優緋のブログ

HN変えましたので、ブログ名も変えました。

別れの後 九 「再会」

2005-07-19 17:07:05 | 別れの後
[ニューヨーク]

ユジンの「不可能の家」の図面がほぼ出来上がった。
あとは最後の確認をして、キム次長へ送るだけだ。

数日後、図面が出来上がってほっとしたのか、ジュンサンは体調を崩してしまった。
主治医の話ではもう投薬治療も限界へ来ているようだった。

[病院 ジュンサンの病室 ジュンサンはベッドに横たわっている]
「一年も持たなかったな…。
このまま死んだら…ユジンは怒るだろうな。
僕を信じて待っているのに。
僕はどうしても手術を受ける決心をすることができなかったんだ。ごめんよ」
目がかすむ…。
頭がボーっとして体もだるかった。
何もできなくて心が弱っているのだろう、
しきりにユジンのことが想われた。

〈ユジン、元気にしているかい。
本当に君は一途で真面目だね。
僕との約束を懸命に守っているんだね。
ユジン、高校生のころを覚えているかい?
初めて会った時の君…バスの中で居眠りをして(笑)…
あのときの君は本当に愛らしくて、かわいかった。
君は…、闇を抱えて生きるのが辛かった僕の硬く閉じた心にそっと入ってきてくれた。
君の笑顔が真っ暗だった僕の心を一筋の光で照らしてくれたんだ。

その君が、…ユジンが僕の妹かもしれないと知ったときの驚きと悲しみ。
奈落の底に落ちていく様だった。
やっと出会った、心を通わせる人、愛する人が許されぬ相手だなんて…。
自分の存在を呪ったよ。
なぜ生まれてきたんだって。
僕は逃げるようにしてアメリカへ旅立とうとした。
そして交通事故。

記憶を失った十年間。
僕はイ・ミニョンとして生きた。
ユジンが苦しんでいることも知らずに…。

才能を生かし、たくさんの恋をして幸せな日々だった。
でもーキム先輩が言うようにー物ばかりに関心があって人に関心のない人間だった。
真剣に人を好きになったことなどなかった。
そんなことに気付きもしなかったけれど。
女性はいつも僕に感心を持って向こうから近づいてきた。
そんなガールフレンドといるのは楽しかった。それが恋だと思っていた。
会って話をしたり、遊んだり…、でも仕事や勉強を犠牲にしてまですることではなかった。

ところがユジン、君は違っていた。
再び出会ってから、いつも気になって、悩んで、どうしたらいいかわからなかった。
気付いたときは好きになっていた。
辛かった…。君にはサンヒョクがいたからね。
恋とは…苦しいものだと、初めて知ったよ…。

ユジン…、君に会いたい。
まだ一年も離れていないのに…、
君の十年間の辛さは想像もつかないよ。

ユジン…ユジン…
会いたい…〉

病室のドアが開いた。
「母さん?誰?」

まさか!「ユジン?」
ユジンは驚きで声も出せずに泣いて立ちつくしていた。

「ユジン、約束を破ったね。
…どうせならもっと早く元気なときに来ればいいのに、あいも変わらず遅刻だね?」
「ごめんなさい、ジュンサン。
どうしても会いたくて、お母様に頼み込んで来ちゃった。
怒ってる?」

ジュンサンはゆっくり首を振った。
「目がかすんで良く見えないんだ。こっちへ来て顔を見せて」

ジュンサンは大切な宝物を扱うようにユジンの頬を伝う涙をぬぐった。
「この間まで家に居たんだけれど、このところ具合が悪くてね病院に舞い戻ってきてしまったというわけ。
驚かしてごめん。
…相変わらず泣き虫さんだね、ユジンは。
パリでも泣いて暮らしてたんじゃないだろうな」
「ちゃんとジュンサンとの約束を守っていたわ。大丈夫よ。
あなたがちゃんと手術を受けて元気にしてるって信じていたもの。
どうして手術を受けないの?」
「ユジン、僕は弱い人間だよ。ようやく気が付いた。
死ぬのが怖いんだよ。君のいない世界に行くのが。
ユジンは、手術を受けて、もし…僕が死んでも後悔しない?」

「ねえジュンサン、人間っていつかは死ぬのよ。
もしかしたら私のほうが先に事故で死んじゃうかもしれないわ。
お願い、手術を受けて。
このままあなたの命の炎が少しづつ小さくなってゆくのを見ているしかないご両親の気持ちを考えて。
ジュンサン、生きようとしてほしいの。
このままじゃ私だってあなたを追いかけないでフランスへ行ったこと後悔しなくちゃならないわ。

私のことだったら心配しないで、大丈夫だから。
あなたが二度目の交通事故でまだ意識が戻らなかったときに、春川の母に言ったことがあったの。
ただ生きてさえいてくれたらいいって。
また私のことを忘れてしまっても、私のことを愛してくれなくてもいいって。
とにかく目覚めて戻ってきてくれることを祈っているのって。
今も同じ気持ちよ。
大丈夫、今までも何回も離れ離れになったって会うことができたじゃない。
きっと成功する。信じてるわ」
「わかったよ…、ユジン。
いやわかっていたんだ、君が一人でフランスにいることを知った時から。
でも勇気がなかった。まだ死ぬのが怖かったんだ。
ごめん、ユジン、心配させて。…」

ジュンサンはユジンを引き寄せ抱きしめた。
ユジンのぬくもりが伝わった。
『生きたい、ユジンと共に』
ジュンサンは強くそう思った。

「ユジン、一つだけ約束して欲しい。
僕がどうなっても、フランスへ帰って勉強を続けること。
僕が中途半端なことが嫌いなこと知っているだろう?
帰ったら、今度は毎日メールをやりとりしよう。
君が今学んでいることを教えてよ。
君も勉強になるし、一石二鳥だ。(笑)
母さんと話がしたいんだ、呼んできてくれる?」
「わかったわ、約束する。」

「母さん」
「ごめんなさい、ジュンサン。約束を破ってしまったわ。あなたにどうしても手術を受けてほしかったの」
「いいんです、母さん。ユジンと会わせてくれてありがとう。
目の見えるうちに会えてよかった。
手術を受ける決心もつきました。
今まで母さんたちの気持ちも考えず申し訳ありませんでした。

母さん、お願いがあるんです。聞いていただけますか」
「ええ、ジュンサン、なあに」
「もし、手術の後万が一僕が死んだり、意識が戻らなかったり、また記憶をなくしてしまったときー考えたくはないでしょうがーその時はユジンを守ってやってください。僕の替わりに。
彼女は今勉強の途中です。どうぞそれが続けられるよう助けてあげてください。お願いします。
彼女は辛い決断をしてフランスへ渡ったんです。僕のためにだめにしたくない。彼女の将来のためにもお願いします」
「わかったわ。必ず守るから。
あなたは、ジュンサン、本当にユジンさんを愛しているのね。
自分のことよりもユジンさんのことをいつも考えて。
手術を渋っていたのもそのためだったのね。
万が一のときのユジンさんのショックを考えて…。(涙)

じゃあ、先生にお話してくるから。ユジンさんを呼んでくるわね」

鐘崎 ベル・ファクトリー

2005-07-17 21:54:24 | 日々の歌
イベント広場
滴れる 汗も拭わず 大皿を
        回す芸人 拍手喝采

七夕館
とりどりの 和紙や折り紙 ちりばめて
            音と光と 色の供宴

藤城清治のメルヘンサロン
濃淡の 異なる紙を 駆使して
      切り抜き貼りつけ 夢の世界を


祝!ブログランキング初登場

2005-07-16 23:35:05 | 日々の歌
初登場 なんと19位に ランクイン
         感謝感激 雨霰、嬉!

16日23時04分現在16位 550PTでした。
皆様のご協力に感謝いたします。

ランキング 日に何度でも 開いてる
        こんなに嬉しい ものとは知らず

あの日から 七 「再会」

2005-07-15 13:35:30 | あの日から
[十五年前 ニューヨーク ミヒの家]

「おとーさーん、お帰りなさーい。」

三歳位のかわいらしい男の子が私に向かって駆けてきた。
〈ああ、この子がミヒさんの子供だな。〉

「お父さん、やっと帰ってきてくれたんだね。僕ずーっと待ってたんだよ。」
男の子はニコニコと笑って、息を切らしながらそう言った。

「僕の名前は?」

「ジュンサン…。どうして名前を聞くの?
…おじさんは…、お父さんじゃないの?」
ジュンサンは悲しそうな顔をした。

「ごめんよ。おじさんはお母さんの友達なんだ。お母さんはいる?」

「お母さんは今お出かけしていていません。
でも本当にお父さんじゃないの?
いつもお母さんが見せてくれる写真にとっても似てるのに…。」


「ねえ、ジュンサン君。君もピアノが弾けるのかな?」

「うん、お母さんに教えていただいたから弾けるよ。僕とっても上手なんだよ。」

「そうか、じゃあ、お母さんがお帰りになるまでジュンサン君のピアノを聞かせてもらってもいいかな?」

「うん、いいよ。」


私はジュンサンを抱き上げると一緒に家の中へ入っていった。



[一時間後]

「お母さん、お帰りなさい。
お客様がいらっしゃってますよ。お母さんのお友達で、お父さんによく似たおじさま。」

「お友達?」


「ミヒさん、お帰りなさい。
お手伝いさんに無理を言ってあげてもらいました。留守中にお邪魔して申し訳ありません。」

「あなたでしたか。お出でにならないでくださいと申し上げましたのに…。

ジュンサン、向こうへ行ってアンジュマにおやつをいただきなさい。
おかあさんはおじさまとお話があるの。」

「はい。あのね、お母さん、僕おじさんとお友達になったの。
おじさんにピアノを弾いてあげたの。とっても上手だって褒められたよ。
それからいっぱい遊んでもらったの。

おじさん、また遊びに来てね。」

「そう、遊んでいただいたの。よかったわね、ジュンサン。」



「かわいいお子さんですね。」

「…ペクさんにお聞きになったでしょう?あの子に父親はいません。
どういう意味かお分かりになりますよね。
ジュンサンには父親は仕事でずっと海外にいて帰ってこないと話してあります。

…そういうわけですから、私達親子のことはどうか放っておいてください。」


「そんなことを気にする必要はありません。

私の父も庶子なんですよ。だから父はアメリカに来た。
私とて故国(くに)にいては肩身の狭い思いをしなければならないかもしれないが、ここは自由の国です。

私はジュンサン君がとても気に入りました。

今日はこれで失礼しますが、またお邪魔させてくださいね。
お願いしますよ。ジュンサン君とも約束したのですから。」


「……」



[その一週間前]

私とミヒは友人宅で開かれたパーティーで出会った。

彼女の美貌と、その細い指先から奏でられる哀愁を帯びたピアノの音色に私は魅せられた。


「彼女は?」

「ああ、カン・ミヒって言うんだ。美人だろう?

もう四・五年前になるかな。
ドイツ留学中に国際コンクールに入賞して、結構注目を集めた人なんだ。そのままヨーロッパを中心に活動するのかと思われたんだが、いったん帰国してその後病気をしたらしくってしばらく活動してなかったんだ。

最近活動を再開して、これからの注目株だよ。僕も応援しているんだ。」

「紹介してくれないか?応援しているってことは知り合いなんだろ?」

「彼女、独身だけど子供がいるんだ。わけありらしい。
僕も詳しくは知らないけれど。」友人は声を潜(ひそ)めて話した。

「構わないから紹介してくれよ。」


ミヒの演奏が終わった。

「ミヒさん、こちら僕の友人でセウングループのイ理事。将来の社長候補ですよ。
あなたに目を着けたらしくって、さっきから紹介しろってうるさいんですよ。(笑)」

「まあ、相変わらずペクさんたら冗談ばっかりおっしゃって。」

ミヒは艶然(えんぜん)と微笑んだが、少々迷惑そうな顔をした。

「本当ですよ、ミヒさん。初めまして。
素晴らしい演奏でした。
ぜひまた、お近くでお聞きしたいものです。今度お宅にお伺いしてもよろしいでしょうか?」

「困りますわ。
まだ修行中の身ですし、こちらはほんの仮住まいで、お客様をお招きするような家ではございませんから…。」



[十五年後]

「ジュンサン君…」
ベッドに座る彼の姿に私は言葉を失った。

十二年ぶりに会った彼は十八歳の逞しい青年に成長していた。

しかし、あの幼い頃、初めて出会った頃のきらきらと輝いていた瞳の色は失われていた。

彼の目には何も映っていないかのようだった。


「意識が戻ってからというもの、ずっとあんなふうなの。
毎日ぼうっと窓の外を眺めたりするだけで、…記憶が戻らないだけじゃなくて、生きる気力を失ってしまったようなの。

記憶が戻らないのも、あの子自身が思い出すのを拒んでいるとしか思えないわ。
もう体は元に戻っているのに…、あの子にとっては辛いだけの記憶なのよ。

父親がいないだけでも辛くて寂しかっただろうに、私は自分の辛さに耐えるのが精一杯であの子の気持ちを思(おも)い遣(や)ってあげることができなかった。
ごめんなさい、ジュンサン。


あの時…、ジュンサンが六歳の時、韓国に帰らなければ、あなたの言葉を振り切って行かなければこんなことにはならなかったかもしれないのに…。」


「ミヒさん、私が父親になろう。
今からでも遅くはない、結婚しよう。

君がまだヒョンスさんという人のことを忘れられないのは分かっている。
それでもいい。

私の為じゃない、ジュンサン君のために…。」


こうして私とミヒは結婚した。

アン医師や弁護士とも相談し、記憶を失ったままのジュンサンには新しい記憶を植え込む『治療』を施し、戸籍を整理して私の実子とすることにした。



「ミヒ、この子には炯(ミニョン・明るく輝く美しい石)という名をつけよう。
ミニョン、お前は私の子として生まれ変わるのだ。
新しい人生を生きるのだよ。早く元気になっておくれ。」

いまだ催眠治療から目覚めていないジュンサンに私は語りかけた。



〈ああ、もうジュンサンも私も苦しまなくて済む。これでやっと楽になれる。
ジュンサン、もう苦しまなくていいのよ。安らかに眠って。
今度目覚めるときはミニョンとして、幸せなイ・ミニョンとして目覚めるのよ…。〉
ミヒは心から安らぎを覚えていた。