優緋のブログ

HN変えましたので、ブログ名も変えました。

別れの後 八 「晩秋のパリで」

2005-07-15 13:18:42 | 別れの後
「ああ、寒い。そろそろマフラーとかコート、冬物の用意をしないとだめだわ」
ユジンは大学からの帰り、枯葉の舞い散る歩道を急いでいた。
今日中に書き上げなければならないレポートがある。
「今日は徹夜かな?」

公園の横を通り過ぎようとした時、ふと、ユジンの足が止まった。
懐かしい…匂いがした。

「落ち葉を焼いているのね…」
ユジンはしばらくそこ其処に佇んで(たたずんで)箒をゆっくりと動かしている老人の姿を見ていた。
そんなユジンの姿に気づくと、その老人は箒を動かしていた手を休めて、自分をじっと見つめているユジンにちょっと不思議そうな顔をして微笑んだ。
ユジンは少し慌てて老人に会釈をすると、思い直したようにまた歩き出した。

部屋に帰るとドアにメモが挟んである。
「荷物を預かっています」
管理人のおばさんからだ。
「ユジンです。荷物をいただきに来ました」

マルシアンのキム次長からだった。
「ユジンさん、しばらく。
元気にしてますか。
こちらは相変わらず。

ユジンさんから荷物を預かったまま、何も返事をしないで申し訳なかった。
例のものは仰せの通り、確かにミニョンの部屋の窓辺へ置いてきたよ。
俺は何も言わなかったけれど、ミニョンにはすっかり分かっていたようだった。

ところで、ばあやさんがうるさいから、たまにはメールでも出してやってよ。
ユジンさんから荷物が来たときも
『なんで私にじゃないのよ!』って大騒ぎだったからさ。
『ユジンがいないから忙しい。』っていつもこぼしているんだ。慰めてやって。

例の四人組はそれぞれ仕事に頑張っているようだ。
特にサンヒョクさんは、最近仕事の鬼になってきたらしいよ。
もっとも彼なら鬼といっても怖くないがね。

同封したものは一応俺からのプレゼント(ということにしておいて。)

寒さに向かって、風邪なんか引かないように。
                     マルシアンにて、キム」

綺麗な包装紙を明けてみると、中から浅緑色のマフラーとポラリスのネックレスが出てきた。
〈いつかあなたが貸してくれたマフラーに似た色ね。
ジュンサン、ありがとう。〉

「さあ、頑張ろう。」
手早く食事を済ませるとレポートに取り掛かった。

パリに来て半年が過ぎるころからようやくここでの生活にも慣れ、勉強も順調になってきたとはいえ、何しろフランス語が充分にできないままの留学だったから、語学と専門科目の両方をほかの人の二倍勉強しなければならなず大変だった。
大学での勉強は相変わらずきついけれども忙しさがユジンを救ってくれていた。
ここにいる間はとにかく夢中になって勉強しようと決めていた。

〈私は、パリに来てから韓国の友人たちにも意識して連絡を取らないようにしてきた。
ジンスクやサンヒョクと話せばつい甘えて辛いと愚痴が出てしまいそうでいやだった。
ジョンアさんと話せばジュンサンのことが聞きたくなるに決まっている。
ジョンアさんは仕事でマルシアンに出入りしているのだから、キム次長に会えばジュンサンの話が出ても不思議はない。
ジュンサンのことを聴けば会いたい気持ちを抑えることができなくなってしまいそうで…。
みんなごめんね。きっと怒っているでしょうね。許してね。〉

夜、勉強に疲れて一息入れようと窓を開けてみる。
夜の冷たい空気が頬をなでてゆく。
星が美しく瞬(またた)いている。
ポラリスを見上げながら
「ジュンサン」と小さく呼んでみる。

「ジュンサン、私はあなたとの約束を守って、ちゃんと食べて、ちゃんと寝て元気に暮らしているわ。安心してね。
ジュンサン、ポラリスのネックレスをくれたって事は、会いに行ってもいいってこと?」
彼が微笑んでいる気がした。

そのとき電話のベルがなった。
相手は思いがけない人だった。
カン・ミヒ―アメリカにいるジュンサンの母親からだった。

「ユジンさん、お元気。お久しぶりね」
「ジュンサンのお母様、お久しぶりです。お変わりございませんか」
「ユジンさん、今日はお願いがあって電話しました。
あのね、あなたにこんなお願いはしちゃいけないのはわかっているの。あなた達の仲を壊したのはこの私なんだから。でも、あなたしかできないの。お願い助けてくださる?」
「お母様、どうなさったんですか」
「ミニョンが、ジュンサンが危ないの」
「えっ」
「まだ手術を受けていないの。薬で進行を遅らせているんだけど、もうそれも限界に来ていて…、
手術を受けなければ死ぬのを待つだけなの。
お願い、ジュンサンを説得してちょうだい。
あなたにしかできないの。お願いユジンさん」

ユジンは大学に欠席の届けを出し、急いでアメリカへ向かった。

最近買った本

2005-07-12 16:29:59 | 読書
昨日古本屋で本を買ってしまい、いい加減読まずに積んである本が増えてきたので一覧にしてみた。

①子どもに伝えたい〈三つの力〉     齋藤孝
②身体感覚を取り戻す          齋藤孝
③日韓歴史論争 海峡は越えられるか    櫻井よしこ 金 両基
④僕が親日になった理由         金 智羽
⑤使える!「徒然草」         齋藤孝
⑥小説敬台院              大塚雅春
⑦今韓国人は何を考えているのか     豊田有恒
⑧物語 韓国史              金 両基
⑨韓国併合への道              呉 善花
⑩韓国人のしくみ              小倉紀蔵
⑪韓国と日本の歴史地図          武光 誠

⑥~⑪が昨日買ったもの。
①~⑤がそれ以前に最近買ったもの。

⑨と⑩は前に図書館で一度借りて読んだ。
⑥もむか~し親戚の家で借りて読んだ。懐かしい。

これ以外にも図書館で借りて借りて読んでいる途中や、読まずに返してしまっているのも結構ある。
あ~、それから「大人のための○○ドリル」の類もつい買ってしまい〈苦笑〉読んだだけで使わずじまいが…。

この一覧表のうち何冊「読みました」とご紹介できるのでしょうか???

読書より 「積読(つんどく)」ばかりが 増えてゆく
              手に取るときの 想いばかりが…

つい、立ち寄る

2005-07-12 10:10:19 | 日々の歌
帰りがけ まだ行っていない 古書店の
          近く通ると 思いつき、つい・・・

いつ読むの 家にはたんと あるのにさ
         また買い込んで 積み重なるのだ

その昔 胸震わせて 見つめてた
      初恋の人に 再会(であっ)たように 


あの日から 六 「イ・ミニョン」

2005-07-12 09:51:30 | あの日から
あの日…
私はパリのオープンカフェであなたを見つけた。

「ジュンサン…?」

なぜあなたがここにいるの?
コーヒーを飲みながら友達と談笑するあなたの横顔に、私の視線は釘づけになった。
ジュンサン…なの?

でも…違う。
ジュンサンじゃない。

あなたの瞳の色は明るく、あなたは柔らかな微笑をうかべていた。
秋だというのに、あなたの周りだけあたたかな春風が吹いているようだった。

ジュンサンがあんなふうに笑うのをチェリンは見たことはなかった。
いつも人を寄せ付けないような、冷たい瞳で遠くを見ていたジュンサン…。

ジュンサンと瓜二つのあなたは誰なの?
私は思わず席を立ってあなたに話しかけた。

「こんにちは。ごめんなさい、こちらに座ってもいいかしら。」

あなたは突然のことに驚いていたが、いやな顔もせず

「どうぞ、僕が韓国語が話せるってどうして分かったんですか?」
と言った。

「なんとなく、同胞かなと思って。あなたは韓国人じゃないんですか。」

「ええ、アメリカから来たんです。両親は韓国人ですけれど。」

「ごめんなさいね。
私から話し掛けたのに名乗らなくて。
オ・チェリンと言います。よろしく。

ファッションデザインの勉強に来ているの。あなたは?」

「僕は、イ・ミニョン。
友達のところに遊びに来ているんです。
僕も近々こちらに短期留学するので、その下見も兼ねて。」


「じゃあ、ミニョン、僕はここで失礼するよ。
チェリンさんも、またお会いしましょう。」

「あら、ごめんなさいね。お話していたのに私が横取りしたみたいになっちゃって。さよなら。」


「お友達に悪いことしちゃったかしら。」

「大丈夫ですよ。
もともと予定があってそろそろ行かなくてはと言っていたんですから。」

「ミニョンさんは今日これから何か予定があるのかしら?
もし良かったら一緒にお食事でもいかが?」


ミニョンは笑って
「チェリンさんはずいぶん積極的な方ですね。どうして僕に関心をもたれたんですか。」

「だって、ミニョンさん、とてもハンサムで素敵なんですもの。
私一目惚れしてしまったみたい。こんなこといったら失礼かしら?」

「いいえ、そんなことはありませんよ。正直な方なんですね。
僕も美しい人は大好きですよ。

チェリンさんはとても美人だから、僕たちは仲良くなれそうですね。」ミニョンは愉快そうに笑った。



その日からチェリンとミニョンは交際を始めた。


ミニョンはチェリンにとって理想的な恋人だった。


いつも優しくチェリンを楽しませてくれたし、かといって束縛することもなかった。




[空港にて]

「ミニョンさん?私よ、チェリン。今どこにいると思う?空港よ。」

「空港?空港ってどこの?」

「ニューヨークよ。あなたを追いかけてきちゃったわ。
もうすぐ会えるのは分かっていたんだけれども、来ちゃった。迎えに来てくださる?」


「(笑)チェリン、僕がいなかったらどうするつもりだったの。今迎え行くから待ってて。」



[ミニョンの家]

「母さん、前に話したフランスの彼女。(笑)」

「お母様、初めまして。オ・チェリンと申します。突然お邪魔して申し訳ありません。」

「いらっしゃい。どうぞお入りになって。
ミニョンからお付き合いしている人がいることは聞いてました。お噂どおり綺麗な方ね。

でも、今日お出でになってよかったわ。明日から外出する予定だったのよ。」

「まあ、そうなんですか。ラッキーでしたわ。

あと一週間でミニョンさんがフランスに来ることは分かっていたんですが、急に会いたくなってしまって。
ミニョンさんのお宅にも伺って、お母様にもお会いしたかったですし。

突然お伺いして申し訳ありません。」


「チェリン、座ってゆっくりして。
母さん、パクさんにコーヒー頼んでくるから。」


「チェリンさん、ミニョンと会うようになってからどのくらいなの?

初対面なのにこんなこと聞いて気を悪くしないでね。」

「いえ、構いませんわ。まだ一ヶ月くらいです。

ミニョンさん、アメリカにもお付き合いしている方がいらっしゃるんでしょうね。

突然お伺いしたのに、お母様驚かれないのは、こういうこと初めてではないからなんですね。」


「チェリンさん、あの子はああ見えて何人もの方と平気でお付き合いする人間ではないの。
だからたぶん今はあなただけよ。

もちろんガールフレンドくらいの人はたくさんいるでしょうけれども。

ただね、いつもあまり長続きしないのよ。
たいてい相手の方が離れていってしまうの。

ミニョンは優しいけれども冷たいところがあって、仕事や勉強に打ち込んでいるときはそちらを優先してしまうし、自分から積極的にならないから女の人にすれば淋しいんじゃないかしら。

まだミニョンは本当の恋に出会ってないのね、きっと。

母親なんてそんなことまで心配して…、愚かね。

でも、チェリンさんは大丈夫そう。
あなたは本気みたいだし、しっかりしていて長続きしそうだわ。頑張ってね。(笑)」



「二人で仲良さそうに何話してるの?まさか、僕の悪口?」

「そんなことお母様とお話しするわけないでしょ、ミニョンさん。
あなたが浮気してないかお母様に聞いてたの。」

「僕はチェリン一筋だよ、ねえ、母さん。
今日だって電話貰ってすぐ駆けつけたじゃないか。
こんなに優しい恋人なんて、なかなかいるもんじゃないだろ。」


「そうね、母さんはお邪魔のようだし、用事があるからちょっと出かけてくるわ。
チェリンさん、どうぞゆっくりしていって。よかったら夕飯も用意するから食べていって。」

「はい、ありがとうございます。」

「いってらっしゃい。」


〈思い切ってニューヨークに来てよかった。お母様にも会えたし、どうやら私のことを気に入ってくださったようだ。
私は絶対ミニョンさんのことを諦めたりしないわ。何があっても。〉



パリのカフェ 柔らかい春の 風のよう
         微笑むあなた 亡き人に似て

こんどこそ 私は恋を 実らせる
        もう泣きはしない なにがあっても




別れの後 七 「揺れる心」

2005-07-12 09:44:49 | 別れの後
[四「ニューヨークで③」からの続きです。ジュンサンの部屋で…]

「おはようございます。ミニョンさん」

家政婦のパクさんがやってきた。
いつものようにコーヒーを淹れてくれる。
「あら、お顔の色がちょっと良くないようですね。どうかなさいましたか」
「いや、大丈夫です。夕べ考え事をしていて、ちょっと寝不足なだけですから」
「そうですか。無理はいけませんよ。今日はお休みになったほうがいいんじゃあありませんか。…では、私は向こうに居りますから、御用があったらおっしゃってください」

その時ふいに、ジュンサンと姉の思い出を語るヒジンの言葉が頭をよぎった。

「ジュンサンお兄ちゃんが死んだとき、お姉ちゃんは悲しみのあまり死んじゃうんじゃないかと思ったくらいでした…」

もしも、もしも僕が死んだら…
君は耐えられるのだろうか…。
身を悶(もだ)えて嘆き悲しむユジンの姿が見えるような気がした。
心臓をえぐり取られるように胸が痛かった。

ユジン…、ユジン…、
僕は…どうしたら良いんだ…。

ジュンサンは眩暈(めまい)を感じた。
体がぐらりと傾き支えることができなかった。
「パクさん…」

[ジュンサンのかかりつけの病院]
気がついたとき、ジュンサンはベッドに寝かされていた。

「気が付かれましたか、ミニョンさん。ご気分はいかがですか。
やっぱりあの時お休みいただけばよかったですね。申し訳ありません。
奥様は今日お仕事でおいでにななれないそうでございます。とてもご心配なさってました」
「パクさんにも心配かけてしまいましたね。ごめんなさい」
「いいえ…、先生は、心労だろうとおっしゃってました。
大したことはないと思うが、念のため今日は病院で様子を見るようにと」
「パクさん、今日はもうお帰りになって結構です。ずいぶん超過勤務になってしまった。(笑)
また明日お願いします」
「そうでございますか。では、そうさせていただきます。
では、お大事になさってください。看護師さんにはお伝えしておきます」

翌日ジュンサンは一人で退院した。
「何か心配事でもありますか。ストレスも病気の進行の原因になりますから、あまり考え込まないように」と主治医から注意を受けた。

[自宅マンション]
家に帰ると、パクさんが待っていてくれた。
「おはようございます。だいぶお顔の色も良くなったようでございますね。何かお飲みになりますか?
今日はコーヒーでないほうがいいですね。ハーブティーにでもなさいますか?」
「ええ、そうですね、そうしてください」

ジュンサンがふと窓辺に目をやると、見慣れない小ビンがおいてあった。
「パクさん、これは?」
「ああ、昨日キムさんという方がおいでになって、渡すのを忘れたからとおっしゃって、ただ窓際において置いてくださいというので…。
入院していることをお話したらとてもびっくりなさってました」

そのとき、電話のベルが鳴った。
キム次長からだった。
「ああ、ミニョン、大丈夫か?申し訳なかった。俺が言い過ぎたよ。
あの後気になって、渡すものもあったし、行って見たら倒れたっていうから。…」
「もう大丈夫です。心配かけました。先輩にユジンのこと教えていただいてよかったです。知らないでいたら・・・・・
それより、先輩、あれは誰からです?まさか、先輩からのプレゼントですか?」
「あ、いや、そう思っててもらってもいいよ」
キム次長は言葉を濁した。

「ユジンからですね。黙っててくれっていわれたんですね」
「ああ、全てお見通しってわけだ。
お前もまさか手紙も寄こすなと言ったわけでもあるまい。直接送ればいいのに、ユジンさんも。
とにかく、この間は言いすぎたが、このままではだめだぞ」
「わかっています。ただ、先輩、もう少し待ってほしいんです。あの図面が出来上がるまで…、
ユジンに、まだ手術していないこと知らせないでください。
心配させてすみません」
「ああ、あわてなくてもいいが、お前の体が…待ってくれないと困るから…」

キム次長からの電話を切った後、ユジンからの贈り物を手にとってみた。

ふたを開ける。
潮の香がした。


 母なる海の懐かしいかおり…。

 ユジンと行った最初で最後の海…。

 美しい思い出。

 海―命の源…。

 運命に勝てるコイン。

 ユジンは僕を信じている。
 
 ユジンは未来を信じている。

 また必ず会えることを。

 僕が元気になることを。

 なぜユジンは信じられるのだ?

 僕が死ぬかも知れぬことを知っているのに。

ジュンサンは、自分の心の内側を覗き込んだような気がした。

〈恐れているのは僕自身だ。
   死を…
ユジンのいない世界に行くことを…〉