフランスにいることを知った時から。
でも勇気がなかった。まだ死ぬのが怖かったんだ。
ごめん、ユジン、心配させて。…」
ジュンサンはユジンを引き寄せ抱きしめた。
ユジンのぬくもりが伝わった。
『生きたい、ユジンと共に』
ジュンサンは強くそう思った。
「ユジン、一つだけ約束して欲しい。
僕がどうなっても、フランスへ帰って勉強を続けること。
僕が中途半端なことが嫌いなこと知っているだろう?
帰ったら、今度は毎日メールをやりとりしよう。
君が今学んでいることを教えてよ。
君も勉強になるし、一石二鳥だ。(笑)
母さんと話がしたいんだ、呼んできてくれる?」
「わかったわ、約束する。」
「母さん」
「ごめんなさい、ジュンサン。約束を破ってしまったわ。あなたにどうしても手術を受けてほしかったの」
「いいんです、母さん。ユジンと会わせてくれてありがとう。
目の見えるうちに会えてよかった。
手術を受ける決心もつきました。
今まで母さんたちの気持ちも考えず申し訳ありませんでした。
母さん、お願いがあるんです。聞いていただけますか」
「ええ、ジュンサン、なあに」
「もし、手術の後万が一僕が死んだり、意識が戻らなかったり、また記憶をなくしてしまったときー考えたくはないでしょうがーその時はユジンを守ってやってください。僕の替わりに。
彼女は今勉強の途中です。どうぞそれが続けられるよう助けてあげてください。お願いします。
彼女は辛い決断をしてフランスへ渡ったんです。僕のためにだめにしたくない。彼女の将来のためにもお願いします」
「わかったわ。必ず守るから。
あなたは、ジュンサン、本当にユジンさんを愛しているのね。
自分のことよりもユジンさんのことをいつも考えて。
手術を渋っていたのもそのためだったのね。
万が一のときのユジンさんのショックを考えて…。(涙)
じゃあ、先生にお話してくるから。ユジンさんを呼んでくるわね」
ユジンの「不可能の家」の図面がほぼ出来上がった。
あとは最後の確認をして、キム次長へ送るだけだ。
数日後、図面が出来上がってほっとしたのか、ジュンサンは体調を崩してしまった。
主治医の話ではもう投薬治療も限界へ来ているようだった。
[病院 ジュンサンの病室 ジュンサンはベッドに横たわっている]
「一年も持たなかったな…。
このまま死んだら…ユジンは怒るだろうな。
僕を信じて待っているのに。
僕はどうしても手術を受ける決心をすることができなかったんだ。ごめんよ」
目がかすむ…。
頭がボーっとして体もだるかった。
何もできなくて心が弱っているのだろう、
しきりにユジンのことが想われた。
〈ユジン、元気にしているかい。
本当に君は一途で真面目だね。
僕との約束を懸命に守っているんだね。
ユジン、高校生のころを覚えているかい?
初めて会った時の君…バスの中で居眠りをして(笑)…
あのときの君は本当に愛らしくて、かわいかった。
君は…、闇を抱えて生きるのが辛かった僕の硬く閉じた心にそっと入ってきてくれた。
君の笑顔が真っ暗だった僕の心を一筋の光で照らしてくれたんだ。
その君が、…ユジンが僕の妹かもしれないと知ったときの驚きと悲しみ。
奈落の底に落ちていく様だった。
やっと出会った、心を通わせる人、愛する人が許されぬ相手だなんて…。
自分の存在を呪ったよ。
なぜ生まれてきたんだって。
僕は逃げるようにしてアメリカへ旅立とうとした。
そして交通事故。
記憶を失った十年間。
僕はイ・ミニョンとして生きた。
ユジンが苦しんでいることも知らずに…。
才能を生かし、たくさんの恋をして幸せな日々だった。
でもーキム先輩が言うようにー物ばかりに関心があって人に関心のない人間だった。
真剣に人を好きになったことなどなかった。
そんなことに気付きもしなかったけれど。
女性はいつも僕に感心を持って向こうから近づいてきた。
そんなガールフレンドといるのは楽しかった。それが恋だと思っていた。
会って話をしたり、遊んだり…、でも仕事や勉強を犠牲にしてまですることではなかった。
ところがユジン、君は違っていた。
再び出会ってから、いつも気になって、悩んで、どうしたらいいかわからなかった。
気付いたときは好きになっていた。
辛かった…。君にはサンヒョクがいたからね。
恋とは…苦しいものだと、初めて知ったよ…。
ユジン…、君に会いたい。
まだ一年も離れていないのに…、
君の十年間の辛さは想像もつかないよ。
ユジン…ユジン…
会いたい…〉
病室のドアが開いた。
「母さん?誰?」
まさか!「ユジン?」
ユジンは驚きで声も出せずに泣いて立ちつくしていた。
「ユジン、約束を破ったね。
…どうせならもっと早く元気なときに来ればいいのに、あいも変わらず遅刻だね?」
「ごめんなさい、ジュンサン。
どうしても会いたくて、お母様に頼み込んで来ちゃった。
怒ってる?」
ジュンサンはゆっくり首を振った。
「目がかすんで良く見えないんだ。こっちへ来て顔を見せて」
ジュンサンは大切な宝物を扱うようにユジンの頬を伝う涙をぬぐった。
「この間まで家に居たんだけれど、このところ具合が悪くてね病院に舞い戻ってきてしまったというわけ。
驚かしてごめん。
…相変わらず泣き虫さんだね、ユジンは。
パリでも泣いて暮らしてたんじゃないだろうな」
「ちゃんとジュンサンとの約束を守っていたわ。大丈夫よ。
あなたがちゃんと手術を受けて元気にしてるって信じていたもの。
どうして手術を受けないの?」
「ユジン、僕は弱い人間だよ。ようやく気が付いた。
死ぬのが怖いんだよ。君のいない世界に行くのが。
ユジンは、手術を受けて、もし…僕が死んでも後悔しない?」
「ねえジュンサン、人間っていつかは死ぬのよ。
もしかしたら私のほうが先に事故で死んじゃうかもしれないわ。
お願い、手術を受けて。
このままあなたの命の炎が少しづつ小さくなってゆくのを見ているしかないご両親の気持ちを考えて。
ジュンサン、生きようとしてほしいの。
このままじゃ私だってあなたを追いかけないでフランスへ行ったこと後悔しなくちゃならないわ。
私のことだったら心配しないで、大丈夫だから。
あなたが二度目の交通事故でまだ意識が戻らなかったときに、春川の母に言ったことがあったの。
ただ生きてさえいてくれたらいいって。
また私のことを忘れてしまっても、私のことを愛してくれなくてもいいって。
とにかく目覚めて戻ってきてくれることを祈っているのって。
今も同じ気持ちよ。
大丈夫、今までも何回も離れ離れになったって会うことができたじゃない。
きっと成功する。信じてるわ」
「わかったよ…、ユジン。
いやわかっていたんだ、君が一人でフランスにいることを知った時から。
でも勇気がなかった。まだ死ぬのが怖かったんだ。
ごめん、ユジン、心配させて。…」
ジュンサンはユジンを引き寄せ抱きしめた。
ユジンのぬくもりが伝わった。
『生きたい、ユジンと共に』
ジュンサンは強くそう思った。
「ユジン、一つだけ約束して欲しい。
僕がどうなっても、フランスへ帰って勉強を続けること。
僕が中途半端なことが嫌いなこと知っているだろう?
帰ったら、今度は毎日メールをやりとりしよう。
君が今学んでいることを教えてよ。
君も勉強になるし、一石二鳥だ。(笑)
母さんと話がしたいんだ、呼んできてくれる?」
「わかったわ、約束する。」
「母さん」
「ごめんなさい、ジュンサン。約束を破ってしまったわ。あなたにどうしても手術を受けてほしかったの」
「いいんです、母さん。ユジンと会わせてくれてありがとう。
目の見えるうちに会えてよかった。
手術を受ける決心もつきました。
今まで母さんたちの気持ちも考えず申し訳ありませんでした。
母さん、お願いがあるんです。聞いていただけますか」
「ええ、ジュンサン、なあに」
「もし、手術の後万が一僕が死んだり、意識が戻らなかったり、また記憶をなくしてしまったときー考えたくはないでしょうがーその時はユジンを守ってやってください。僕の替わりに。
彼女は今勉強の途中です。どうぞそれが続けられるよう助けてあげてください。お願いします。
彼女は辛い決断をしてフランスへ渡ったんです。僕のためにだめにしたくない。彼女の将来のためにもお願いします」
「わかったわ。必ず守るから。
あなたは、ジュンサン、本当にユジンさんを愛しているのね。
自分のことよりもユジンさんのことをいつも考えて。
手術を渋っていたのもそのためだったのね。
万が一のときのユジンさんのショックを考えて…。(涙)
じゃあ、先生にお話してくるから。ユジンさんを呼んでくるわね」