「ああ、寒い。そろそろマフラーとかコート、冬物の用意をしないとだめだわ」
ユジンは大学からの帰り、枯葉の舞い散る歩道を急いでいた。
今日中に書き上げなければならないレポートがある。
「今日は徹夜かな?」
公園の横を通り過ぎようとした時、ふと、ユジンの足が止まった。
懐かしい…匂いがした。
「落ち葉を焼いているのね…」
ユジンはしばらくそこ其処に佇んで(たたずんで)箒をゆっくりと動かしている老人の姿を見ていた。
そんなユジンの姿に気づくと、その老人は箒を動かしていた手を休めて、自分をじっと見つめているユジンにちょっと不思議そうな顔をして微笑んだ。
ユジンは少し慌てて老人に会釈をすると、思い直したようにまた歩き出した。
部屋に帰るとドアにメモが挟んである。
「荷物を預かっています」
管理人のおばさんからだ。
「ユジンです。荷物をいただきに来ました」
マルシアンのキム次長からだった。
「ユジンさん、しばらく。
元気にしてますか。
こちらは相変わらず。
ユジンさんから荷物を預かったまま、何も返事をしないで申し訳なかった。
例のものは仰せの通り、確かにミニョンの部屋の窓辺へ置いてきたよ。
俺は何も言わなかったけれど、ミニョンにはすっかり分かっていたようだった。
ところで、ばあやさんがうるさいから、たまにはメールでも出してやってよ。
ユジンさんから荷物が来たときも
『なんで私にじゃないのよ!』って大騒ぎだったからさ。
『ユジンがいないから忙しい。』っていつもこぼしているんだ。慰めてやって。
例の四人組はそれぞれ仕事に頑張っているようだ。
特にサンヒョクさんは、最近仕事の鬼になってきたらしいよ。
もっとも彼なら鬼といっても怖くないがね。
同封したものは一応俺からのプレゼント(ということにしておいて。)
寒さに向かって、風邪なんか引かないように。
マルシアンにて、キム」
綺麗な包装紙を明けてみると、中から浅緑色のマフラーとポラリスのネックレスが出てきた。
〈いつかあなたが貸してくれたマフラーに似た色ね。
ジュンサン、ありがとう。〉
「さあ、頑張ろう。」
手早く食事を済ませるとレポートに取り掛かった。
パリに来て半年が過ぎるころからようやくここでの生活にも慣れ、勉強も順調になってきたとはいえ、何しろフランス語が充分にできないままの留学だったから、語学と専門科目の両方をほかの人の二倍勉強しなければならなず大変だった。
大学での勉強は相変わらずきついけれども忙しさがユジンを救ってくれていた。
ここにいる間はとにかく夢中になって勉強しようと決めていた。
〈私は、パリに来てから韓国の友人たちにも意識して連絡を取らないようにしてきた。
ジンスクやサンヒョクと話せばつい甘えて辛いと愚痴が出てしまいそうでいやだった。
ジョンアさんと話せばジュンサンのことが聞きたくなるに決まっている。
ジョンアさんは仕事でマルシアンに出入りしているのだから、キム次長に会えばジュンサンの話が出ても不思議はない。
ジュンサンのことを聴けば会いたい気持ちを抑えることができなくなってしまいそうで…。
みんなごめんね。きっと怒っているでしょうね。許してね。〉
夜、勉強に疲れて一息入れようと窓を開けてみる。
夜の冷たい空気が頬をなでてゆく。
星が美しく瞬(またた)いている。
ポラリスを見上げながら
「ジュンサン」と小さく呼んでみる。
「ジュンサン、私はあなたとの約束を守って、ちゃんと食べて、ちゃんと寝て元気に暮らしているわ。安心してね。
ジュンサン、ポラリスのネックレスをくれたって事は、会いに行ってもいいってこと?」
彼が微笑んでいる気がした。
そのとき電話のベルがなった。
相手は思いがけない人だった。
カン・ミヒ―アメリカにいるジュンサンの母親からだった。
「ユジンさん、お元気。お久しぶりね」
「ジュンサンのお母様、お久しぶりです。お変わりございませんか」
「ユジンさん、今日はお願いがあって電話しました。
あのね、あなたにこんなお願いはしちゃいけないのはわかっているの。あなた達の仲を壊したのはこの私なんだから。でも、あなたしかできないの。お願い助けてくださる?」
「お母様、どうなさったんですか」
「ミニョンが、ジュンサンが危ないの」
「えっ」
「まだ手術を受けていないの。薬で進行を遅らせているんだけど、もうそれも限界に来ていて…、
手術を受けなければ死ぬのを待つだけなの。
お願い、ジュンサンを説得してちょうだい。
あなたにしかできないの。お願いユジンさん」
ユジンは大学に欠席の届けを出し、急いでアメリカへ向かった。
ユジンは大学からの帰り、枯葉の舞い散る歩道を急いでいた。
今日中に書き上げなければならないレポートがある。
「今日は徹夜かな?」
公園の横を通り過ぎようとした時、ふと、ユジンの足が止まった。
懐かしい…匂いがした。
「落ち葉を焼いているのね…」
ユジンはしばらくそこ其処に佇んで(たたずんで)箒をゆっくりと動かしている老人の姿を見ていた。
そんなユジンの姿に気づくと、その老人は箒を動かしていた手を休めて、自分をじっと見つめているユジンにちょっと不思議そうな顔をして微笑んだ。
ユジンは少し慌てて老人に会釈をすると、思い直したようにまた歩き出した。
部屋に帰るとドアにメモが挟んである。
「荷物を預かっています」
管理人のおばさんからだ。
「ユジンです。荷物をいただきに来ました」
マルシアンのキム次長からだった。
「ユジンさん、しばらく。
元気にしてますか。
こちらは相変わらず。
ユジンさんから荷物を預かったまま、何も返事をしないで申し訳なかった。
例のものは仰せの通り、確かにミニョンの部屋の窓辺へ置いてきたよ。
俺は何も言わなかったけれど、ミニョンにはすっかり分かっていたようだった。
ところで、ばあやさんがうるさいから、たまにはメールでも出してやってよ。
ユジンさんから荷物が来たときも
『なんで私にじゃないのよ!』って大騒ぎだったからさ。
『ユジンがいないから忙しい。』っていつもこぼしているんだ。慰めてやって。
例の四人組はそれぞれ仕事に頑張っているようだ。
特にサンヒョクさんは、最近仕事の鬼になってきたらしいよ。
もっとも彼なら鬼といっても怖くないがね。
同封したものは一応俺からのプレゼント(ということにしておいて。)
寒さに向かって、風邪なんか引かないように。
マルシアンにて、キム」
綺麗な包装紙を明けてみると、中から浅緑色のマフラーとポラリスのネックレスが出てきた。
〈いつかあなたが貸してくれたマフラーに似た色ね。
ジュンサン、ありがとう。〉
「さあ、頑張ろう。」
手早く食事を済ませるとレポートに取り掛かった。
パリに来て半年が過ぎるころからようやくここでの生活にも慣れ、勉強も順調になってきたとはいえ、何しろフランス語が充分にできないままの留学だったから、語学と専門科目の両方をほかの人の二倍勉強しなければならなず大変だった。
大学での勉強は相変わらずきついけれども忙しさがユジンを救ってくれていた。
ここにいる間はとにかく夢中になって勉強しようと決めていた。
〈私は、パリに来てから韓国の友人たちにも意識して連絡を取らないようにしてきた。
ジンスクやサンヒョクと話せばつい甘えて辛いと愚痴が出てしまいそうでいやだった。
ジョンアさんと話せばジュンサンのことが聞きたくなるに決まっている。
ジョンアさんは仕事でマルシアンに出入りしているのだから、キム次長に会えばジュンサンの話が出ても不思議はない。
ジュンサンのことを聴けば会いたい気持ちを抑えることができなくなってしまいそうで…。
みんなごめんね。きっと怒っているでしょうね。許してね。〉
夜、勉強に疲れて一息入れようと窓を開けてみる。
夜の冷たい空気が頬をなでてゆく。
星が美しく瞬(またた)いている。
ポラリスを見上げながら
「ジュンサン」と小さく呼んでみる。
「ジュンサン、私はあなたとの約束を守って、ちゃんと食べて、ちゃんと寝て元気に暮らしているわ。安心してね。
ジュンサン、ポラリスのネックレスをくれたって事は、会いに行ってもいいってこと?」
彼が微笑んでいる気がした。
そのとき電話のベルがなった。
相手は思いがけない人だった。
カン・ミヒ―アメリカにいるジュンサンの母親からだった。
「ユジンさん、お元気。お久しぶりね」
「ジュンサンのお母様、お久しぶりです。お変わりございませんか」
「ユジンさん、今日はお願いがあって電話しました。
あのね、あなたにこんなお願いはしちゃいけないのはわかっているの。あなた達の仲を壊したのはこの私なんだから。でも、あなたしかできないの。お願い助けてくださる?」
「お母様、どうなさったんですか」
「ミニョンが、ジュンサンが危ないの」
「えっ」
「まだ手術を受けていないの。薬で進行を遅らせているんだけど、もうそれも限界に来ていて…、
手術を受けなければ死ぬのを待つだけなの。
お願い、ジュンサンを説得してちょうだい。
あなたにしかできないの。お願いユジンさん」
ユジンは大学に欠席の届けを出し、急いでアメリカへ向かった。